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小鳥の涙2
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隣にあった華奢な体がグラリと傾いて、聖は咄嗟に抱き止めた。
支えるために小鳥の腕を掴む。その腕が思っていた以上に細く頼りないことに驚いた。
「小鳥!?」
美羅が慌てて呼び掛けるが、小鳥からの返事はない。
泣くでもなく、叫ぶでもなく、聖の腕の中で小鳥は虚ろな目をして小さく震えていた。
「美羅、コンビニに行ってみよう。まだ尊さんが事故にあったって決まったわけじゃない。」
写真に写っているコンビニへ行けば何か情報が得られるはずだと、美羅の手を臣が握る。
「…そう、ね。そうよね。聖さん、小鳥をお願いします。」
「任せろ。そっちで何か分かったら知らせてくれ。」
二人は頷いて、コンビニへと走って行った。
正直、聖はかなり動揺している。多分、美羅と臣も。
あの潰れた車は、間違いなく尊のものだ。
けれど、尊が事故にあったなんて信じられなかった。そんなことあるはずないという気持ちが強く、全然実感がわかない。
だが、この怯えようからして、小鳥はそうじゃないようだ。
「小鳥。臣の言うように、まだ尊が事故にあったと決まったわけじゃない。小鳥、聞こえてるか?」
小鳥の顔を覗き込んで尋ねるが、やはり返事はなかった。
世界の全部を拒絶するかのように、体を強ばらせて、震えている。
強く握り締められた手に爪が刺さり、血がにじんでいるのを見つけ眉をひそめる。
そっと自分の手を小鳥の拳に添えて、ゆっくりと手を開かせた。
膝裏に手を差し込んで小鳥を抱き上げ、しっかりと目線を合わせてもう一度呼び掛ける。
「小鳥。」
すると、返事はないものの、空中ばかりを捕らえていた小鳥の視線が聖の瞳へと向けられた。
何とかこちらの声が届いたようだ。
「とりあえず、移動しよう。」
「…でも、俺、ここで…尊、待ってないと…」
弱々しい声で訴える小鳥に、胸が痛んだ。
「ここじゃなくても、家で待っていればきっと尊は帰ってくるだろ。」
反応は返って来なかったが、特に抵抗もされなかったので、聖は小鳥を抱き抱えたまま清峰家へと向かった。
小鳥の鞄から勝手に鍵を取り出してオートロックを解除する。
小鳥はずっと震えながら、大人しく聖に運ばれていた。
リビングのソファーへと小鳥をおろし、自分も隣に腰かけて主のいない部屋をぐるりと見渡す。
ベランダに干された、尊と小鳥、二人ぶんの洗濯物。
台所のシンクには、色ちがいの二つのマグカップ。
こんな緊迫した状況でも、部屋の中は普段通りで二人の生活感に溢れている。
当たり前の日常の空気が流れる静かな部屋の中に居ると、やはり尊が事故にあったなんて、何かの間違いだという気がしてならなかった。
「小鳥、尊ならきっと…」
きっと大丈夫だと、言ってやるつもりだった。
けれど、世界中で独りきりになってしまったかのように不安に揺れる瞳の小鳥を見て、言葉が出てこなくなる。
無責任に大丈夫だなんて、とても言えなかった。
そんな気休めを言ったところで、この子供が感じている恐怖は、ほんの少しもなくなりはしない。
何も言えない代わりに、小鳥の肩を抱き自分の肩へと寄りかからせた。
どこか掴まえていないと消えてしまいそうだと思った。
そんな事あるはずないのだが、そう思わずにはいられないくらい、今の小鳥は危うく儚い。
もともと白い肌が、更に色をなくし青ざめて痛々しい。
触れているところから伝わってくる鼓動は酷く早く苦しそうだ。
少しでも落ち着けばと、一定のリズムで背中をトントンと軽く叩く。
しばらくそうしていると、ポケットに入れていた携帯が震え、lineの通知音が鳴る。
その内容に一瞬息をつめ、けれど確認した後は素早く携帯をしまった。
それから少し経つと、玄関の開く音がした。
その後に続くのはバタバタと慌ただしい足音。
勢いよく、リビングの扉が開かれる。
「小鳥!!」
「…っ!」
小鳥の体が、ピクリと跳ねる。
扉の前には、尊が立っていた。必死に走ってきたのか、息を切らし額には汗がにじんでいる。
「…み、こと?」
大きな目をこぼれ落ちそうな程見開いて、小鳥が呆然と呟く。
「悪い、心配かけたな。」
足早に近付いてきた尊が、ソファーの下に膝まずいて小鳥の頭を撫でる。
「…どこか、…怪我……痛いとこは?」
「ないよ。見ての通りピンピンしてる。」
恐る恐る腕を伸ばした小鳥が、尊の頬を両手のひらで挟み込むようにして触れる。
尊は苦笑して、小鳥の手に自分の手を重ねた。
「コンビニの前の道路で、玉突き事故があったんだ。弾き飛ばされた車が、俺の車に突っ込んで来たけど、俺はちょうど買い物してて、車には乗ってなかったんだよ。」
けれど携帯は車に置きっぱなしだったので壊れて連絡が出来なかったこと。
警察に事情を聞かれたりでコンビニを離れられなかったこと。
尊が状況を説明している間も、小鳥は呆然とした様子で、話をちゃんと聞いているのか怪しかった。
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