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target6-3.逃走
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「颯都…こっちを見ろ」
「い、やだ」
俯いたまま向き合おうとしない颯都の顎を璃空の指が持ち上げる。
「俺を見ろ、颯都」
目が合えば、逸らすのはいつも簡単なのに。
「……、」
何故か、逸らす事が出来ないでいた。
――驚きのまま動けずにいる颯都の腰を抱き寄せ、その手が尻を撫で回すまでは。
すかさずコンマ一秒で殴り飛ばし、激突音と悲鳴を背に教室に戻った。
そこは喫茶店として開店していて、颯都の格好にざわめきの声が上がった。
「(つーか、こんな服着てどうしろっつーんだよ…)」
否応なく注目が集まり、颯都は羞恥で染まった顔を逸らして、短いスカートの裾を下に引っ張る。
「(あの鬼の風紀委員長がメイド服、だと…!?)」
「(び、美脚にニーソ…ぐはぁ!)」
「(上目遣いでご奉仕させてぇ…!)」
チラリ、目が合ったと勘違いした何人かはその姿に痺れたようで。
当然、今の状態で精一杯の颯都はそんな男達の野望を知るよしもなかった。
「今日はやけに大サービスだなぁ~」
突然、首に腕が絡んだと思い顔を上げれば琉生の顔が間近にあった。
「ちっ、けぇ…!」
「顔赤ぇぞ~」
「うっ…せ」
目の前のニヤケ顔を睨んでいたが、着ている物の羞恥に堪え切れず視線を逸らす。
普段はないその姿に琉生の目が開かれ、何かを口に出そうとした。
「…五十嵐」
「颯都兄、萌え~!」
「ヤバ、鼻血が…」
しかしそれもまた、興奮した二人の声に遮られた。
当人達は遮ったつもりはないのだが、ハスキーな声は室内でよく通る。
「お前ら…!」
まさか、この双子にも見られるとは。
固まる颯都の両腕に双子が絡む。
「ねー、颯都お兄ちゃん」
「僕ら、いいアイディアがあるんだ!」
「良い、アイディア?」
――鏡の前には、女の姿があった。
…いや、違う。
長髪で女装をしている俺だった。
「やっぱり、颯都兄には黒髪が似合うよね~」
「肌もキレイだから、メイクも映えるね~」
椅子に座り目を閉じるように言われ、開いたらこうなっていたのだ。
どういう訳か、俺が知りたい。
まず誰なんだ、此は。
疑問は置き去りにされ、颯都は再び前に出された。
艶のある長い黒髪は毛先に向かって緩く巻かれ、色付いた頬と唇をより引き立てている。
「(超絶美人…!?)」
「(可愛いっつーか色っぽいっつーか、やべぇ…!)」
璃空や双子を始めとした全員が固まり、ウエイターの生徒が持っていた物が下に落ち、音が響く。
そこにいる大半が胸を射抜かれたのは確かなようだ。
事の発端である璃空は、自慢げに口元を吊り上げて笑っていたが。
それからはあれよあれよという間に喫茶店の前に出され、客引きに仕立て上げられた。
喫茶店は大賑わい、客寄せとして覿面な効果を発揮した。
今も絶えず視線が注がれ、颯都は全身が火照るくらいの恥ずかしさに俯いて服の裾を握り締め、顔を上げられずにいる。
「うお、女!?…じゃねぇな、」
「誰だアレ!?」
「(逃げてぇ逃げてぇ逃げてぇ…!)」
羞恥心を煽る状況に堪えられず、颯都の脳内ではその思いが反芻し続けていた。
見世物になるなんて、冗談じゃない。
「おい、アイツ…!」
脱出を考えていたその時、色めき立った声とは別の声を潜めたざわめきが前方から訪れる。
生徒達が次々と空間を空けるその中心には…一匹狼の不良、悠希の姿。
その姿を見た途端、颯都は走って悠希の腕を掴んだ。
「は?…オイ!?」
様々な声が呼び止め、騒ぐのにも構わずに走り出す。
(颯都!どこに行った!?)
(え、今の……颯都?)
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