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target4-8.奇襲
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アトラクションの大部分を遊び尽くした双子は、颯都と繋いだ手をブラブラさせながら歩いていた。
「んー、次はなにがいいかな~?」
「颯都お兄ちゃんはなにがしたい~?」
その時、颯都の感覚にピリッとした電流のような何かが走った。
双子にソフトクリームを買い与え、携帯を弄る振りをする。
「少し用事が出来た。行ってくる」
双子は喜んでソフトクリームを舐めながら、はーい!と手を上げる。
凛として歩く颯都の姿は、周囲の視線を攫っていく。
そのほとんどが頬を染めて見つめているのに、当人は気付かない。
景色は人混みから、人気のない場所へと徐々に姿を変える。
やがて、木が生い茂る場所で颯都は歩みを止めた。
神経を研ぎ澄まし、動かずに様子を伺う。
風で草木がざわめく。
「(……来る)」
背後から頭上に振り下ろされた攻撃を余裕で躱し、振り返ると同時に捻り蹴りを繰り出した。
仕掛けた相手が宙返りし、地面に着地した時に頬が切れ口笛を吹く。
「やるじゃねェか。でもまだまだ足りねェなァ……!!」
男は薄気味悪くクツクツ笑うと、地面を蹴って素早く猛攻を仕掛けて来た。
何も言われなくとも、颯都にはその正体がハッキリ感じ取れる。
―――吸血鬼だ。
俺の匂いを辿って、血を求めに来た。
普通は驚くべきだろうが、颯都には嫌気が差す程多い事だ。
だから人混みを避けて、戦い易い場所を選んだ。
応戦しながら隙を窺っていた颯都に、ある変化が起こる。
突如として、頭に突き刺さる痛みが響く。
「(ッ…!何で、こんな時に…っ!)」
頭痛は酷くなる一方で、隙を見せず応戦していた身構えにも影響が出始める。
颯都は体制を立て直す為に一旦引こうとするが、攻撃の手が止もうとしない。
「どうしたどうしたァ!!?さっきまでの余裕はどこいったんだァ~?」
「…ごちゃごちゃ煩ぇ…なッ!!」
今出る力を振り絞って攻撃を振り切ると、後ろに飛び退く。
習慣的にいつもホルスターに入れていた拳銃に手を伸ばしたが、あるはずの感触もなく舌打ちをする。
「そろそろ貰おうかな~…その血」
ギラリと瞳孔を開かせた男がナイフを一舐めするのとほぼ同時に、後ろから伸びて来た何本もの手が颯都を拘束した。
「くっ、そ…!(ッ…複数の気配には気付いてた…反応し切れなかった…)」
頭痛はナイフで抉るような痛みを増してくる。
意識が朦朧となり霞む視界で睨みを効かせる颯都の前に、ナイフをちらつかせた男がしゃがむ。
「イイねェその眼…興奮するわ」
ギラついた眼で、颯都のワイシャツの上部分を切り裂く。
ボタンが弾け飛んで草村を転がった。
肌が曝けられても尚、颯都は強気のまま口端を歪めて笑う。
「はっ…最近は悪趣味な奴しか居ねぇのかよ」
「大人しくしてろよォ~?なぁに、悪いようにはしねぇからよォ…」
冷えたナイフが肌をなぞり、耳許で聞こえる低い、獣地味た声。
鳥肌寸前の所で、目の前の男が吹き飛んで木に思い切りぶつかった。
手が空いた瞬間、颯都は両側の男の腹と顔に肘鉄を食らわせ、続けざまに肩を抱き込んで膝蹴りと鳩尾に拳をめり込ませとどめを刺す。
視界にチラついたのは、目立つ赤い髪。
「…全く、一人にして置けないな」
男がいきなり吹き飛んだのは、璃空の念力に寄るものたったのだ。
「…礼は言わない」
「素直じゃないな」
「俺一人でも倒せ…ッ、」
倒せた、と言って立ち去るつもりが、急激に視界が回り身体がグラッと揺れた。
「あまり無理をするな」
「してねぇよ、離せ…!」
正面から抱き竦められ、離れようと胸板を押し返す。
顎を指先で上げ、璃空と颯都の視線が合う。
「…また眼が赤いな」
指摘され、驚きながらも顔を横にして視線を外す。
しかし今度は、当たり前のように手を握ってきた。
刺すような頭痛は収まったものの、疲労感が支配する身体を引きずるようにして璃空に手を引かれる。
「行くぞ。勝負は俺の勝ちだ」
「俺を景品扱いするんじゃねぇよ」
「お前の心も身体も全て、俺のモノにすると決めた」
似たような言い争いに、最早突っ込む気力も湧かず溜め息を吐く。
疲労し、消耗し切っていた颯都の抵抗虚しく、観覧車のゴンドラに連れ込まれた。
春の夕暮れ色に染まるテーマパーク。
密室に二人きり。
好きな異性とだったら、ロマンチックなシチュエーションだろう。しかし、嫌いな同性と隣同士で二人きりなど、楽しい訳がない。
無意識に憂鬱が口から漏れる。
「どうした、さっきから溜め息ばかりだが」
「…別に。其れより、"約束"はちゃんと守ったんだろうな?」
「言っただろう。俺は約束は守る」
「…なら良い」
窓の外に視線をやる。
ゴンドラは、観覧車の真上近くまで来ていた。
燃えるような、赤い夕焼け空だった。
…だから、赤は嫌いだ。
こんなにも鮮やかに、目に焼き付く。胸に残る。
窓の外を見ている颯都を、両側に伸びた腕が壁に押し付けた。
驚いて目を向けた颯都に、璃空はすかさず距離を詰める。
「…好きだ」
二つの影が重なる。
その様子を隣のゴンドラから双眼鏡で見ていた双子が、顔を見合わせてニヤリと笑ってハイタッチした。
((ミッション・コンプリートォー!))
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