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小鳥の夏休み10
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縁の撮影は順調に進み、予定通り夕方には終了した。
尊達は今、宿泊している別荘へとPV撮影の為に車で戻る最中だ。
軽井沢タリアセンでも多少風景を撮ったりはしたが、縁のように公式に許可を貰っているわけではないので、あまり大っぴらに撮影するのはまずい。
幸い別荘付近はとても景色に恵まれているので、自分達の撮影は主にそちらで行う事にした。
「しっかし、あのアイドル様ごねるどころかむちゃくちゃやる気だったな。」
感心するような静の言葉に助と聖が頷き、尊も同意した。
「あぁ。やっぱ縁さんの力が大きいだろうな。」
後輩アイドルに負けた悔しさがきっかけではあるが、そんな彼女のやる気に拍車をかけたのは縁の提案だった。
尊も昨日知ったのだが、もともと彼女の事務所が企画していたのは本格的なグラビア写真集で、露骨にエロ方面を意識したものだった。
撮影も沖縄などの南国で予定されていて、水着やもっと際どい写真をふんだんに盛り込むつもりだったらしいが、その企画に縁がストップをかけた。
せっかく清純を売りに成功してきたのだから、いきなりそれを完全に壊すのはもったいないと、事務所に軽井沢での撮影を持ちかけたのだ。
縁いわく、今回の写真集のテーマは“お嬢様の夏休み”。別荘が多く、高級なイメージのある軽井沢はもってこいの場所だ。
際どい写真ももちろん撮るが、安易に水着や肌の露出が激しい写真を多用するのでははく、あくまで上品なイメージを守った仕上がりを目指している。
上品さを意識したうえで、今までの彼女にない色気のある写真集というのはとても難しいが、縁ならやってのけるだろう。
「それを知ったアイドル様は、俄然やる気を出したってわけだ。」
軽く事のいきさつを説明すると、やっぱ縁さんすげー!と静が騒いだ。
「でもさ、上品なエロってどんなのだろうな?」
ひとしきり騒いだ後、ふと真顔になって静はそう言うと、真剣に考え出した。話の種を与えてしまったのは尊だが、もっと他に考えるべき事がいくらでもあるだろうに。
多分聖も尊と同じ様な事を考えているのだろう。呆れて冷めた視線を静に向けている。
「だぁぁー!!わかんねぇ!」
「静、煩い。」
静は頭を抱えてうなり出し、とうとう聖に注意された。
「上品とかは置いといて、俺的にエロと言えばやっぱ彼シャツだな、うん。」
聖の絶対零度の視線もお構い無しに、静が熱く持論を語り出す。
「彼シャツのあの何とも言えない色気は男には堪らないよなー。男で彼シャツが嫌いなやつなんて居ないっ!」
力説する静に、それまで尊の隣でぼんやりと窓の外を眺めていた小鳥がピクリと反応した。
「…男は皆、彼シャツが好きなのか?」
「あぁ!彼シャツは男の夢だ!!あれ見てムラムラしない男は居ないと俺は思うな。」
「…男の夢。…ムラムラ。」
静の言葉に真剣に耳を傾け、小鳥が呟く。
尊としては、小鳥がこの手の話題に興味を示したのがかなり意外だった。そもそも、彼シャツがなんて言葉を知っていたのが驚きだ。
「小鳥、お前彼シャツなんて何で知ってるんだ?」
「本で読んだ事がある。」
一体、なんの本を読んだのだか。尊の知る限り、小鳥の読書傾向にそんな事が出てきそうな本は含まれない。
今度情報源を問い詰めなければと考えている間も、静は彼シャツについてあれこれ語っていた。
「静、いい加減にしろ。あまり小鳥におかしな事を吹き込むなよ。」
話が過激な方向にエスカレートしだし、見かねた助にたしなめられてようやく静が口を閉じる。
落ち着きを取り戻した車内で、ふと気付くと小鳥がじーっと尊に視線を送っていた。
「ん?何だ?」
「…何でもない。」
ずいぶん熱心に意味ありげな視線が送られていた気がしたのだが、小鳥はそれ以上何も言わず、いつもの通りのぼんやりと靄がかかったような表情でまた窓の外を眺めていた。
別荘に着くと、尊達はすぐに撮影の準備に取り掛かかった。
せわしなく動き回り、一段落したところでスケッチブックを抱えた小鳥が遠慮がちに声を掛けてきた。
「…尊、あそこで絵を描いててもいいか?」
あそこ、と言って小鳥が指差したのは少し離れた所にある広場だ。
昨日、アクア達と散歩して見つけたらしい。歩いてすぐの距離ではあるが、周りを高い木に囲まれているので、 広場内に入ってしまうとこちらからは姿が見えない。
「良いけど、一時間で戻ってこいよ。」
夏場で日が長いとは言えもう夕方だ。暗くなる前には確実に別荘に戻らせたい。
「わかった。」
素直に頷いて尊に背を向け早速広場へ向かおうとした小鳥の手を掴んで引き止める。
「ちょっと待った。出発前の確認がまだだ。」
掴んだ手を軽く引っ張って小鳥の体を反転させ、向かい合う体勢にする。
「携帯持ったか?」
「持った。」
「飲み物は?」
「持った。」
「防犯ブザーは?」
「持った。」
尊の確認に合わせ、小鳥が返事をしながら携帯、飲み物…と、ショルダーバッグから取り出して見せる。
「催涙スプレーは?」
「持った。」
「スタンガンは?」
「持っ…」
「こらこらこらこら!何か後半の持ち物チェックおかしいだろ!!」
二人を様子を近くで見ていた静が、小鳥の返事を遮り突然話に割り込んできた。
「なんつー物騒なもん持っていかせようとしてんだ!」
「小鳥一人で出掛けるんだから護身用として当然だろ。」
「いやいや、普通は絶対そんなもん常備させないから!」
「…尊、もう行ってもいいか?」
いかなる時でもマイペースな小鳥は、騒ぐ静を気にもせず、すぐにでも広場へ向かおうとしている。
「おぅ、気を付けてな。」
お許しを得ると、小鳥はゆっくりと歩いて行った。
「過保護だとは聞いていたが、まさかここまでとはな。」
まだ騒いでいる静を無視して小さくなっていく小鳥の後ろ姿を眺めていると、一連のやり取りを聞いていたらしい聖が呆れた様子で小言をこぼす。
「だよなー!チョット広場に行くだけなのに。てか護身用でスタンガンとかありえねー。」
「うるさい。小鳥はチョット特異体質なんだよ。あれでもまだ装備としては足りないくらいだ。」
「特異体質?」
聖の賛同に勢いずいて更に騒ぎだした静にそっけなく対応すると、予想外に聖が話に食い付いてきた。
「あぁ。小鳥の可愛さは犯罪を誘発するんだよ。」
以前助にしたのと同じように二人にも説明すると、その時の助と同じように、ひどく残念なものを見るような目で見られた。
「おいお前ら~、撮影始めるぞ!何だらだら話してんだ!」
「助!尊がことりん愛しさのあまり変な事言い出した!」
「はぁ!?」
尊達を呼びに来た助に、静がさっきまでの話の流れを聞かせる。
「あ~、俺も最初は信じらんなかったけど、実際小鳥は異様なくらい危ないやつ寄せ付けちゃうんだよな…」
変な手紙や、ストーカーまがいの行為を受けるのが日常茶飯時だと説明して、尊が色々護身させたくなる気持ちは分かるのだと助が言うと、途端に静が心配そうに顔を歪めた。
「まじか…確かにことりん可愛いし、何か無性に構いたくなる雰囲気はあるけど…苦労してたんだなぁ。」
「そうだ。だからスタンガンくらい持たせなきゃ一人でなんか出歩かせらんねーんだよ。」
すっぱりと言い切る尊に、もう静も聖も反論はしなかった。
助が静を連れて機材を取りに行き、尊は聖と二人撮影ポイントの確認の為にその場に残った。
光の射す向きなどを確認しながら、さっきまでの会話が頭をよぎり、ふと物思いにふける。
尊はもともと小鳥に対して過保護気味ではあったが、この間の六道による誘拐事件をきっかけにそれが更にエスカレートしている自覚はある。
本当なら、自分の目の届くところ以外に小鳥を出したくないくらいだ。
多分、それを実行するのは簡単だ。
尊は、ただ小鳥に頼むだけで良い。
けれど、実行はしない。実行するわけにはいかない。
それをすれば、かつて自分と一緒でなければ部屋から小鳥を出さないようにした姫子と同じだ。
「…さっきの話の続きだが、そんなにしょっちゅう危ない奴に狙われて、あいつよく対人恐怖症にならないな。」
どうやら聖もさっきの静達との話について考えていたらしい。突然飛んできた聖のもっともな指摘に、尊は深く溜め息をついた。
「そうなんだよな…。善くも悪くも、小鳥は他人に無頓着なんだよ。」
六道の件だけで考えてみても、普通ならトラウマになってもおかしくない。いきなり誘拐され、そのうえ性的な意味で襲われたのだから、ショックを受けて当然だと思う。
けれど小鳥は助け出されて目が覚めた時にはケロリとしていた。
尊から見る小鳥はあまりにも無防備だ。
警戒心がないわけではない。尊の言いつけを守り、絶対に無断で外出はしないし、護身グッズもきちんと常備している。
しかし、とにかく他人に関心が薄い。自分が何とも思っていない相手にどう思われていようが、気にならないようだ。
だから、異常な好意を寄せられても平然としていられるのだろう。
「よく知らない他人に何を思われてたってどうでも良いらしい。」
追い詰められて対人恐怖症になったりするのも困るが、無頓着すぎるのも考えものだ。
「ずいぶんと神経の太い子供だな。」
半ば感心するように言う聖に、尊は苦笑した。
「そうとも言い切れねえけど。どうでもいいやつに対しては冷めきってるぶん、どうでもよくない人間に関してはとことん親身になるから。」
小鳥にとって大切なのは、相手が自分をどう思っているかではなく、自分が相手をどう思っているか。
自分が大切だと思う相手には例え自分を犠牲にしてでも、どこまでも気持ちに寄り添おうとする。
持てる限りの神経を尖らせて、相手の望みに応えようと必死になる。
かつて、姫子にそうしていたように。そして多分、今の小鳥は同じことを尊にしている。
「小鳥は、大事だと思ってる人間に関しては痛々しいくらい神経質だよ。」
「…極端だな。」
我ながら分かりにくい言い方だと思ったが、聖は尊の言いたい事を何となく察したようだ。
「本当になー。無器用というか何というか。」
けれど結局のところ、尊は小鳥のそんな所も愛しいと思っている。
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