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target6-14.謀略
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この時、事態を飲み込めず傍観に回るしかなかった咲良は、先程まで笑みさえ浮かべていた颯都が苦しげに顔を歪め、拳を握り締めていたのに気付いていた。
………この感じ。
自分の苦手な緊迫感と、いつもの余裕を崩し必死に何かを堪えているような様子。
どこかで覚えがある。
そうだ。あのときのーーー……。
靄が晴れてスッキリしたのように思えた咲良の思考に、ふと疑問が過る。
………あの時、自分は何を言った?
「そういや、颯都の苗字は"五十嵐"言うんやろ?
11年前、遠い雪山に五十嵐言うめっちゃ強くて気高くて美しい…純血種の吸血鬼の中でも一線飛び越えてる吸血鬼一家がおってなァ?
けど、たった一人の吸血鬼に一家丸ごと惨殺されてもうたんや。
気の毒に、当時7歳の息子も殺されて……全滅や」
こっちを見ない颯都に対し、ちょっと世間話のつもりで軽く五十嵐家の事を話した。
伝説的に広まっている話だし、吸血鬼でそれを知らないものはいないくらい有名な出来事だ。
だから、反応を示した颯都に得意げになって……………
もし………、もし。
颯都が五十嵐家の生き残りで…本当にそうだとしたら…………
咲良が大きく唾を飲み込んだ時、過去を知っているはずがない後輩が、黙秘している颯都の知られたくない部分をついに明らかにした。
「教えてあげますよ。
センパイの生きる目的は…………全て奪っていった純血種に復讐する……殺す事にある」
甘い囁きのような声音が、知らない振りをしていた胸の古傷を突き刺す。
「……ッ、」
否定の声さえ出せずに思わず見せた悲痛な表情は、真実を物語るには十分だった。
気付いてしまった咲良は目を見開き、身震いした。
颯都が五十嵐家の生き残りだと確信したのと同時に、気付かされたからだ。
ちょっとした世間話のつもりで笑い飛ばしたが、当事者からすればそれは無神経な発言だ。
触れられたくない過去に土足で踏み入って、傷を抉った。
「お前には、関係無いだろ…其の一家の事も、俺の事も。
今日偶然会っただけだ、其れ以上何の縁も無い……!
頼むから……俺に二度と、関わるな」
だとしたら、あんな風に言われて当然や。
拒絶されたのも…自分が最初に颯都を傷つけたからやないか………!!!
そこまで思い至ってしまった咲良は、唇をぐっと噛み締める。
なのに、オレはいつまでも被害者面で、颯都がどんだけキツかったかも知らんで………!
「はは…ッ、流石に余裕なさそうっスね、センパイ。それに……、寮長も」
ハッとして咲良を見ると、沈んだ様子で俯いて立っている。
その背後から肩に腕を回し、耳元で悪魔がそうっと囁く。
「やっちゃいなよ………あんただけ除け者にしときながら楽しんでたあいつが憎いんだろ……?」
「……………」
ナイフの柄を握らせ、項垂れたままの咲良がブラリと近付いて来る。
…鈍い頭痛は、続いている。
「センパイ………俺…俺ね……あんたに親を殺されたんだ」
「………ッ…!?」
衝撃で凍り付く颯都に、一歩、咲良がまた一歩とユラユラ近付き目の前で止まった。
すると次の瞬間、咲良が鋭いナイフを突き出して切りつけた。
「ッ、咲良……!?」
何とか寸前で交わしたが僅かに頬が切れて血が散った。
驚く颯都に構う事なく次々と攻撃が繰り出され、それらをどうにか避けていくが、頭痛と混乱で思考が追い付かない。
(踊れ、踊れ。俺の手の中で)
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