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3.3
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閉店時間はとうに過ぎていて、辺りのビルからは光が消えていた。
空を見上げると、キレイな満月が浮かび上がっている。
そんな夜空を見ながら、俺は深い溜息をついた。
「江野くん」
帰路につこうと、自身の自転車に手をかけようとした背後から、名前を呼び止められた。
振り返るとそこには、書店の看板を背に、腕組みをしている峰塚さんがいて…。
「あ、峰塚さん。さっきは、すみませんでした」
ヘラっと笑いながら、峰塚さんの元へと早足で駆け付ける。
さっきのことで上司にも怒られて、理由書を書かされた今。
正直、誰とも話したくなくて、1人にさせて欲しかった。
でも、さっきは俺のこと助けてくれたし、毎日通ってくれている常連さんだから、下手なことは出来ない…。
「お疲れ様」
「あっ、はい、お疲れ様です」
「…そんなに落ち込むな。失敗は誰にでもある。次に生かせばいい」
「…」
「な?」
「峰塚、さん…」
俺より少し背の低い峰塚さんの手が優しく俺の頭を撫でる。
その優しさに、救いの言葉に、胸が熱くなって、気付いたらぽろぽろと涙が溢れていた。
「俺、こんなこと…初めてで…っ」
「うん」
「どうしたら、いいか…わかんなくて」
「…」
「だから…っ、峰塚、さん」
「…」
「ありがと、っ、ざいます」
俺は無言で頭を撫でてくれる峰塚さんの肩に顔を埋めて、その優しさに甘えてしまう。
いつも、無表情で何を考えているのかわからない峰塚さん。
なのに、俺の頭を撫でる峰塚さんの手はとても優しくて…。
でも、心なしか少し冷たくて…。
きっと、俺の仕事が終わるまで、ずっと外で待っていてくれたんだろう。
…なんて、いい人なんだろう。
女神か?神様か?
どちらにしろ、今の俺にとっては救いの存在だった。
そして、この時。
俺の心に火が灯ったのは、後から考えても、確かに嘘ではなかったんだ。
木枯らしが吹く都会の真ん中。
2人の影が満月に照らされて、そっと揺れる。
そんな肌寒い夜空の下、俺は峰塚さんの背中にそっと手を回し、縋るように泣き明かした。
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