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target4-3.苛立ち
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「……颯都、」
「悪い、遅くなった。今日は先に帰ってろ」
風紀委員室に戻ると、雪斗が椅子から立ち上がって名前を呼ぶが颯都はそれをスルーして椅子に座った。
「首の絆創膏、悪目立ちしてるよ」
颯都の咬まれた首の箇所を指差す雪斗。
書類整理をしていた手を止め、颯都は息を吐いた。
「…仕方ねぇだろ。一日も経てば治る」
そして再び手を動かす。
颯都の血の匂いは、吸血鬼にとっては媚薬のようなものだ。
魅了され、本能を刺激し、欲求を満たす危険な甘い薬。
低級吸血鬼なら、すぐにその魅惑的な血を求めて溺れ、破滅する。
そうと分かっていても、抑えられなくなる衝動。
特に、吸血鬼の嗅覚は敏感に血の匂いを感じ取る。
それが最高級の血なら尚更だ。
「本当に、気をつけてください。
いくら校則に縛られていても、颯都の血は理性を脆くさせるんだから」
「…解ってる」
「……誰に血を?」
尋ねると、ピクリと反応して一瞬手が止まった。
「…さぁな、覚えてない」
「前と同じ人?」
「其れ聞いてどうするんだよ」
「心配なんです」
聞きながら颯都は書類にペンを走らせる。
「俺の事は俺が片を付ける。余計に介入するなよ」
冷たく言い切る颯都。
普段から人を寄せつけないオーラを放っているが、こういう時はさらに増して冷たさと鋭さを感じさせる。
最も、颯都の本質が分かっている雪斗は怯える事はないのだが。
今日は何だか、いつもより眉間に不機嫌が二割増しだ。
颯都の好きな紅茶を入れ、庶務を淡々とこなす机の前に置く。
「少し休んで」
「…いい」
「休息も大事な仕事ですよ」
それを聞くと颯都はペンを置き、取っ手に指を掛けてカップを持つ。
柑橘系の香りを吸い込むと、苛立っていた気分が少し落ち着いた。
熱い液体を口の中に流し込み、口の中に味わいが広がると、飲み込んで食道に通す。
気分が落ち着いて息を吐く。
「何をそんなにイライラしてるの?」
自分の分の紅茶を淹れて颯都の机の横に寄りかかった。
颯都は紅茶から立ちのぼる湯気を見ながら、一人ごちる。
「…俺の血は、そんな美味しいのか?」
「それはもう、最高に」
にっこりと即答する雪斗に、颯都は眉間を寄せる。
「単に、普段味気ない此を飲んでるからじゃねぇか?」
言いながら、颯都は取り出したBL-801XXXと書かれた錠剤を指でつまんで口に放ると、紅茶で流し込む。
水で溶かして飲むと、血より遥かに薄い赤色になる。
吸血衝動を抑える為だけの、喉も潤わせない薬。
それでもないよりはマシで、学園中が血の薫りで溢れるよりはマシだ。
「確かにそれも一理はありますが、颯都さんの血は普通の血とは別格なんですよ…匂いからして」
「匂い…?」
試しに匂いを嗅いでみるが、自分の匂いだからか何とも感じない。
「颯都は吸血鬼を誘惑する匂いがだだ漏れだから。学園外でも、狙われる事が多いでしょう?」
「…不本意だけどな」
ため息混じりに零される颯都の今までの経験則を交えた言葉。
編入前に世界中を旅していた時は、性別や年に関わらず吸血鬼が血を飲もうと襲いかかってきた。
…吸血鬼以外の生物に他の目的で襲われる事も少なくはなかったが。
雪斗は紅茶を飲みながら肩越しに颯都の様子を見ていた。
「それに…吸血鬼にとって血を飲むという行為は、愛情表現でもあるんだ。
誰に飲まれたかはもう聞きません。でも、気をつけて」
「…あぁ」
真摯な思いやりを感じるが、同時に好意を寄せる雪斗にも気をつけなければならないと颯都は心に決めた。
雪斗が仕事に戻る傍ら、机に置いていた携帯のライトが点滅している事に気づく。
確認すると、大半が璃空からの一方的なメッセージがほとんどだったが、一覧に親衛隊隊長の郁のものがあり何となしに開く。
【⠀相談があるんだけど 】
文面には趣旨だけで、その内容は書かれていない。
一旦携帯を閉じ、仕事に取りかかりながら思案していた。
乗りかかった船だろう。
いつ暴走するかも分からない、不安定な船ではあるが…
こういう所で、冷たくはなりきれない自分を心の中で自嘲しながらも、夜になるまで庶務は続いた。
(絶対、恋愛相談だろ…)
(しかも、彼奴に関しての)
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