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俺には最近、気になることがある。
俺の働いている職場は、ビルが立ち上る都会の中にある一角。
5階建ての大型書店だ。
俺は、その中の少年、青年漫画コーナーを担当している。
隣は少女、女性向けの漫画コーナーとなっているのだが…
そこに、1ヶ月前くらいから毎日通っている人物こそが、俺の気になる原因なのだ。
うわぁ~、今日もまた凄いの買おうとしてるぞ、あの人。
その人物が手に持っている漫画は、男同士の恋愛を描いた…
いわゆるBL漫画というやつだ。
2人の男の子が体を絡ませて、見つめ合っている。
そんな漫画の表紙をジーッと食い入る様に見つめている、黒髪、スーツ姿の細身の男性。
男性?…いや、うん、間違ってないよ?
彼は何処からどうみても、男なんだ。
時刻は午後6時。
仕事帰りであろうスーツ姿の社会人や、学校帰りの学生で溢れる店内。
この男は、毎日この時間帯にご来店される。
こんな時間帯に来て、誰か知人に出くわしたりしないか、とか。
他のお客さんに見られて恥ずかしいとは思わないのだろうか…。
いや、むしろ人の多さを利用して、カモフラージュしてたりするのか?
どちらにしろ、その光景を毎日見ている俺の方が、逆に気を遣う…。
そんなこんなで、この人物は毎日BL漫画をお買い上げされる、変わった男の人なのだ。
*******
「いらっしゃいませ」
無言でレジの台に漫画を置く例の男。
左に流した髪の隙間から見える大きな目が、とても印象的だ。
この人、いつも無表情で無愛想だけど、よく見たら可愛い顔してるんだよなぁ…。
つーか…
「今日は遅いんだな」
「…え?」
あっ、ヤベッ!
時計をみれば、夜の9時を回っていた。
今日はいつもより遅いなぁと思ってたら、つい口に出てたなんて…
何してんだよ、俺のバカ!
咄嗟に口を押さえて、何でもないと首を横に振る。
「俺のこと、知ってるの?」
「えっ、いや、え~っと、常連さんなので…」
いやいやいや、毎日ご来店されて、しかも男であんな漫画購入されてたら、嫌でも目に付くだろうが!
もしかして、本気で誰も見てないとでも思ってたのか?
「…ふーん、そっか」
「あっ、えと、妹さんとかの頼まれ物なんですか?」
「え、何が?」
「いや、その、漫画…」
ぼーっとした無表情で俺を見据える男。
この人、ホントにいつも無表情だな。
リアクションとか取れないのかな。
遅い時間帯なので、レジの周りにお客さんはいなくて、店内にも数人のスタッフしかいない。
そんな中で俺たちは無言で向かい合っていた。
「…いや、これ、自分用」
「…あ、そうでしたか!それは、失礼いたしました…」
「いや、別にいいよ」
あーうん。
ですよねーうん、そうですよねぇー。
毎日、新刊チェックしてるし、漫画を手に取った時に若干、本当に若干、顔が緩みますもんねぇ。
作り笑顔でそう返答すると、仕事を思い出したかのように自然と手がバーコードを打っていて、気付いた時には例の漫画はキレイに袋に詰められていた。
「はい、お待たせいたしました。ありがとうございます」
笑顔でその袋を差し出す。
その様子を男は無表情でじーっと見つめていた。
え、俺やっぱりマズイこと聞いた?
つーか、これって。普通の人なら人権侵害とか言って怒り出したりするのかも。
あっ、ヤバい、それはヤバいぞ、俺。
色々考えていたら、サーっと血の気が引いてきて、指先まで一気に冷え切ってしまった。
「あっ、あ…の、どうかされましたか…?」
「ねぇ、いくらなの?」
「…えっ、あっ!すみません…えーっと、670円になります」
なんだよ、そー言えば俺、お金もらってないんじゃん!
怒ってる訳じゃなかったんだな…良かった。
裁判台に立たされている、嫌な想像までしてしまった俺の胸は、安堵と共にそっと撫で下ろされた。
「少々お待ち下さいね」
「…」
「はい、1070円お預かりいたします」
「…」
「400円のお戻しで…って、え⁉︎」
お釣りを渡したその手をグイッと引っ張られる。
えっ、なに。
もしかして、怒ってるのか⁉︎
やっぱり怒ってるんだよな⁉︎
さっきのこと、聞かなきゃ良かった‼︎
数分前の俺のバカ‼︎
怖くなって、ギュッと目を瞑った…。
「あのー…大丈夫?」
「っ、え?」
「これ、良かったら受け取って欲しいんだけど」
「…えっ」
ふと目を開けた、その手の平には名刺がそっと置かれていた。
ん?名刺?どういう…え?え⁉︎
その名刺には…
えっ、なに⁉︎嘘だろ⁉︎
この人、向かいのビルの大手IT企業の部長様じゃねぇかよーー‼︎‼︎
俺は、その名刺と男…峰塚さんの顔を食い入る様に見つめた。
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