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小鳥の夏休み2
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尊は現在大学四回生。
学生の特権である長い夏休みを味わえるのは今年が最後ということになる。
とはいえ、遊んでばかりもいられない。
大学最後の夏休みとなれば、たいていの人間は卒業後の進路に向け、就活やら院へ上がる為の勉強やらに必死だ。
尊はすでに卒業後の進路を決めている。最近きっぱりとモデルを引退したのも、その進路の為だ。
尊は、父の運営する芸能事務所で幼い頃からモデルをしてきた。
そして、高校生頃からだったろうか、撮られるよりも撮る側に興味を持つようになった。
大学を卒業後、尊はカメラマンになろうと考えている。
写真だけでなく、プロモーションビデオ製作等、映像関係の仕事を幅広くこなす会社を立ち上げる予定だ。
大学で編集ソフトや機材の扱い方の知識は身につけた。
資金はモデルで稼いだ分でそれなりにまかなえる。
仲間も、助を含め同じ学部の優秀な友人数人に声を掛け、一緒にやる事が決まっている。
モデルをやりながら業界内で人脈もコツコツ築いてきた。
下準備は概ね良好。
あと足りないのは、経験と実績だ。
経験の方は、モデルでよく撮影を担当してもらっていたカメラマンの縁(えにし)の元でバイトを始めたので順調に積んでいっている。
今日もそのバイトの日だ。
「おはよーごさいます。」
「お~尊!おはよ。」
通いなれたスタジオに入ると、人の良い笑顔をニカッと浮かべ縁が出迎えてくれた。
「早速で悪いけど、これパソコンにデータ取り込んどいてくれ。」
「了解です。」
縁からカメラを受けとり、パソコンと向き合う。
画面に表示されてた縁の撮った写真に、毎回の事ながらさすがだと感心させられる。
縁の写真にはごまかしがない。
人でも景色でも、“ここぞ”という瞬間を絶対に外さずフィルムに収める。
今は編集技術が発達しているので、撮った後で光の加減などいくらでも手を加えられるが、やはり自然のそれとは比べ物にならない。
業界内でも縁の評価は高く、彼の元でのバイトはとても有意義だ。
「尊、ちょっと頼みがあるんだけど。」
モデル待ちの撮影の空き時間、コーヒーを飲みつつ撮影したばかりの写真を縁とパソコンで確認していると、相談を持ち掛けられた。
「来週の金曜から軽井沢で撮影があるんだけど来られないか?」
「あ~来週はチョット…」
誘ってもらえるのはありがたいが、来週尊には予定が詰まっていて、縁にはずいぶん前から休み希望を出していた。
「無理言ってるのはわかってる。けど、そこを何とか!」
「…何か、訳有りですか?」
「そ。この子の写真集の撮影なんだけど、是非尊に手伝ってもらいたくて。」
“この子”と言って縁が指さした雑誌のページ。そこには、清純を売りにしているアイドルが載っていた。
「それで?その撮影に何で俺の手が必要なんですか?」
「うん。実はこの子が今回の写真集のことで大分ごねててさ…」
縁によると、今回の写真集は今までの彼女のイメージとは違い“攻める”写真・・・平たく言えば、露出の多い過激な写真もかなり取り入れる計画らしい。
最近人気に陰りが出てきた為、事務所サイドが打開策として打ち出した企画なのだそうだ。
「けど、本人がそれに納得してなくてね。」
「あ~、プライド高そうですもんね。」
雑誌に載っているインタビュー記事から“清純派”という立ち位置への執着がひしひしと伝わってくる。
この手のタイプは脱ぐことを恥としか思っておらず、抵抗がかなり高い。
「そ・こ・で、尊の出番だ!撮影中、この子の事褒めちぎって上手いことその気にさせてくれ!」
尊の肩を両手でがっちりと捕み、清々しい笑顔で縁が畳み掛ける。
「女の子の扱い得意だろ~?尊のその顔でニッコリ笑って褒められれば、やる気を出すこと間違いなしだ!」
ものすごい言われように苦笑する。
縁には世話になっているし、ここまで頼まれて無下にしたくはない…が、
「ちなみに軽井沢って日帰りですか?」
「んや、二泊三日。」
「無理です。」
スパンッと断る尊に、縁は思いきり項垂れた。
「みーこーと~」
「弟が酷い夏バテなんですよ。泊まりで家を空けるのは無理です。」
今の小鳥を三日も放置なんて不可能だ。理由を話すと、縁は目を見開き一瞬固まる。しかし、すぐに先程までの笑顔を取り戻した。
「じゃ、弟君も連れておいでよ。」
「…は?」
「だから、連れておいでよ軽井沢。」
あまりにも軽い縁のノリに冗談かと思ったが、どうやら本気らしい。
「いや~、前から見てみたかったんだよね。尊がご執心の弟君。軽井沢ならこっちより涼しいし、夏バテの療養にもなるって。」
さらに縁は、撮影の手伝いといってもいつものような長時間の拘束はなしで、空いた時間は自由に過ごして構わないとまで言う。
「…そこまでして俺に機嫌とらせなきゃなんないレベルでごねてるんですか?」
尊の問いかけを、縁は笑ってごまかした。ごまかされたということは、まあ肯定なのだろう。
「わかりました。とりあえず、今日帰ったら弟に聞いてみます。」
「おう!頼むよー。」
「ちなみに引き受ける場合、俺からも一つ条件いいですか?」
「…何だろう、怖いなぁその何か企んでる顔。」
軽井沢に行くのなら、尊にはやりたい事があった。
*******
「あ、助。来週の金曜から二泊三日で軽井沢行くから。」
『何でわざわざ電話でお前の旅行の予定を聞かされなきゃなんねーんだ。勝手にどこでも行ってこい。』
「いや、お前も行くんだよ。」
『…はぁぁ!!?』
予想通り、受話器の向こうからは助の大きな声が返ってきた。
助の反応を先読みして、受話器を耳から遠ざけておいて正解だった。
尊が縁に出した条件というのは、一緒に会社を立ち上げる予定の友人数人も軽井沢に同行させる事だった。
会社設立に向けての残る問題、“実績”についても、尊はこの夏に解決してしまうつもりだ。
今年の冬、父の事務所に所属する何人かのアーティストのヒットソングをオルゴールでカバーしたアルバムが発売される。
数年前にもあったヒーリングCDの企画で、その時のプロモーションビデオは縁が担当した。
そして今回は父に交渉して尊が担当することになった。いや、今の時点ではまだ、担当する予定といった方が正確か。
出来上がりに納得がいかなければ、別の人間に任せると父には言われている。
「縁さんって俺が世話になってるカメラマンさんの話したことあるだろ?その人に軽井沢での撮影に誘われてさ。」
聞けば撮影場所は自然に囲まれた、景色のとても綺麗な別荘地帯らしい。
今回のヒーリングCDの撮影にはもってこいの場所だ。
空き時間は自由に使って良いとも言われているので、尊はこの機会を使わない手はないと考えた。
「ってわけで、来週は軽井沢で撮影な。他のメンバーはもう了承済みだ。」
一連の事情を助に説明すると、 一週間分の幸せが吹き飛ぶんじゃなかろうかという程の盛大なため息をつかれた。
『了承とか言って、どうせ皆無理矢理言いくるめたんだろ。』
その後もいくつか小言を言われたが、いつも通り結局助が折れて、来週の軽井沢行きが決定した。
「あ、そういや軽井沢には小鳥も連れてくから。」
最後にそれだけ伝え、助との電話を切る。
さっきlineで確認すると“尊が行くなら行く”と、なんともあっさり小鳥は軽井沢への同行を受け入れた。
そんなこんなで、突然決まった軽井沢行きの準備に追われ、日々は慌ただしく過ぎていった。
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