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小鳥の夏休み14
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夕飯の片付けが終わる頃、尊の携帯に着信があった。
衣装調達を頼んだスタイリストがこちらに着いたらしい。
「車は空いてるところに適当に停めてくれていいから。今、玄関まで迎えに出る。」
携帯を片手に話す尊の砕けた口調から、ずいぶん気心の知れた相手なのだなと感じる。まあ、そうでなければこんな時間から私用で呼びつけたりできないだろうが。
「もーっ!尊ったらホントに人使い荒いんだからぁー」
「でも、そんな強引に振り回す所が好きっ」
語尾にハートが付きそうな弾んだ口調で尊の腕に絡み付きながら入ってきた二人のスタイリストは、女性のような口調で話しているが男性…だと思う、多分。
筋肉のついた立派な体格の二人はどこからどう見ても男性だ。
けれどまとっている雰囲気や服装は完全に女性を意識していて一瞬戸惑ったが、あぁニューハーフさんなんだなと一人納得する。
二人の顔や背格好は、まるでコピーしたかのようにそっくりで、小鳥はそれにも驚いた。多分、双子なのだろう。
「はじめましてー。スタイリストの翠(みどり)でーす。」
「同じく薫(かおる)でーす。見ての通り双子よ、宜しくねっ。」
二人が名乗ったのをきっかけに、皆が順に自己紹介をしていく。
小鳥の番になると、二人は尊の腕から離れ、並んで立っていた小鳥とアクアの正面に来てしゃがみこんだ。
「…小鳥、です。」
至近距離でじっと顔を覗き込まれ、思わず半歩後ずさる。
「アクアです!宜しくお願いしますっ!」
小鳥と違い全く動じることなく元気よく挨拶するアクアを見習い、小鳥も宜しくお願いしますと頭を下げようとした所で、翠の両手に頬を挟みこまれた。
「いっやぁぁぁ~!小鳥ちゃん可愛いっ!肌真っ白でスベスベ~!」
翠は何やらうっとりした顔で小鳥の頬を撫で回し頬擦りする。
「アクアちゃんも~っ!やっぱり若い子は違うわね~!」
隣では、薫によってアクアも小鳥と同じようなことをされている。
「髪もすんごい綺麗っ!柔らか~い。サッラサラ!」
「睫毛ながーい!バッサバサ!ノーメイクでこれとか信じらんな~いっ!」
はしゃいだ声をあげながら自由にあちこち触られるも、あまりの勢いに小鳥とアクアは呆然と立ち尽くす。
「はいストップ!必要以上のお触り禁止!」
本格的に絡まれ出した所で、尊が翠と薫の首根っこを掴んで小鳥達から引き剥がした。
「えー尊のケチー!」
「じゃあ、尊触らしてぇー。」
元通り尊の腕に抱きつくと、緑と薫は尊の腕の筋肉に頬擦りする。
「セクハラ反対。」
そんな二人を尊は容赦なく振り落とすが、緑も薫も懲りずにまた擦りよっていく。
その様子を眺めて、小鳥はまた心のなかにモヤモヤが溜まっていった。
・・・・・面白くない。
翠と薫は、尊を本気で狙う女の人達とはまた違う。
お気に入りのアイドルに熱をあげているような、そんな感じしか二人からは伝わってこない。
きっと恋愛感情はない。別に尊とどうこうなりたいわけではないのだろう。
だからこそ、尊も何だかんだ文句を言いつつも本気で拒絶はせず好きにさせている。
尊は基本的には来るもの拒まずのどうしようもないタラシ男ではあるが、仕事相手とは色恋ごとで揉めない。
もし双子が本気で尊にアプローチをしているなら、もっと徹底的に二人と距離を取って接するはずだ。
だからこれは、ただのチョット過剰なスキンシップだ。
分かっては、いる。
でも、分かってはいても目の前でベタベタと尊に触られれば良い気はしないし、それを許している尊にも腹が立つわけで。
「えっと、ことりん大丈夫??」
ひっそりと不機嫌なオーラを放つ小鳥を、アクアが小声で気遣う。
「…………大丈夫。」
かなり間をあけてそう答えた次の瞬間、翠と薫が尊の頬にキスをした。
「おいこら、お前らいい加減にしろよ。」
声を荒げるでもなく冷静に二人をたしなめる尊の様子に、これが日常的なやり取りなのだと感じた。
プチン、と、小鳥の頭の中で何かが切れる音がする。
「…やっぱり、大丈夫じゃない。ちょっと、戦ってくる。」
アクアに宣言すれば、いってらっしゃいと笑顔で手を振られた。
ずんずんと歩いていって、翠と薫を腕にくっつけたままの尊に正面から体当りする勢いで抱きつく。
「ん?どーした小鳥?」
危なげなく小鳥を受け止めた尊を下からじっと見上げれば、目線を合わせる為に尊がかがむ。
そんな尊はいったん放置して、小鳥の突然の行動に尊の腕を離しキョトンとした顔で立ったままの翠と薫に向き直って、お願いするためにペコリと軽くお辞儀をした。
「尊は俺のなので、あんまりくっつかないで欲しい。」
「「へっ!?」」
さすが双子。翠と薫は全く同じタイミングで驚きの声をあげた。驚いた顔もそっくりだ。
「ん…?違う、えっと、まだ俺のじゃないけど、俺のになる予定…うん。だから、くっつかないで欲しい。」
勢いで宣言したものの、俺のだというのは少し言い過ぎだと思い訂正する。
小鳥は完全に尊のものだが、俺のものだと言い切れるほど、小鳥は尊の事を手に入れてはいない。
わざわざ訂正した小鳥に、ことりんはホントに律儀だね~と言って、アクアがこちらをほのぼのと見守っている。
小鳥は放置していた尊の方を向くと、丁度目の前にあった鎖骨に唇を寄せ、そのまま思いきり吸い付いた。
ちゅーっっ!と、精一杯の力で吸い付いたつもりなのに、口を離してみると尊の肌には何の痕も残っていない。
「お前、何がしたいんだ?」
「……。」
不思議そうにしている尊を無視して改めて挑戦するが結果は同じで。
助は、キスマークは相手を自分だけのものにしたいという印だと言っていた。
だから、小鳥も尊にキスマークをつけようと思ったのだが、どうにもうまくいかない。
何だか唇も痺れてきたし、面倒になってきた。
「おい小鳥、本当にどうし…」
どうしたんだ、と続くはずだった尊の言葉を最後まで聞かず、小鳥はまだ少しも痕の残っていない尊の鎖骨にガブリと噛みついた。
「~ッ!?痛い痛いッ!」
悲鳴をあげる尊の鎖骨には、くっきりと小鳥の歯形が刻まれていた。
「…よしっ。」
「よしっ。じゃねーよ!何がしたいんだお前!?」
「尊は俺のって印に、キスマーク付けようと思って。でも、なかなか付かないから…噛んでみた。」
痕さえ付けば似たようなものだろうと思ったのだ。
「噛んでみた。じゃ、ねえよ!お前なぁ…」
尊から、深い深いため息が溢れる。
と、それまで呆然と固まっていた双子が突然キラキラと目を輝かせたかと思えば、いきなり抱き付かれた。
「きゃーッ!!小鳥ちゃんったら情熱的ッ!」
「禁断の兄弟愛!お姉さん達応援しちゃう~ッ!」
その後はしばらくギュウギュウと抱き締められて離してもらえなかった。
よく分からないが、双子にものすごく気に入られたようだ。
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