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暴君の失態6
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毎日同じ時刻に設定している携帯のアラームの音で、尊は目を覚ました。
「…だりぃ。」
アラームを止めながら朝一番に口をついて出たのは、そんな爽やかさの欠片もない台詞。
しかし、何やら体が重くだるいという言葉しか出てこなかった。
まだ覚醒しきっていない頭で、昨日のことを思い出す。
見たところ、尊が今居るのは自分の部屋だ。
けれど、尊は家に帰ってきた記憶がない。
昨日は新しい仕事相手の社長と食事会があって、尊はかなり酒を飲んだ。
社長との飲み比べには勝ったものの、疲れが溜まっていたのか、珍しく尊も酔ってしまって・・・・・
確か、店を出る前に一人の男に声を掛けられた。
ふんわりとした雰囲気の、可愛い系の男。
その男に、夜の相手のお誘いを受けて。
色素の薄い茶色がかった髪が、何やら小鳥と似ているなと、酔いがまわった頭でぼんやり考えながら尊はその誘いを受けた。
・・・・・この辺りから記憶が曖昧だ。
男と一緒に居る時に助に会ってタクシーに乗せられたような気がするが、結局あの男とはどうなったのだろう。
意識をはっきりさせようと、とりあえずシャワーを浴びることにする。
少し熱めに設定したお湯に打たれながら、尊は曖昧な記憶を辿った。
詳細は思い出せないが、多分、尊はあの男と寝たのだろう。
酔って目が霞んでいたからか顔はあまり覚えていないが、柄にもなくがっついたような気がする。
透き通るような白い肌は、触り心地が絶妙で。
自分から誘って来たくらいなので遊び慣れているのだと思っていたが、意外と初々しかったのを覚えている。
尊の与える快感に翻弄されて漏れる甘い声や、素直に反応する体に煽られて、珍しく行為に夢中になった。
いろいろ不確かな部分もあるが、思い出せた部分を整理して考えると、尊は食事会の後、声をかけてきた男と寝て、その後助に回収されたという所だろう。
夜遊びの現場を押さえられたとなると、今日会ったら助の小言が酷そうだ。
まあ適当に聞き流しておけばいいかなどと考え、シャワーを終えて朝食の準備に取りかかる。
今日は土曜日で学校は休みなので、小鳥はまだ寝かせておいても構わないだろう。
確かアクアが遊びに来ると言っていたので、尊が仕事に行く前には起こしてやらなければならないが。
そうしなければ、朝に弱い小鳥は恐らく昼過ぎまで寝ているだろう。
朝食の仕度を終え、小鳥と食事を済ましたらすぐに出勤できるよう、身なりを整えて小鳥の部屋へと向かった。
「おーい小鳥ー?」
ノックして名前を呼びながらドアを開けると、すでに小鳥は起きていた。
窓辺の床に座っていた小鳥は、尊の声にビクリと肩を揺らす。
「お前がこんな時間に自力で起きてるなんて珍しいな。」
部屋に入り近寄っていくと、小鳥はわたわたと慌てて何かを片付けた。
どうやら絵を描いていたらしく、床には絵具やパレットが散乱している。
「…っおはよう。」
「あぁ、おはよー。朝食用意できてるからリビングで一緒に食おう。」
「…わかった。すぐ、行く。」
小鳥はどこか落ち着きがなく、視線をあちこちにさ迷わせている。
一緒にリビングへ移動して朝食を食べはじめても、小鳥はずっとそわそわしていた。
「小鳥、こぼしてるぞ。」
「…あぁ。」
テーブルの上には、サラダに入れたコーンやグリンピースがあちこちに散らばっていた。
下手をすると、小鳥の口に入るよりこぼれた量の方が多いかもしれない。
小鳥はいつもぼんやりしているが、今日はちょっとレベルが違う気がする。
それに、挙動不審な態度も気になる。
尊が小鳥の方を向いていない時には、ずっとこちらをぽーっと見つめているのだが、尊が視線を合わせるとそっぽを向く。
いったい、何がしたいんだか。
「あーっ小鳥、またこぼしてるって。」
上の空で食事をしていたので、小鳥のフレンチトーストから、たっぷりかけておいたはちみつが勢いよく溢れた。
とろりとはちみつが流れ落ちた手を取り、舌を這わせて舐めとると、ビクッと小鳥が大きく反応を示す。
上目遣いで小鳥を窺うと、パチリと視線があった。
「~っ!!」
その途端、小鳥の頬がじわりと赤くなり、プルプルと震えだす。
よく分からないが、とりあえずものすごく可愛い。
基本、物事に動じずどこまでもマイペースな小鳥が、こんなにも色々な反応を示すのは珍しい。
「…っ、みこと、手…離してくれないと、食べられない。」
しばらくじっと見つめていると、小鳥が控えめに抗議してきた。
「俺が食べさせてやるよ。さっきからお前こぼしてばっかだし。」
掴んだままだった小鳥の手からフレンチトーストを拝借して口許に差し出すと、しばし間があいたものの、素直に口が開かれた。
もぐもぐとパンを咀嚼しながら、物言いたげな雀色の瞳がじっと尊を見る。
「なあ小鳥、今日はどうした?何かそわそわしてるよな?」
「……。」
「俺に、何か言いたいことがあるんだろう?」
パンを飲み込むと、小鳥はゆっくりと口を開いた。
「…昨日のあれは…何だったんだ?」
「あれ?あれじゃ分かんねーよ。もっと具体的に。」
「……。」
とぼけている訳ではなく本当に分からなくて説明を求めたのに、小鳥にジロリと恨めしそうな目で見られる。
「…俺に、色々…しただろう。」
「…色々?」
そこで、もしやと思い至る。
「あー、…俺昨日相当酔っぱらって帰ってきたよな?悪い、家に帰ってきた記憶すらなくて。もしかして俺、何か変なことしたのか?」
そう言った瞬間、小鳥の目が大きく見開かれた。
その瞳に浮かんだのは驚き。
そのあとに、一瞬酷く哀しい色を映した。
「…ことっ」
俯いた小鳥が心配になって、名前を呼びかけたのだが・・・・・
「いっってぇぇぇ!!!」
フレンチトーストを持っていた手に、思いきり噛み付かれた。
条件反射で引っ込めた手から、フレンチトーストが落ちる。
それを小鳥は空中で華麗にキャッチすると、がぶがぶと勢いよく食べ進めた。
「…小鳥さん、何でそんな怒ってるんですかね?」
物凄く機嫌が悪そうな小鳥に、思わず敬語になった。
「……。」
尊の問いを無視してひたすらがぶがぶがぶ…と口のなかにフレンチトーストを詰め込んでいく小鳥。
最後の一口を飲み込むと、ごちそうさまでしたと言って自分の部屋へと駆け込んでいった。
怒り心頭の状態でも、尊の料理をしっかり完食する辺り、小鳥は本当に変なところで律儀だ。
いや、今はそんな風に感心している場合ではないのだけれど。
「おい小鳥っ!何怒ってるんだよ!?」
追いかけて、閉ざされた小鳥の部屋の扉の前で呼びかける。
ドアノブを捻るも、鍵が掛けられていて開かなかった。
「小鳥!開けろ!どーしたんだよ?」
「うるさい!俺はもう知らない!」
部屋の中から怒鳴り返され、軽く衝撃を受ける。小鳥がこんなに声を荒げるなんて、めったにない事だ。
「なあ小鳥、俺が何かしたならちゃんと謝るから。」
「…別に、謝って欲しい、わけじゃない。仕事の時間だろう?さっさと行かないと遅刻するぞ。」
もう、小鳥の声は怒ってはいなかった。けれど、いつも通りの声ではなかった。
きっと、ドアの向こうでしょんぼりとしているのだろうなと尊は感じた。
小鳥がドアを開けてくれるまで粘りたいが、確かにそろそろ出なければ仕事に間に合わなくなる。
今日は大事な打ち合わせで、遅れるわけにはいかない。
「小鳥、昼に一旦家に帰って来るから。そん時、もう一回ちゃんと話させてくれ。」
「……。」
返事はなかったが、尊は後ろ髪を引かれながらも仕事に出掛けた。
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