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target3-15.嫌な予感
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生徒会室のドアがノックなしで開かれ、璃空の机に真っすぐ歩いていく颯都の姿を京弥が視線で追う。
颯都は璃空の机に何かの紙を叩き付けるように置いた。
「…サインしろ」
「なんだ、婚姻届か?」
璃空の言葉に、京弥が飲んでいた緑茶を吹く。
昨日の今日で嫌悪を露わにしたまま颯都は顔をしかめ、凍てついた眼で璃空を睨む。
「お前の親衛隊の過激な行動に関する事例を纏めた書類だ」
「ほう…よく此処まで集めたな」
璃空は書類に目を通してから、サイン欄にサインを記入する。
それを受け取った颯都は、璃空を真っすぐ見て念を押す。
「…最低限自分の親衛隊位管理しろ。俺や他の奴を巻き込むな」
用事が済み歩き出す背中に璃空が声を掛ける。
「巻き込まれて本望だろう?」
「…最悪の間違いだろ」
満足げに笑う自信家を睨み、颯都は生徒会室から立ち去った。
あれから雪斗には言わずに親衛隊の周辺を洗い、ある情報に辿り着いた。
ずっと気に掛かっていた、あの不良達の異様なまでの力の飛躍的変化。
それと、颯都が飲まされた催淫剤の出所。
それらは同じ場所から開発された薬だった。
それを突き止めた今、配布するのを阻止しなければならない。
風紀委員長の役目でもあるが、それより颯都自身が許せないのが大きかった。
脳内に薬を飲まされてからの屈辱のが光景がまざまざと蘇る。
あの薬が無ければ、あんな屈辱を受ける事も無かっただろう。
想定出来るリスクは最小限に抑える。
安全で衛生的な学園生活を送る為だ。
無意識に、握った拳に力が入った。
―――――――…
―――
―――――……
研究棟の一室のドアを開け放つと、中にいた白衣を着た生徒達が振り向き、颯都の鋭い目線に肩が竦む。
「お、鬼の風紀委員長…!」
「なんでこんな所に!?」
「てめぇらが一番良く知ってるんじゃねぇのか?」
颯都が近付くと、固まった数人が後退していく。
「い、一体なんの…」
「無許可での人体に危険を及ぼす薬の開発。言い逃れは出来ないぜ?」
真相を事細かに書かれたサイン付きの書類を突き付けられ、言葉を詰まらせる。
すると生徒達の後ろのドアが開き、同じく白衣を纏った教師らしき中年男性が現れた。
颯都の存在に気が付き一瞬目を見開くと、取り繕った笑顔で話し出す。
「五十嵐君じゃないか。私の誘いに乗ってくれる気になったかい?
君ほどの頭脳があればいつでも大歓迎なんだけどね」
編入当初から、この部の顧問にはしつこく部への勧誘を受けていた。
しかし、どうもこの貼り付けたような笑顔が胡散臭くてならないと断り続けていた。
颯都は冷たく答える。
「生憎、風紀委員会で忙しいんで」
「そうか…では、実験に協力してはくれないか?
君の血を月ごとにほんの少し採取させて欲しい。君に凄く興味があるのでね…」
眼鏡の中央のブリッジを押し上げ、柔和な表情で語る。
聞けば聞く程不快になってくる。
要は俺を被験者にしたいんだろ、と颯都は頭の片隅で思う。
つくづく、相容れない。
「顧問まで共犯とはな…薬を売って商売でもするつもりだったのか?」
「科学者という者は常に最先端の研究を追い求めるものだよ。あの発明はこの学園だけではなく広い人々にも役に立つ」
「だとしても…それが風紀を乱すなら容赦はしない」
灰青の眼で射抜かれ、全員が恐怖で硬直した。
ある者は寒気と恐怖に震え、ある者は冷や汗をかいて表情を引きつらせる。
あっという間にものの数十秒で、床に研究生たちが折り重なった山が出来上がった。
その光景を怯えて見ていた顧問は、颯都が眼を向けるとビクッと肩を震わせる。
「開発に関わった全員には一週間の謹慎を言い渡します。
研究をする際は風紀委員会から必ず認可を取ってください」
「あ、あぁ…」
静かな迫力に押され頷く。
「薬は全て処分します。次に此の様な事が有った場合は……」
「…わ、解った!もうあのような薬は作らない!」
顧問が宣言し、漸く問題は終結した。
颯都は残りの薬を全て跡形もなく処分し、他にも危険物がないか調べ終えると、研究室を出て風紀委員室へと歩き出した。
その途中で、ポケットに入れていた携帯が振動し出した。
開いて画面見ると雪斗からの着信で、立ち止まり通話ボタンを押す。
「もしもし」
『颯都さん?僕、今すぐ颯都さんに会いたくて…僕のいる場所に来てくれますか?』
颯都は、すぐに声で分かった。
雪斗じゃない。
「…誰だよお前」
すると電話越しの声はあはっ、とわざとらしく笑う。
『バレちゃったぁ?結構似てると…』
「雪斗は何処だ」
『第二用具倉庫。…早く来ないと、大事な人がいなくなっちゃうよ』
心臓が、どくんと跳ねた。
「雪斗に手を出すな…ッくそ!!」
言い終わる前に通話を切られ、颯都は急ぎ携帯を仕舞うと第二用具倉庫に走り出した。
雪斗の柔らかな微笑みと、頑固で純粋で一途な言動は、ある人とよく似ていた。
酷似した過去と今が重なる。
血流が脈打ち、胸が軋んだ。
焦燥感に突き動かされ、人気のない廊下をひたすら走っていく。
眼が疼き、嫌な感覚が付きまとうのを感じながら。
(必ず間に合わせる)
(もうあんな事…絶対起こさせねぇ…ッ)
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