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小鳥の夏休み4
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尊を見送ってから助達はまた撮影の打ち合わせを始めたので、小鳥は一人で部屋に戻り絵を描いていた。
しばらくするとドアをノックする音が部屋に響き、扉を開けると聖が立っていた。
「夕食お前は何が食べたい?」
長身の聖を見上げると、仏頂面で淡々と尋ねられた。
滞在中、掃除や食材の調達は別荘の管理人がやってくれるが、食事の用意は自分たちですることになっているらしい。
夏場なので、料理を作りおきすると食中毒などの心配があるからだろう。
打ち合わせが一段落したので、夕食作りに取りかかろうという話になったようだ。
「静がカレーが食べたいと言っている。すぐに出来るし俺もそれで異論はないんだが、助がお前にも聞くようにと。」
だから仕方なく聞きに来た、言葉にこそ出さなかったが、聖の顔にはそう書かれていた。
何となく察してはいたが、これではっきりとした。どうやら小鳥は聖にあまり好意を持たれてはいないようだ。
自分に愛想がないことは自覚しているので、聖の態度も仕方がないと思う。
ろくに表情の変化もない、会話もしない子供など他人からすれば可愛くも何ともない。ただ面倒なだけだろう。
助のように、友好的に接してくれるほうが珍しいのだ。
聖とは今日が初対面だが、会ってしばらくしてから敵意のこもった視線を向けられていることには気付いていた。
しかしこれから数日は一緒に過ごさなければならないのだから、これ以上の関係の悪化は避けたい。
その為にはあまり関わらないようにするのが一番だろう。
「カレーで問題ない。」
気のきいた会話など出来ないので、余計な言葉を省いて簡潔に答えを返した。
「夏バテで食欲が落ちているから、もっとあっさりしたものじゃなければ食べられないんじゃないかと助が気にかけていたが、食べられるのか?」
カレーで問題はない。が、食べられるか食べられないかと聞かれれば、
「食べられない。」
答えた瞬間、聖のこめかみがピクリとひきつった。
もともとあまり良くはなかった機嫌を更に損ねてしまったようだ。
「問題ないんじゃなかったのか?」
問題はない。その言葉に嘘はないのだが、やはり色々と省きすぎて意図が伝わらなかったようだ。
「食べられないが、俺の事は気にする必要ない。夕食は三人が食べたい物を作れば良い。だからカレーで問題ない。」
自分に合わせてもらう必要はない。小鳥が食べられるものに合わせたのでは、他の三人にはとても物足りない食事になってしまうだろう。
だから、夕食は尊に用意してもらうつもりだった。
そう説明したのだが、聖の苛々は更に増してしまったようで眉間に深いしわが刻まれた。
せっかくの綺麗な顔が台無しだなどと呑気な事を考えていると、苛立ちを含んだ尖った言葉が飛んで来る。
「放っておきたいのは山々だが、尊は何時に帰ってくるか分からない。お前の事を放って俺達だけ夕食を食べるわけにはいかない。」
いいからさっさと食べたいものを言えと迫られる。
小鳥が今食べたいものを言えば、余計に聖の機嫌を損ねる気しかしない。けれど、答えるまで聖が引き下がる様子はない。
小鳥は渋々口を開いた。
「…もずく。」
「……は?」
「もずくが食べたい。」
「………。」
思った通り、聖のまとう空気が氷点下のようになってしまった。これは、絶対怒っている。
「そんなものが夕食になるか!そもそも、ここにもずくなんてない!!」
すかさず飛んで来る怒号。
そんなものとは失礼な。もずくは美味しい。食欲がなくても食べやすくて、夏バテの時はいつもお世話になっている。
とは言え、健康な成人男子であるところの聖達に、もずくが夕食なんて受け入れられなくて当然だ。
「だから、俺に合わせなくて良いって言ってる。もずくは、尊に頼んでホテルからの帰りに買ってきてもらう。」
「尊だって忙しいんだ、手を煩わせるな。」
だいたいお前は…と、聖が声を荒げた時、玄関の方が騒がしくなる。
バタバタとこちらに向かって駆けてくる足音が聞こえたかと思えば、ここには居るはずのない人物が姿を現した。
「ことりーんっ!」
「…アクア、何でここに?」
「来ちゃった!」
満面の笑顔で小鳥に抱きつきながら、アクアが明るく言い放つ。
「…いらっしゃい。」
アクアの頭をよしよしと撫でながらとりあえずそんな返事を返すと、突然のアクアの登場に呆然と固まっていた聖が我に返って小鳥を睨み付ける。
「いらっしゃい。じゃ、ないだろ…誰なんだ!?」
「はじめましてー!龍宮アクア、ことりんの友達で、助さんの未来のお嫁さんです!」
小鳥が答えるより先に、アクアがにこにこ笑って聖に自己紹介する。
「いつからお前を嫁にもらう事になったんだ…色々誤解を招くような発言は慎むよーに。」
後から入ってきた助が軽くアクアの額を小突きながら溜め息をついた。
「助も知り合いなのか?」
「あぁ。」
「ただの知り合いじゃないよ!未来のお嫁さんだからねっ!」
「だーかーらー…」
小鳥から離れ、助の腕に半ばぶらさがるように抱きつきながら再度お嫁さん宣言をするアクア。
それをまた否定しようとして途中で諦めたのか、助はぐったりと脱力した。
「おっくんとみぃちゃんも来てるんだよー。」
アクアがそう言うと、タイミングを見計らっていたかのように臣と美羅が部屋の中に入ってきた。
「はじめまして、小鳥の友人の園宮美羅です。」
「同じく友人の宮束臣です。突然押し掛けてしまってすみません。」
二人揃って礼儀正しく聖に挨拶した後、小鳥へと歩み寄る。
「親戚が偶然この近くに別荘持っててね、貸してくれるって言うからアクアも誘って泊まりに来ちゃった。」
この辺り一帯は別荘が密集している。美羅の話によれば、その親戚の別荘はここから歩いて5分くらいの場所らしい。
「せっかくだから黙って来て驚かそうと思って。」
上品に微笑みながら首を傾げ、びっくりした?と聞かれ小鳥は頷いた。
「驚いた。でも、会えて嬉しい。」
素直な感想を口にすると、臣が優しく笑って小鳥の髪を撫でる。
「終業式以来だな。元気にしてたか?」
「あぁ。」
「でも、ちょっと痩せたんじゃないか?」
眉を寄せ、臣が両手で小鳥の頬を包みこむ。
「本当ね…夏バテ酷いの?」
臣の言葉に美羅も表情を曇らせ、心配そうに尋ねられた。
「特に酷い訳じゃない。」
確かに少し体重は落ちたかもしれないが、夏は毎年の事だ。
「ことりん、抱きつき心地がいつもと違うよー?」
助から離れ確かめるように小鳥に抱きついたアクアも、悲しそうにヘニャリと眉を下げた。
「バーベキューの用意をしてもらってるんだ。小鳥達も夕飯はまだだろう?一緒にどうかと思って誘いに来たんだ。」
「小鳥の好きなもの、たくさん用意してあるのよ。」
「トウモロコシでしょー、さつまいもでしょー、あとバーベキュー関係ないけどお豆腐もちゃんとあるよー!」
だから一緒に食べようと、にこにこ笑いながらアクアに腕を引かれる。
窺うように助に視線を送ると、笑って頷かれた。
「せっかくだから、お言葉に甘えよう。さっき話したら静もそれで良いっていうか、むしろそれが良いって言ってたし。聖も良いよな?」
助の提案に聖も頷いたので、皆でアクア達の泊まる別荘へと向かうことになった。
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