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小鳥の世界6
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小鳥は尊が好きだと言う。それも、他とは圧倒的に違う、特別な好きだと。
その気持ちを疑う気は毛頭ない。
けれどやはり、その好きは恋愛感情とは違うのではないだろうか。
「なあ、小鳥。」
「なんだ?」
「小鳥は、俺が好きなんだよな?」
「…何を今更。好きに、決まってる。」
「その俺を好きな気持ちってさ、姫ちゃんを好きな気持ちに似てないか?」
「……。」
小鳥は無言でじっと尊を見つめる。
そのぼーっとした顔からは、やはり何を考えているのかは読み取れない。
しばらく考えた後、ポツリと小鳥は答えた。
「…似てると、思う。」
「だよな?」
小鳥の返事に苦笑する。
小鳥は昔言っていた。姫子以外に自分を必要とする人なんて居ない、姫子が居なくなれば生きていけないと。
そしてさっき、小鳥は言った。尊が居なければ、今自分は生きていなかったと。
姫子は居なくなってしまったが、代わりに尊が小鳥を必要とした。小鳥と生きることを心から願った。
尊のその気持ちに応えて、小鳥は今生きている。
姫子が死んで空いた小鳥の心の穴を尊が埋めた。
つまり尊は、姫子の代わりだ。
だからと言って、それに不満は全くないし、むしろ喜ばしいとさえ思う。
小鳥がどれだけ姫子を大切にしていたか、尊は誰よりも知っている。
同じだけの気持ちが今は自分へと向けられているのなら、不満どころか本望だ。
「小鳥は姫ちゃんへの好きと同じ気持ちで俺が好きなんだ。他とは違う特別な好きだから恋愛感情と錯覚したんだろうけど、それは家族愛じゃないか?」
向かい合った体勢のまま小鳥の頬に手のひらを添え、言い聞かせる。
すると、小鳥は尊の言い分が不満だったらしく、ゴツンと額をぶつけてきた。
「「~~~ッ!!!」」
二人して、鈍い痛みに額を押さえる。当たり所が悪かったのか、ぶつけた本人の方がダメージが大きかったようで、小鳥は涙目になっていた。
「…俺は、“似てる”って言っただけだ。」
「ん?」
「似てるだけで、同じじゃない。尊への好きは、姫ちゃんへの好きとは違う。」
「じゃあさ、どこが違うんだよ?」
「違うものは違うんだ!」
小鳥は若干ムッとしつつ、未だぶつけた額を押さえて俯き、プルプルと震えている。
「具体的にどう違うんだよ?」
落ち着かせるようにそっと頭を撫でつつ尋ねれば、小鳥は痛みが引くのを待ってから顔を上げた。
「俺は、姫ちゃんの一番になりたいとは思わなかった。」
昔の記憶を呼び起こすように、小鳥はどこか遠くを見詰めて話す。
「姫ちゃんの一番は光君だった。だから、光君が死んだ時、今度は俺が代わりに姫ちゃんの一番にならなきゃって思ったんだ。」
「なりたい…じゃなくて、ならなきゃか…」
言葉にすると似ているが、“なりたい”と“ならなければ”では、気持ちとしては全然違う。
「でも、俺が一番になるのは無理だって、すぐに思い知った。」
「…何か、あったのか?」
嫌な、予感がする。けれど尊は、聞かずにはいられなかった。
「姫ちゃん、自殺しようとしたんだ。睡眠薬いっぱい飲んで。」
「ーーーッ」
表情を変えず落ち着いた声で言われた小鳥の言葉に、ヒヤリと胸が凍てつくような感じがした。
小鳥が、尊への気持ちは恋愛感情だと言って譲らないので、その根拠をほんの少し問い詰めてやろうと思っただけだったのに。
小鳥から初めて聞かされる重い事実に、なんの言葉も出てこない。
「…そんな顔、しないでくれ。」
自分は今、どんな顔をしているのだろう。小鳥が心配そうに眉を垂れ、尊の手を握る。
「…続けろ。」
動揺を引きずったまま、自分よりもずいぶんと小さな小鳥の手を握り返し、話の続きを促した。
「…姫ちゃんが死のうとした時、あぁ俺じゃダメなんだなって思った。俺じゃ、光君の居なくなった世界で、姫ちゃんが生きる理由にはなれないんだって。」
「…うん。」
「自分が愛されてなかったなんて思ってない。姫ちゃんも光君も、俺にちゃんと愛情を注いでくれてた。でも、姫ちゃんの一番は光君で、光君の一番も姫ちゃんだった。だから姫ちゃんは、光君の所に行こうとしたんだと思う。」
「……うん。」
穏やかな声で話す小鳥に、尊は単調な相槌を打ち続ける事しかできなかった。
姫子は本当に小鳥を愛していたのだろう。
その小鳥を残して死んでしまいたいと思うほどの姫子の光への気持ちは計り知れない…そして、後に一人ぼっちで残されそうになった小鳥の悲しみも。
「姫ちゃんが死ぬのは嫌だと思った。だから、毎日神様にお願いした。俺の命をあげるから、光君を姫ちゃんの所に返して下さいって。」
「ーーッ、お前ッ」
「大丈夫だ。今は、神様にお願いしたってそんな事できないってちゃんと分かってる。」
「そうじゃなくて!!」
できるできないの話ではない。
例え光が生き返るのだとしても、代償に小鳥が居なくなってしまうのなら、そんな事を姫子が望むはずがない。
そう勢いよく訴えた。
けれど、見慣れたぼんやりとした表情で放たれた小鳥の言葉に、またしても尊は言葉を無くした。
「光君さえ生き返れば、二人の間にはまたいつか子供が生まれる。そしたら、姫ちゃんも、光君も寂しくないだろう?」
姫子があんなにも小鳥を大切にしてくれたのは、自分が大好きな光との子供だったから。
光と姫子が居て、新しい子供が生まれる。そうすれば、一番幸せだった時の家族の形が元通りで。
だから、自分は居なくなっても大丈夫なのだと小鳥は言った。
「……みこと?」
何でもないことのようにとても悲しい事を言う小鳥に、尊は堪らなくなってその小さな体を抱き締めた。
小鳥に不思議そうに名前を呼ばれたが、ちょっと今は返事出来そうにない
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