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target5-13.面識のないクラスメイト
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暫く叫ぶと落ち着きを取り戻したらしく、不良地味た生徒は横を向いて座り胡座をかいた。
「…風紀委員長様がこんなトコに何の用だ?オレを処分に来たのか」
「いや…、行く宛が無くてな」
呟くように答えると、皮肉めいた声が返ってくる。
「行く宛なんていくらでもあるんじゃねーの?噂の絶えねー人気者のあんたは」
その言葉を聞いて拳に力が籠り、カッと頭に血が上り立ち上がった。
「んな訳あるかッ!!!」
予想以上に響いた声に、颯都はすぐに冷静さを取り戻し、驚きで固まる不良の前に腰を下ろした。
憂鬱な気分とやるせない苛立ちが混じる気分を抑え目を閉じて、溜め息混じりに話を続ける。
「俺は、好きでそうなってる訳じゃない。余計に巻き込まれてるだけだ」
「あぁ?…どういうこった」
様々な色恋沙汰を楽しんで引き起こしているのだという偏見を持っていた不良は颯都の話に素直に疑問を持つ。
「狙われる理由なんて知らねぇし、聞きたくもねぇ。
俺はただ…平凡な生活を送りたいだけだ。其の為に努力しても、彼奴らが邪魔してきやがる」
「お前が拒否すればいいんじゃねーか?」
「何度もしたが無駄だった」
「殴ってもか?」
「殴っても蹴飛ばしても、だ」
事の難しさに不良は唸りを上げる。
浮かれた噂より事態は深刻だったらしい。
...望んでいなくても付き纏われる?
そんな漫画みたいな展開がこの世にあるのか?
イヤ、あるんだよな......この学園の浮かれたやつらなら...
しかも本人は相当それに参ってるときた。
喧嘩以外で使わない頭をフル回転させながら颯都を見ると、そういえばこの話題になってから始終顰めっ面な事に気付いた。
恐れられ、騒がれる一方での差異。
それが自分と少し、似ている気がした。
息を吸い込み、再び地面に寝転がる。
「…なァ、委員長さんよォ。オレぁ今から寝るから聞いちゃあいねぇ。この際全部ぶちまけちまえよ」
その時、昼休み終了前のチャイムが鳴った。
「…どうするかはあんたに任せる」
不良は目を閉じたまま、横向きに寝る体制を変える。
颯都は、身体がどんな状態でも授業を休む事はしなかった。
しかし、積もりに積もった心労と、関わり合いたくない気持ちが義務感に勝った。
それに、どうせ戻っても余計疲れるだけだ。
「…凄ぇくだらねぇどうでも良い話なんだが」
颯都は今まで誰にも言わずにいた心の内を吐露し始めた。
簡単に締め括る積もりが、次から次へと溜まっていた言葉が溢れ出る。
普段は言えはしない、どうしようもない苛立ち。
風紀委員長という責任ある立場だからこそ、人には言えない悔しさ。
苦痛や悩み。
こんなにあったのかと驚いた。
一通り話終えると気分がスッとしたものの、こんな話を聞かせてしまった申し訳なさが込み上げてきた。
「…悪ィ。こんな話聞かせちまって。お前には関係無い話だ、忘れてくれ」
相変わらず返事はないし、颯都もそれを期待してはいなかった。
後頭部しか見えない相手が未だ起きているのか定かではないが、確認せず髪を撫でる。
「有難な」
立ち上がり梯子を降りようとして、ふと止まる。
「名前、何て言うんだ?」
沈黙が流れ、小さく呟く声がした。
「…荒井 悠希(アライ ユウキ)」
「今度はお前の話聞かせろよ」
颯都は少し笑って、またな、荒井と呼び掛けてから梯子を降りた。
残された悠希は、颯都が屋上のドアを閉めた後仰向けに身体を返して、空を仰ぐ。
…興味がなかったといえば嘘になる。
俺は前から五十嵐を知っていた。
新入式の時隣の席で。
面識のないクラスメイト。
体育祭もその前日も授業を欠席して、この屋上から見ていた。
ここならうるせぇ先公や、イチャモンつけて絡んでくる連中はいない。
静かで、唯一癒される場所。
そこに五十嵐は、すんなりと溶け込んできた。
初対面の俺に、自分をさらけ出して。
(…変なヤツ)
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