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小鳥の世界7
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胸が強く締め付けられて痛い。
姫子が自殺未遂をした時、小鳥の側に居られなかった事が悔しい。
その時はまだ、小鳥と尊は出会ってもいなかったのだから、こんなことを考えてもどうしようもないのだが。
父親が突然死んで、母親がその後を追って死のうとした…そんな事実を、小鳥がたった一人で受け止めたのかと思うと、ただただ胸が痛んだ。
その時誰か一人でも、小鳥を支えて癒してくれる人間が居たなら良かったのに。
きっと、小鳥は一人だった。一人で全部受け入れて、どうすれば良いか一人で考えて・・・・・
そうして辿り着いたのが、自分の命で父親を生き返らせて、新しい子供が生まれれば自分は必要ないなんて悲しい結論。
そんな考えを辛いとも悲しいとも思っていないのは、それが辛くて悲しい事なのだと誰も教えてくれなかったからだ。
小鳥が自己犠牲の塊のような性格になってしまった理由が何となく分かった気がする。
3年一緒に過ごしてきて、もうずいぶんと小鳥の事を知ったつもりでいたが、姫子の自殺未遂についても、その時の小鳥の気持ちも、尊は今日まで全く知らなかった。
知らなかった自分が腹立たしいやら、情けないやら。
いつだって尊は、小鳥が無自覚に抱えているものの大きさに後から気付かされる。
きっと、この小さな体にはまだまだ秘密が詰まっているのだろう。
沈んだ表情を見せたくはなくて、小鳥の華奢な肩口に顔をうずめた。
甘くて優しい香りに包まれて、少し心が落ち着く。
顔が見えなくても尊が何やら気落ちしている事に気付いたのか、小鳥がそっと頭を撫でてくれた。
そのままの状態で、小鳥は話を再開する。
「神様に頼んでも光君を生き返らせるなんて無理って分かって、というか、神様自体ホントに居るのか分かんないんだって分かって…」
小鳥独特の柔らかな声に、静かに耳を傾ける。
「だったら、誰か他に、姫ちゃんを幸せにしてくれる人が現れますようにって願うようになったんだ。」
いつか姫子がまた心から愛せる誰かに出会って、その人も姫子を愛して。
そしてその誰かが、光が生きていた時くらい姫子のことをまた幸せにしてくれたらいいのにと小鳥は願っていたらしい。
姫子の光への気持ちの強さを考えれば、それはとても難しい事だ。
けれど確かに、光を生き返らせるよりはまだ現実的だったのかもしれない。
「でも、尊は違う。」
「ん?俺??違うって…何が?」
突然話の流れが自分へと向けられ、顔をあげて小鳥に視線を合わせる。
そして、小鳥の顔を見た瞬間、その表情に尊は目を奪われた。
「尊の事は、俺が幸せにしたい。」
そう言って穏やかに微笑む小鳥から、尊は目が離せない。
「尊を好きになれて、俺は凄く幸せだ。一緒に居られるだけで、嬉しくて仕方ない。こんな幸せ、尊を好きになるまで知らなかったんだ。尊にも、同じだけの幸せを感じて欲しいと思う。」
小鳥は幸せそうに笑いながら、一言一言大切に語った。
ふわりと花が開くように優しい笑顔から、目が離せない。
普段が無表情なだけに、たまに見せる笑顔の破壊力はとんでもないと思う。
「尊を幸せにする役は、絶対他の誰かに譲りたくない。俺だけが、ずっと、尊の一番でいたい。こんなこと、姫ちゃんには思わなかった。」
ついさっきまで、尊の知らなかった小鳥の悲しい過去に気持ちが沈んでいた。
だが、蕩けるような笑顔で尊を幸せにしたいだなんて台詞を言われ、今は胸が高鳴っている。
本当に、小鳥には振り回されてばかりだ。
けれど、それを少しも嫌だと思わないどころか、不思議と満たされるこの気持ちは一体何なのか・・・・・
「姫ちゃんへの好きと一緒じゃないって、ちゃんと伝わったか?」
「…伝わった。」
下から顔を覗き込むようにして尋ねられ、そう答えざるを得なかった。
まあ、だからといって小鳥の気持ちが恋愛感情だということまで認めるわけではないが。
「そっかぁ、お前が俺を幸せにしてくれんのかー。けど、人一人幸せにすんのって結構大変だぞ?」
小鳥の直球の告白に柄にもなく照れて、それを隠すようにわざと少しおどけた口調で小鳥の髪をわしゃわしゃとかき混ぜる。
「大丈夫だ。」
「自信満々だな。」
任せておけと拳をギュッと握る小鳥に、尊は目を細める。
「じゃあさ、俺の幸せの為に小鳥にお願いがあるんだけど。」
「…何だ?」
向かい合って小鳥の頬に手を添え、至近距離で目を合わせる。
「自分が居なくても代わりが居れば大丈夫…みたいなこと、もう言うな。」
「…どうしてだ?」
普通に考えて当たり前の事なのに、どうしてなんて質問が出てくるあたりが、本当にいたたまれない。
また胸がツキリと痛んだが、言葉を続ける。
「俺が悲しいからだよ。」
「…悲しいのか?」
「そうだ、すごく悲しい。俺の中では小鳥の代わりなんて誰にもできない。俺の大事な小鳥を、簡単に他人で代用が利くみたいに言わないでくれよ。」
「…分かった。」
「ありがとな!おかげで今チョット幸せ増えたわ。」
小鳥が本当に理解したのか、すっかりいつものぼんやり無表情に戻った顔からはいまいち判断出来ない。
けれど、すぐに理解できなくても良い。そう思いながら、明るく笑って小鳥の頭を撫でた。
すぐには無理でも、尊にとって小鳥の代わりは居ない、小鳥が大切だとこの先言葉や態度で伝え続けて、少しずつ分からせていけば良い。
そうして、小鳥が自分自身をもっと大事にできるようにしてやりたいと、尊は思う。
「あ、そういや話戻すけどさ、お前が俺を姫ちゃんとは別の気持ちで特別好きなのは分かったけど、何でそんな恋愛感情に拘るんだ?」
恋愛感情とは違うが、尊にとって小鳥は既に特別で、一番だ。
絶対にとまでは言い切れないが、ほぼ確実にこの先もずっとそれは変わらないだろう。
そう伝えれば、“ほぼ確実”を“確実”にする為に、尊には自分を恋愛対象として好きになってもらう必要があるのだと小鳥は言う。
「俺も、同じこと思ってた。恋愛感情とは違うけど、俺は姫ちゃんだけがずっと一番だって。でも、尊に恋してそれが変わった。」
「恋ねぇ…。俺も、誰かに恋したら小鳥以外に一番が出来るって?」
コクリ、と真剣な顔で小鳥が頷く。
「想像、したことがあるんだ。」
「何を?」
「尊が、俺以外の誰かと恋をして、結婚するところ。」
「いや~ないない!」
「絶対ないかなんて分からないじゃないか。」
「はいはい、で?」
「吐いた。」
「はぁ!?」
またしても衝撃の告白。
「お前ッ!んなあるかどーかも分かんねぇ妄想で無駄にストレス抱えんなよ!」
思わず全力で突っ込んだ。
本当に、小鳥の言動は予測できない。
何気ない一言にとんでもなく驚かされたり、喜ばされたり・・・・・
けれど、そんな自分以外の誰かに心を動かされる毎日に、尊は間違いなく幸せを感じている。
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