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target3-17.根本的解決
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手負いの獣のように警戒する少年に、少し空間を空けて颯都は歩みを止めた。
黙したまま、少年の眼を見る冷徹な眼。
少年は恐怖感に負けまいと必死で、自分より身長の高い颯都を睨み付けた。
問題の根底を見極めて解決しなければ、いずれまた同じ事が起きる。
このまま危なげな少年を処分しようとは、颯都は思えなかった。
「…初等部の頃から、彼奴の事が好きだったのか」
「あぁそうさっ!…ずっと見てきた。璃空様の眼がオレを見る事なんかないって分かってる」
「何故そう決め付けるんだ」
「そんなの決まってるだろ!璃空様に憧れを寄せるヤツらなんて山ほどいる…あの方は特別なんだ。
オレなんか、相手にされる訳ないだろ」
少年は諦めた口振りで話す。
しかし颯都は少年を観察していて、矛盾を感じていた。
「…本当にそう思ってるのか?」
少年はピクリと反応し、颯都を反発的に睨み付ける。
「…何が言いたいんだよ」
「お前のは全部、振りなんだよ。
護ってる振り、諦めた振り…本心を隠したままじゃ、満足なんて出来ないだろ。
…何時まで逃げてる気だ?」
その言葉で心臓が大きく音を立てると胸が苦しくなった。
今まで堪えてきた想いが涙と共に溢れ出す。
「オレだって…!ホントは諦めたくない!ちゃんと伝えたい…けど怖いんだよ!
だから、堂々と伝えられる人達が羨ましくて…璃空様と話してるのを見たら、妬ましくなって……こんな自分が嫌になる…っ!」
袖で涙を拭っても拭っても、涙は止まらない。
相反する思いと、今までして来た事の罪悪感で押し潰されそうになっている少年を、優しい腕がそっと包み込んだ。
驚いて見上げると目が合い、何故か逸らせなくなった。
「もう充分だろ。意地張るのも、我慢すんのも。誰にでも限界が有る。
お前は、相談出来る奴は居るのか?」
少年は、ただ首を横に振って答える。
「先ずは誰でも良いから相談してみろ。お前は暴力で解決すると思ってたのかも知れねぇが、実際何も変わらねぇだろ。
何かを成したいなら、自分を変えろ」
「でも…どうしたらいいのかわかんな…っ」
嗚咽を上げ、言葉になっていない少年の頭を撫でる颯都は、ほんの少し微笑を浮かべている。
「少しずつで良い。急に変われはしねぇしな。
弱味を見せられる奴が居るなら、後はどうにでも変われる」
「…っ…ホントに?」
「あぁ。…今は取り敢えず泣け」
颯都は少年の後頭部を引き寄せ、頭が胸板にぶつかる。
低めの体温が、心地よく感じてしまうのは何故だろうか。
こうやって泣くのは、随分久しぶりな気がした。
また透明な液体が溢れ出し、涙声で少年は語る。
「オレ…璃空様が好きだ…っ」
「あぁ」
「誰かに、取られるのが怖いんだ…!俺、ホントは…近付きたくて、仕方ないのに…!」
「其れに気付けただけで、大きな進歩だ」
「でも…、こんなこと相談出来るヤツなんか…」
「…居るだろ、此処に」
「…えっ…?」
降りかかった言葉に顔を上げると、バチッと目が合った。
大きく開き、泣いて真っ赤になったつり目。
涙と一緒に鼻水も出て、ぐちゃぐちゃになっている。
それを見ると颯都は、ふっと笑った。
「ひでぇ顔」
ムッとした少年は、頬を真っ赤になりながら、上目に思い切り睨み付けた。
「…うるさいっ」
―――――――…
―――
―――――……
「雪斗、お前風紀委員会辞めろ」
親衛隊隊長の少年が帰って行くのを見送ってからの颯都の第一声。
無論雪斗は驚いて颯都の顔を見る。
「何でですか!?そんな突然…」
「関係無いお前まで巻き込んだ。同じ事が起きる危険性も有る」
「だからって…俺は、辞めるつもりはありませんから」
「お前は解ってない。俺と居ると危険な目に遭うだけだ」
「風紀委員なんですから、仕方ないでしょう。それに俺は強く…」
「そういう問題じゃない!!また…彼奴に……ッ」
突然声を荒らげた颯都は、歯をギリッと噛み締め無意識に握った拳に強く爪を食い込ませた。
必死に、何かを堪えるように。
重なる微笑み。今。
過去。フラッシュバック。
異変を感じて駆け付けた先の…――赤い、惨劇。
激しい頭痛と共に、眼が疼くのを感じる。
「…ッ理事長には、俺から説明する。此以上…俺に関わるな」
背を向け立ち去ろうとする颯都に抱き付き、雪斗はハッキリとした声で告げた。
「嫌です。
俺は何と言われようと、颯都さんの傍にいると決めたんだ」
「…勝手に、」
腰に巻き付いた腕を外そうとするが、思いの外離れない。
「颯都さんこそ、勝手に一人で決めないでください。
少しくらい…俺を頼ってよ」
背中越しに聞こえる、切ない声。
やはり酷似しているそれを断ち切るように、颯都は冷たく言い放つ。
「…関係無いだろ」
拒絶を受けても、雪斗は変わらない純真無垢な真っすぐさで颯都に語る。
「俺は変わりました。自分の身を守れる自信もあります。
だから…、傍に置いてください…」
まるで祈りを捧げるようだった。
巻き付いた腕が、さらに強く颯都を抱き締める。
振り解けずに、笑おうとしたが口元が微妙に歪んだだけだった。
「……馬鹿だな」
雪斗は腕を下ろし、嬉しげに弾み颯都の横に並んで笑顔を贈った。
「馬鹿でいいです」
(そう言えば、武道何処で習ったんだ?)
(あぁ、実は藤堂さんに習ってます)
(…マジかよ)
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