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怒れる暴君3
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鉄製のドアを蹴破るなんて、人間業とは思えないような事を目の当たりにして一瞬固まってしまった。
だが、呆けている場合ではない。今の尊は危険だ。何をしでかすか分からない。
助はすぐさま後を追いかける。
部屋に入ると、小鳥にのし掛かっている六道に、尊が勢いよく突っ込んでいく所だった。
尊は小鳥から六道を引き離すと、能面のような感情の消えた表情で六道の首を絞め上げた。
「尊っ!!」
あの勢いで絞め続けるのはまずい。
止めさせなければと、名前を読んで駆け寄ろうとして、ベットに居るままの小鳥が目に入る。
起き上がろうとしているのだが、体に力が入らないのか途中で崩れてしまう。
「小鳥っ、どうした!?」
抱き起こして顔を覗き込む。小鳥の雀色の瞳は潤んでいつも以上にぼんやりとしている。クタリと助に体を預け、少し荒い呼吸を繰り返していた。
「くそっ、何か薬使われたのか!」
「…っんぅ」
苦しそうに顔を歪め、小鳥は閉じそうな瞼を必死に押し上げる。
「助さんっ!」
「アクア、小鳥を頼む!」
遅れて部屋に入ってきたアクアに小鳥を預け、助は尊を止めにかかった。
「尊やめろ!それ以上やったら死ぬぞ!!」
ありったけの力で六道の首を絞める尊の腕を掴むがびくともしない。
「おい尊やめろっ!聞こえないのか!?」
凍りきった冷たい目で、無表情に六道の首を掴んで離さない尊にぞっとして、冷たい汗が背中を流れる。
尊には多分少しも助の声は届いていない。
「…尊、小鳥が何か薬を使われてる。六道さんを殺したら、何の薬か聞き出せなくなる。」
闇雲に怒鳴ってもダメだ。
ゆっくり言い聞かせるように言葉を発すると、ようやく尊の瞳に少し色が戻り、六道を離した。
「尊さん、ことりんが呼んでる。」
その瞬間を待っていたかのように、静かにアクアが声を掛ける。
アクアの呼び掛けに、尊はゆっくりと小鳥に近付いた。
「…み、こ、と。みこ、とっ。」
「小鳥、大丈夫だ。ここに居る。」
小鳥が、力の入らない手をアクアに支えられながら必死に尊に伸ばすと、尊はしっかりとその手を包んだ。
「すぐ、家に連れて帰ってやる。」
先程までの、背筋が凍るような冷たい空気をいっさい感じさせない、優しい穏やかな微笑みを浮かべ尊が小鳥に囁く。
その尊の言葉に、安心したように小鳥はゆるゆると瞼を閉じ眠りに落ちた。
小鳥の意識が完全になくなったのを確認すると、尊はまた六道のもとへ戻る。
うずくまり、激しくむせている六道を上から冷たく見下ろした。
「先輩、小鳥に何の薬を使ったんですか?」
六道は咳き込んでいて、尊の問いには答えない。
「先輩、さっさと答えて下さい。」
尊はしゃがんで六道の前髪をつかみ、俯いた顔を無理矢理上に向かせて再度問いかける。
「ーーっひッ!」
先程首を絞められた恐怖からか、六道は尊と目が合うと小さく悲鳴をあげた。そして、震える指先で、ベット横の棚の引き出しを指す。
助がその引き出しを開けると、中には錠剤の入った瓶が転がっていた。
「助さん、それ貸して。」
言われるままにアクアに薬の瓶を渡す。アクアは素早く携帯で薬について調べ 、危険なものではないと告げた。
「軽い弛緩剤みたい。後に残るような薬じゃないよ。」
それを聞いて、ひとまず胸を撫で下ろす。
尊も、少しだけ冷静さを取り戻したように見える。
だが、決して怒りがおさまったわけではない。多分尊は、これから容赦なく六道を追い詰める。
近くに転がっていたカメラを手に取り、尊は画像を確認しはじめた。
コマを送るごとに、纏う空気はどんどんと恐ろしいものになっていく。
最後まで確認を終えると、尊は俯き一度深く息を吐き出した。
そして顔をあげた尊を見て、六道だけでなく、助もアクアも思わず息をのんだ。
「ーーっ…」
「先輩、確か南の方の出身でしたよね?この事は誰にも、何も話さず、今日中に田舎に帰って二度とここには戻って来ないでもらえますか?」
その言葉は、疑問系の形をとってはいるが、拒否することは許されない圧倒的な威圧感があった。
別に尊は、怒りに顔を歪めている訳ではない。むしろ、うっすら笑みすら浮かべている。
だが、目には底知れない闇が広がっていて、見ているだけでその闇に自分も引きずり込まれるかのように思えた。
まるで快楽殺人者のような表情で、尊は話続ける。
「先輩、いいですか?もしこの先、偶然だろうが何だろうが小鳥と俺の前に姿を現すことがあれば…」
尊の手が、そっと六道の首に添えられる。そして至近距離で六道を見据えて言った。
「殺しますよ?」
「ーーーッ」
怒鳴っている訳でもないのに、尊の声に部屋の空気が震えた気がした。
六道は声のない悲鳴をあげ、真っ青な顔でガタガタと震えだす。
「先輩、俺が頭良いの知ってますよね?その気になれば完全犯罪くらい簡単に出来ると思うんですよ。」
どこまでも冷たい響きを持って発せられる言葉は、さながら呪いのようで。
「殺人事件って、死体が出なきゃ立証されないし。俺、誰にもバレずにあんた殺して、絶対見つからないように死体を隠すくらい余裕ですよ。」
言葉が直接心臓に響いて、じわじわと体温を奪われているような錯覚に陥る。
助でさえ、さっきから冷や汗がとまらない状態だ。
怒りを向けられている張本人の六道は、完全にトラウマになるレベルの恐怖を感じているだろう。
六道は、尊から目を逸らすこともできず、震えて歯をガチガチ鳴らしながら、ただ何度も頷いた。
徹底的に恐怖を植え付けたと確信できたのか、ふっと尊は空気を和らげ、アクアと助に向き直った。
振り返った尊の顔は、拍子抜けするくらいいつも通りだった。
尊は、最初に六道に掴みかかった時のように我を忘れ怒りに支配されていたわけではない。
恐ろしい事に、さっきの言動は、どうすれば六道を恐怖で服従させられるか冷静に考え、全て計算されたものだったのだろう。
助は長い付き合いから何となくそれを分かっていた。分かっていて尚、どうしようもない程の恐怖を感じさせられた。
多分それは、計算だろうが、尊が言った内容についてはあくまで全てが本気だったからだと思う。
「警察には知らせるか?」
「いや、通報はしない。」
多分尊はそう言うだろうと思いつつ一応した提案は、思った通り却下された。
「通報したら小鳥も色々事情聞かれるだろうし、証拠として色々押収されるだろ。」
こんな写真他人に見られるなんて冗談じゃねえと言って、尊はさっき確認していたカメラを踏み潰した。
多分、中には人には見せたくない小鳥の姿が写っていたのだろう。
「さっさと帰って小鳥を休ませてやりたいとこだけど…多分、他にも写真あるだろうし、回収しないとな。」
「尊さん、それは私に任せてくれない?」
ずっと黙って事の成り行きを見守っていたアクアが、控え目に尊に提案する。
「家の諜報部に連絡して何人かこっちに呼び出したの。多分、もうすぐ到着すると思う。」
龍宮は古くから続くとても大きな家だ。そういう家は複雑で、いろいろ問題が起こる。その為に情報処理に長けた人間を抱えている。
ここへ着いた後、アクアがなかなか部屋に入って来なかったのは、家に連絡していたかららしい。
「写真とか、他にもことりんに関わるものは全部この部屋から探しだして尊さんに届ける。他人に任せるのは嫌かもしれないけど…信頼出来る人しか呼んでないし、私もここに残って責任持って見届けるから。」
だから後は任せて小鳥を連れて帰って欲しいとアクアは訴えた。
「…分かったよ。」
尊は小鳥をアクアから受け取り、自分の上着で丁寧に包み込みそっと抱き寄せる。
「俺もここに残るわ。」
すぐに龍宮の人間が来ると言えども、アクアと六道を二人きりにするわけにはいかない。助の言葉に尊も頷いた。
「あぁ。二人とも、後は頼む。」
「任せてっ!部屋の処理はもちろん、泣いてすがられたって絶対明日には田舎に強制送還してやるんだからっ!」
眩しい笑顔、明るい声。だが、目は少しも笑っていないし、言ってる内容はなかなかに非道だ。
そんなアクアに苦笑して、尊は小鳥を横抱きにして出ていった。
「…お前も実は結構キレてたんだな。」
「当然っ!」
尊が出ていった後も、六道は怯えた目をしてカタカタと震えていた。
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