アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2
-
「…江野くん、お疲れ」
「あ、峰塚さん。いらっしゃいませ。お疲れ様です」
ボーダー柄のネクタイに、ネイビーのスーツ姿。
そして、いつも通りの無表情面した男が俺に挨拶をする。
本当に、いつ見ても相変わらずの無表情っぷりだ。
あれから、峰塚さんは書店で俺を見かける度、話しかけてくる。
しかも、こっちは名札を付けてるから、必然的に苗字で呼ばれるようになっていた。
いや、別に従業員とお客様の立場だし、声を掛けてくれるのはいいんだけど…。
でも、この人…もしかして…
勘違いしてたりするのか?
「ねぇ、江野くん。ちょっと聞きたいんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
「オメガバースの新作で、何かオススメの漫画ある?」
「オメガ…?」
「あれ、知らない?最近、流行ってる設定で、」
「えーあー…俺、少年青年漫画が担当なもので…」
「…あ、そうだったんだ」
やっぱり間違えられてたか…。
まぁ、隣のコーナーだからな。
間違えるのも無理はない。
でも、男性店員が女性向け、しかもBLコーナーの担当だったら…引くだろ。
仮にそうだとしても、女性のお客さんが多いジャンルであるから、男性が担当だと色々と尋ねにくいこともあるだろうし…。
「じゃあ、江野くんのオススメ教えて」
「…え?」
「まぁ、大体読んでるから知ってるかもしれないけど」
「え…えっ⁉︎いや、俺そういうの読まないですよ⁉︎えっ、つーか全然興味ないし‼︎」
あっ、まただ。
「?」マークは付いてるけど、ぼーっとした顔で俺を見てる峰塚さん。
つーか、待て待て。
もしかして、俺。こういうの読む人だと勘違いされてた⁉︎
流石にそこまでは頭回らなかったぞ‼︎
身体中から、変な汗がダラダラと流れる。
いつもはこんなんじゃないのに、この男と出会ってから俺は焦ってばかりだ。
「…あれ、江野くんって、腐男子じゃないの?」
「えっ、いや、ふ?えっ、なんて?」
「いや…何でもない。…じゃあ、何で声かけてきたの?」
「えっ、いや、何か、その、つい…ってか、あれは独り言で!」
2週間程前、峰塚さんの前で「今日は遅いんだな」と独り言を呟いた時の光景が、頭の中を駆け巡る。
何であの時、つい口走っちゃったんだよ、俺。
ふ?…なんとか、とか全然わかんねぇよ。
困って、頭をガシガシ掻くと、ふと疑問に思ったことが脳天を貫いた。
「じゃあ、リアルはどうなんですか⁉︎」
「…え?」
その言葉に、峰塚さんは勿論のこと、自分自身でさえも目を見開いて驚く。
2人共見つめ合ったまま固まってしまった。
辺りはまるで極寒の雪山。
その吹雪の中に2人だけが取り残されたかのようだ。
つーかああぁぁ‼︎
俺は、また何てこと言ってんだー‼︎
もし、リアルの男同士にも興味があるとか言われたら、俺はどんな反応をすれば…⁉︎
もう、この間みたいに笑顔で返答出来る様なレベルの内容じゃねぇぞ⁉︎
心臓をバクバクさせながら、後ろに体を仰け反る…。
今すぐ!今すぐ此処から立ち去りたい‼︎
「リアルって…俺がホモかどうかってこと?」
「あー、えーと…ははっ。いや、なんでもないです!忘れて下さい!じゃあっ!」
慌てて、その場から立ち去ろうとすると、背後から「ちょっと待って」と呼び止められる。
振り返ると、無表情なのは何時もと変わらないのだが…
目をギラつかせ、邪険なオーラを纏った峰塚さんが、俺の腕を掴んでいた。
「あっ、その…ごめんなさ」
「リアルは無理。あり得ない。気持ち悪い。ヘドが出る」
「え…あ、そう、ですか」
「というか、江野くんも腐男子仲間かと思ってたんだけど、違うのか…」
「あ、はい。ふ?なんとか、ではないと思います」
「…ああ、腐った男子と書いて腐男子って言うんだ。男同士の恋愛漫画とか小説とかが好きな人達のことをそう呼ぶ」
「へぇ…」
どうやら、ホモかどうかという質問に対して、怒っている訳ではないらしい…。
そう答える峰塚さんに、俺の心拍数が少しずつ下がり、落ち着いてきたのが分かる。
…ビビったーー‼︎‼︎
殴られるのかと思ったぞ!これ!
そんな勢いだったよね、今!
というか、腐男子ってそういう意味だったのか。
BL漫画のことは知ってたけど、腐男子って言葉は初めて聞いたな…。
「峰塚さんは…その、腐男子なんですよね?」
「ああ。可愛い男の子同士がいちゃつくのが最高。俺の生きがい。バイタリティ。活力。」
そう言うと、少し嬉しそうに微笑みながら、新刊の棚から漫画を一冊取り出し、両手を添えて俺に見せる。
あっ…今微笑んだ?
この人、基本無表情だけど…
さっきみたいに怒ったり、こうやって微笑んだりも出来るんだ…。
まぁ、その漫画の表紙はいつものことながら…ですが。
色んな意味でこの人凄ぇと思いながらも、峰塚さんはリアルには興味がないということを知り、ある意味安堵する自分がいた。
つーか、この人。
口悪いなぁ…。
こんな可愛い顔してるから、顔と毒舌のギャップが激しい。
「でも、残念だな。腐男子仲間かと思ったのに」
「なんか、勘違いさせてしまったみたいで、すみません…」
「いや、俺が勝手に勘違いしてただけだ。巻き込んで悪かった」
そういうと、漫画を数冊手に取り、レジに向かって行った。
その後ろ姿を目で追う。
…とりあえず、腐男子じゃないことは伝わったみたいで良かった。
だけど、なんだろう…
淵落ちないのは、なんで?
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 22