アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
暴君23才、小鳥14才、春。3
-
お茶にしようとダイニングへ向かうと、既に人数分の紅茶がテーブルの上で湯気をたてていた。
姿が見えないと思ったら、小鳥が尊と話している間に聖が用意してくれたらしい。
「何だ聖、ずいぶん準備がいいな。」
「小鳥が休憩に誘ったらお前がすぐ折れるのは分かりきってたからな。用意しておいた。」
尊の言葉に淡々と返しながら、聖が優雅に紅茶を飲む。
小鳥達も席につき、しばしの休憩に入った。
ひよこ饅頭を口に入れようとすると、隣からシャッター音が鳴る。
「…何だ?」
スマートフォンを小鳥に向けて写真を撮る尊をチラリと見れば、ニヤニヤと締まりのない顔をしている。
「いや、小鳥とひよこ饅頭の組み合わせが可愛くて。」
記念撮影しないわけにはいかないだろうと、シャッターを連写される。
「写真ばっかり撮ってないで、尊も食べろ。」
包みから出したひよこ饅頭を尊の口許に押し付ける。すると、素直に口が開かれたので、そのまま食べさせた。
「そこ、堂々といちゃつくな。」
「何だ聖、苛々して。小鳥にあーんされる俺が羨ましいのか?」
聖からの注意に尊がヘラリと笑って返す。
すると、聖の眉間に一瞬にして深い皺が刻まれ、アルバイト達がヒヤヒヤとしていた。
小鳥はその様子をぼんやりと眺めながら、ひよこ饅頭を頬張る。
やさしい甘さが体に染み渡り空腹が満たされるが、今度は喉が渇いた。
目の前にはいい香りの紅茶が置かれている。けれどかなり熱そうで、冷まさなければ飲めそうにない。
小鳥は別に猫舌ではないので普段なら熱い飲み物も平気だが、今は口の中に口内炎ができている。
熱々の紅茶は口内炎にしみそうで、カップから立ちこめる湯気を見ながら冷めるのを待っていた。
すると、ふいに尊が立ち上がって冷蔵庫へと歩いていく。
戻ってきた尊の手には牛乳があって、それを小鳥のカップへと注いだ。
「これで冷めただろ。飲めそうか?」
「…ありがとう。」
コクリと頷き礼を言うと、尊に頭を撫でられる。
しかし、小鳥が紅茶が熱くて飲めずにいると、どうして尊は分かったのだろう。
小鳥は、口内炎のことを尊に言った覚えはない。
普段小鳥は熱いものも平気で口にしているのにと、不思議に思う。
「なんだ小鳥、猫舌なのか?」
「いや…」
尊とのやりとりを見ていた聖に尋ねられ違うと説明しようとすると、尊が小鳥の後を引き継ぐように口を開いた。
「口内炎ができてんだよ。だから、熱いもんとかは痛くて飲めないんだよな?」
「…そうだ。でも、何で尊が知ってるんだ?」
「そんなん、見てれば分かるだろ。」
「…そうなのか?」
「そうだ。」
「…そうか。」
自信満々に言いきる尊に、そういうものかと納得して頷く。
「いやいやいやいや分かりませんよ!?…尊さんって、ホント小鳥様のこと溺愛してるんですね…」
二人の会話を聞いていたアルバイトが呆気にとられたように呟いた。
「だよな。普通分かんねーよ。小鳥も、こんな小鳥バカの理屈をすんなり納得するな。」
いつの間にか営業から戻ってきていた助が、呆れたように突っ込んで会話に混ざる。
「助、もう帰ってきたのか。」
「おいこら尊。帰ってきちゃ悪いみたいな言い方すんな。」
労いの欠片もない尊の出迎えに、スーツの上着を脱ぎながら助が抗議する。
「おかえりなさい!助さん!」
「営業お疲れ様です!」
元気よく挨拶するアルバイト達にただいまと返しつつ、助も席についた。
「てか小鳥様って何だよ。お前うちのアルバイトに何しでかしたんだ?」
「…特別なことは何もしてない。」
小鳥の答えでは不十分だったのか、助は納得していない様子で聖が説明を加える。
「仕事の鬼になってた尊を一瞬で懐柔して休憩にまで漕ぎ着けた。」
「あ~、成る程。そりゃ、お前らからしたら神様みたいな存在に見えるわな。」
助の言葉に、アルバイト達は揃って激しく頷いた。
「そういや尊、あの仕事決まったぞ。先方が顔合わせがてら今度食事をと仰っていた。お前も強制参加だから予定調整しておけよ。」
尊と助が仕事の話を始めたので、小鳥は尊がミルクティにして冷ましてくれた紅茶を黙って飲む。
「あそこの社長、酒癖悪いから嫌なんだよなー。」
「だからこそ、尊は強制参加なんだろう。あの酒豪の社長に付き合えるのは、俺達の中じゃお前だけだ。」
今度の仕事先の社長との食事に難色を示す尊に、聖がビシャリと注意する。
「日程、いくつか候補聞いてきた。お前、どの辺りなら大丈夫そうだ?」
助が手帳を広げ、今から本格的に打ち合わせに入りそうな気配だ。
仕事を始めるなら、小鳥は帰った方が良いだろう。
飲み終わった紅茶のカップを持って立ち上がり、キッチンで軽く洗った。
「俺は、家に帰る。」
リビングに戻りそう尊に伝えると、腕を掴まれ引き留められる。
「帰るなら送ってく。」
「…一人で帰れるぞ?」
家まではエレベーターに乗ればあっという間だ。
「もう暗いし、危ないだろ。」
「あの…尊さんの家って、この真下ですよね?」
送っていくと言って譲らない尊にアルバイトの一人が思わず言葉をはさむ。
その顔には、同じマンションの敷地内という近距離移動なのに、一体何が危ないんだと書いてある。
「そうだ。けど、このマンションの住人の中に危ないやつが居ないとも限らないだろ。」
真面目な顔で力説する尊に、アルバイトは驚きで目が点になっている。
「あー、行ってこい行ってこい。尊はこうなったら絶対に譲らないからな。」
重度の過保護発言に慣れている助は、すんなりと尊の言い分を通す。
「…でも、打ち合わせの途中だろう?」
邪魔しては悪いと言うと、聖に髪を撫でられた。
「気にするな。お前を一人で帰らせてみろ、尊はその間ずっと小鳥を気にして、どうせ仕事にならない。」
「そーいう事だ。むしろ、送らせない方が作業効率が下がる。」
「よく分かってるじゃねえか。」
聖と助の言葉に、尊が清々しい笑顔を向ける。
「ドヤ顔するとこじゃねえ!お前、ホントいちいち偉そうだなぁ!」
「上から目線の意味がわからないな。」
すかさず二人から抗議をされるが、尊はものともしていない。
「それにしても…昔からすごかったけど、小鳥が大きくなるに連れて尊の過保護が悪化してないか?」
「同感だな。普通は徐々に放任になっていくものだろう。」
何を言っても無駄だと早々に諦めて、助と聖は呆れを通り越し、どこか感心したように呟く。
「小鳥の可愛さは年々進化してるんだよ。心配も増すのは当然だ。」
「……。」
尊に、な、小鳥?と、顔を覗き込まれ、反応に困る。
なにやらとんでもなく恥ずかしい事を言われているような気がするのだが。
とりあえずこれ以上話させないよう、尊の口に両手をギュウギュウと押し付け塞ぐ。
「…じゃあ、少しだけ尊を借りる。」
助と聖にことわってから、尊の手を引いて玄関に向かって歩きだした。
「…尊さんと小鳥様、ホント仲良しなんですね。」
背後では、アルバイト達が放心状態で見送っていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
83 / 233