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暴君の失態
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尊は、春が嫌いだ。
もう何年も前の事なのに、春…桜の季節が来る度に、母親が家を出ていった日の光景を思い出す。
その日の光景と一緒に、あのどうしようもない失望感も甦ってきて酷く苛立つ。
その苛々が、あっさり自分と父親を切り捨てた母親に対してなのか、いつまでもそんな母親のことを引きずっている自分自身へなのかは分からないけれど。
とにかく気分が落ち込んで、どうしようもなくなって、何かが抑えられなくなりそうで。
苛立ちをごまかすように一晩限りの関係に溺れる。
後腐れのない、体だけの関係。
別に、相手は誰でも良かった。女でも、男でも。
大切なのは、恋愛感情なんて面倒なものを持ち込まない相手であることだ。
尊と同じく、恋愛感情を不必要と考える相手と体を重ねていると安心する。
体の相性さえ良ければ、そこに気持ちはなくてもsexは十分に楽しめる。
恋愛なんて不確かで不必要。世の中には、そんな考えの人間が自分以外にもたくさんいる。
尊は、間違っていない。
それを確認するかのように、毎晩違う相手をとっかえひっかえした。
小鳥が寝てからひっそりと家を抜け出し、朝までに戻る。
尊が帰宅すると、いつも小鳥は出掛ける前と変わらず穏やかな寝息をたてているので、多分気付かれてはいないと思う。
けれど、普段はぼんやりふわふわしたこの子供は、変なところでとても鋭い。
もしかしたら、本当は全部気付いているのかもしれない。
だが、小鳥は何も言わない。
ぼーっとした無表情はいつも通りで、夜遊びを気づかれているか、そうでないかは尊には判断できなかった。
夜適当に遊んだ後、尊は家に帰ると必ず小鳥の部屋に行く。
無防備に眠る小鳥を眺め、起こさないよう慎重に隣に寝転び、自分より一回り以上小さな体を抱き締める。
ふわふわの柔らかな雀色の髪、透き通るように白い肌触りの良い頬、甘い優しい匂いのする首筋…
存在を確かめるように、丁寧に触れていく。
小鳥に触れていても、ついさっきまで触れていた、名前もろくに覚えていないような相手に求めた安心感は得られない。
安心するどころか、むしろ胸がざわついて落ち着かなくなるくらいだ。
触れた所から伝わってくる体温が愛おしくて、ずっと触れていたくなる。
まるで、触れたところから全身に幸せが巡っていくようだ。
こんな気持ち、尊は小鳥に会うまで知らなかった。
小鳥にしか感じないこの気持ちが何なのか・・・尊はまだ、答えを知らない。
*****
尊に手が離せない仕事があり、臣も用があった為、たまたま体の空いていた助が今日は小鳥の下校のお供をかって出た。
久々に小鳥と二人きりになった帰り道、助は意を決して口を開く。
「なあ、小鳥…。」
「なんだ?」
「その…最近、尊とどうだ?」
意を決したわりに、ずいぶんとぼかした表現になってしまった。
これではきっと意図が小鳥に伝わらない。
「…質問の意味がよく分からない。」
案の定、キョトンとした顔での小鳥の返答に、そりゃそうだよなと助は頭を抱えた。
毎年のことながら、春になると尊は荒れる。
仕事は真面目にしているし、表面上は全く問題ないのだが、長い付き合いからこの時期の尊のプライベートが荒みきっていることは容易に想像できた。
注意したところであの暴君が助の言うことを聞くはずもないし、好き勝手遊んでいるのだがら、この際尊のことはどうでも良い。
助が気になるのは小鳥だ。
自分の好きな相手が、毎晩のように相手を変えふらふらと遊び回っているという状況。
14歳といえば思春期真っ盛り。小学生の頃とは物事の感じ方も変わってくる。
尊が性にだらしないことを小鳥は小学生の頃から既に承知していたようだが、この時期の尊の遊び方は度を超している。
さすがにあの暴君も、ある程度バレないように遊んでいるとは思うが・・・・・
尊の豪遊に勘づき、小鳥が心を痛めているのではないかと助は心配していた。
夜出歩いているのに気付いたとしても、ただ飲みに出掛けているだけだとでも思ってくれていれば良いのだが。
探りを入れたいが、曖昧な言い方過ぎてどうにも上手くいかない。
かといって、あまり突っ込んだ質問の仕方をするのもまずい。
小鳥がどこまで知っているか分からないので、言葉は慎重に選ばなければ。
「その…春になると、尊は荒れるだろ。」
だから…と、言葉を続けようとしたが、今の発言で小鳥は助の言わんとすることが分かったらしい。
「あぁ、確かに最近は酷いな…。俺が寝た後、家を抜け出す。毎晩色んな相手といかがわしい事をしてるんだろう。」
・・・・・全部ばれてやがる。
大変よろしくない状況に、助は思わず立ち止まり渋い顔でこめかみを押さえた。
何をやっているんだ、あの暴君は。
「…助、どうした?頭が痛いのか??」
突然動かなくなった助を気遣い、小鳥が下から顔を覗き込んで尋ねる。
「いや、大丈夫だ。何ともない。」
ひとまず大きく深呼吸をして、何とか動揺を鎮める。
「えーっと、話を戻そうか。」
「…ん?尊の夜遊びの話か??」
「そう、それだ。あー…なんだ、その…夜抜け出すからって、必ずしもそういう事をしてるとは限らないんじゃねえか?」
ただ飲み歩いているだけかもしれないだろうと、何とかフォローを試みる。
「尊は、朝方帰ってくると、必ず俺のベットに潜り込む。」
「!?」
「それで、俺に抱きついて、あちこち触る。」
「!?!?」
「性的な感じじゃなくて、じゃれるみたいな感じだ。」
小鳥の補足説明に、未成年の弟に何いかがわしい事してんだ!と出かかった言葉をギリギリ飲み込む。
「抱きつかれた時、尊からするシャンプーの匂いが毎日違う。家のとは違うシャンプーの匂いがするのは、外で、風呂に入らなければならないような事をしたからだろう?」
そして、その香りが毎晩違うのは、きっと不特定多数の相手とそういう事をしているからだと小鳥は言った。
完全に的を得た解析に、助はもはやフォローのしようがない。
「…小鳥が全部気付いているって尊は分かってるのか?」
「多分、分かってないと思う。気づかれているかもしれないと、薄々感じてはいるだろうが。」
独特のぼんやりとした口調で語る小鳥はいたっていつも通り。
しかし、事情を聞かされた側の助は怒りに震えた。
ほんっとうに、何をやっているんだあの暴君は。
小鳥に好きだとはっきり告白されているくせに、その小鳥の前で何て無神経なことを。
恋愛感情を徹底的に否定する尊は、もちろん恋などしたことがない。
小鳥からの気持ちも、いまだに恋愛感情だとは認識していない。
だから、恋する人間の気持ちが分からないのかもしれないが、それにしたってもう少し何とかならないものか。
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