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「はぁ…やっぱり、ない、よな」
頭を抱えながら、溜息をつく男。
17時10分に針を刻んでいる腕時計を凝視して、また深い溜息をついた。
「峰塚さん、いらっしゃいませ」
「…ああ、江野くん…か」
「もしかして、『りゅう』さんの新作ですか?」
「ああ、そうだ。あれ、店頭販売のみだろ。本当は昼休みにでも買いに来ようかとしたんだが、どうにも抜け出せなくて…。一体、何時に完売したんだ?」
「確か、4時頃に学生さんが最後の1冊を購入されてましたよ」
そうか…と残念そうに視線を逸らす峰塚さん。
これは、結構応えてるみたいだな。
そんな峰塚さんの手を取り、後ろに隠してあった例の漫画をそっと手渡す。
「えっ」
「良かったら、受け取って下さい」
「これ、は…」
峰塚さんの手には、さっき完売した『りゅう』さんの新作漫画が握られている。
いつも同じ漫画を2冊購入して、1冊は保管用にしてるみたいだから、初回限定版と通常盤の2冊にしてみたんだけど…。
どうしたんだろ、峰塚さんが漫画を持ったまま固まってしまった。
「…これは、貰えない」
「えっ」
「俺達は客と従業員の立場だろ」
峰塚さんは手に持っていた漫画を俺の前に突き出してきて、俺の手に握り返された。
そう、だよな…。
俺、何勘違いしてたんだろ。
ちょっと優しくしてくれたからって、何回か仕事帰りに一緒に帰ったから、って…。
峰塚さんにとって、俺は毎日通っている書店の、従業員の1人だったんだ。
でも…。
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