アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
target6-5.名前呼び
-
借りた制服に着替えた颯都が、三人で輪を囲み床に座っていた。
「…という訳だ」
何故女装だったのか、そして拓海が部屋に入るまでの経緯を大まかに話し終える。
言葉にして振り返ってみれば、一体何なんだこれはと自分に突っ込みを入れたくなった。
「そっか…、委員長も大変ですね…」
「あぁ。迷惑行為を働く奴が一人でも減ってくれればいいんだけどな」
普段から苦労を強いられている疲れから、愚痴っぽくなってしまう。
「あんな服着せやがって、何したいんだ彼奴」
そんな様子を眺めながら、着替える前の颯都を思い出す悠希。
…好きだから苛めたい、という気持ちも分かる。
「会長とは仲が良いんじゃ…?」
「冗談だとしても有り得ない」
「え、委員長は会長の事…」
「嫌いに決まってんだろ。大、嫌いだ」
「でも、会長は…、」
「知らねぇよ。男同士なんて、欲望の捌け口にしか思ってねぇんだろ」
内情を不思議に思う拓海と、目を閉じ眉間に皺を寄せる颯都のやり取りを傍聴する。
心情を知る悠希には、颯都の気持ちや苛立ちも理解出来る。
…だが、気付いた事もある。
当初から男を取っ替え引っ替えしていた二階堂璃空が一人の相手に執着を見せている。
俺の足りない頭でも分かる簡単なこと。
五十嵐は気付いていないのか…?
「…拓海と荒井は同室だったんだな」
「うん。といっても、今まで話したことなかったけど」
「今の今までか?」
「だって怖い人だと―「ちょっと待てェエェエっ!!!」ひぃいいいぃっ!!?」
二人の和やかな会話に割り込まれ、拓海は怯えて後ずさる。
「お前ッ…さっきまで、五十嵐とそんな親しくなかったろ!?何で急に…、」
「あぁ、俺が普通にしてくれって頼んだんだ。特別扱いは好きじゃない」
「よかったぁ。あんまり敬語慣れてないし、役職の方だと思うとドキドキしちゃうんで」
「何言ってんだ、放送委員も立派な役職だろ」
「~…ッ!!」
どうやら、柄にもない考察をしている間に距離が縮まっていたらしい。
楽しそうに話している(ように見える)二人から一気に疎外感を感じ、入り込めなくなっている。
慣れているはずの孤独感。それが今はすかせないほど痛い。
……いや待てッ!
今日最初に五十嵐と行動してたのはオレだぞ?
本来あの位置にいるのはオレのはずだ…。
まだ名前呼びしても、されてもいないんだぞ!?
漢を見せろ…。
ごくりと唾を飲み、談笑する二人に近付く。
「…はっ、は、は…」
笑っているのではない。名前を呼ぼうとしているだけだ。
なのに何故顔が熱くなって、噛みまくってしまうのか。
「…どうしたんだ?荒井」
「…あっ。ひょっとしてあれじゃない?『腹減った』!!」
違ェよッ!!!
確かにもう少しで腹の虫が騒ぎそうになるほど腹は減ってるが今そんなことを言いたいんじゃない…!
突っ込みたくなる気持ちを抑え、歯を食い縛ると再び口を開く。
「…っは、は、や…!」
そんな悠希を見た颯都と拓海は、顔を見合わせて頷き合った。
そしてどちらともなく立ち上がる。
「な、なんだよ?」
「今日は文化祭だ。早く行こう」
颯都は悠希に向かって少し微笑む。
…どうやら、今度は『早く行こう』という風に取られたらしい。
言葉通り二人は先に玄関に行き、悠希だけが取り残される。
クソ…ッ完敗か……。
けどいつかオレだって…。
「何してんだよ、置いてくぞ。悠希」
え?…い、今。
「……おう!!」
(悠希君って純情なんだ?不良なのに)
(オイ、締めんぞテメー)
(テメーじゃなくて、拓海ね)
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
91 / 108