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九。
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*
智絵がそう言うと、八月は早足で葵に近づいた。
ガッッ
「っ!?」
そして大きな図体を持つ葵に向かって、彼はヘッドロックを仕掛ける。
大きな身長差で、葵は自然に前のめりになった。
「君、ちょっとおいで。」
そう呟くと、彼は葵を連れて部屋を出て行く。
「え、えっ?」
「ああ、大丈夫だよ名鳥くん。彼は葵くんを痛めつけたりしないから。
ちょっと八月の中で、許せないところがあったからお説教するだけだと思う。」
バキッドコッ!!
「「……………………。」」
扉の奥から殴る蹴るの音が聞こえてくる。
その音を聞いた名鳥は、青い顔で扉の方を指差した。
「あーーー……。
まぁ…、ちょっと痛めつけることはあるかも♡」
智絵のお茶目な声で、
その場は一瞬にして凍りついた。
ーーーーーー
ーーー
バンッ!!
扉の裏で、殴られた葵が壁にぶつかる。
そんな彼を容赦なく、八月は乱暴に胸ぐらを掴んだ。
「グッ……。」
「君は月華としての自覚あるのか?
大事な十二支を無計画(ノープラン)で逃亡させて、現状を話すのも智絵さんにお願いするのも全て彼任せ。
君は本当に彼を死なせる気?」
「っ、それは……!」
「それとも、なに?君はどんな相手でも1人で、なんの計画もなしに成功するとでも思っているの?」
「!!」
ヒュッと、風を切る音がする。
それは八月の拳で、大きな音をたてながら葵の頬に直撃した。
彼は無様に床へ転がり、鼻からは血が出る。
「……甘ったれるのもいい加減にしろ。
月華は戦いだけでやっていける、そんな甘い世界じゃない。」
「……ッ、」
「世の中には君より頭がキレて、君より強い奴は絶対に存在する。
力だけで生き残っていけると思うなよ。」
「……………………。」
悔しそうに地面で拳を握りしめた葵。
それを見て八月は彼にハンカチを差し出した。
「今回は奇跡的に慎太郎くんと出会えたから良かったものの……。
なかったら君たちは、今ごろ組織の誰かに葬られてたかもしれませんね。」
「……すみません。」
葵は素直にそのハンカチを受け取り、血だらけになった顔面を拭いた。
反省した様子の葵を見て、八月は大きく息を吸い満足したように息を吐き出す。
(……これだけキツく言えば彼も今後、勝手な行動は控えるだろう。)
「……俺の言いたかったことは、それだけです。
さぁ部屋に戻りましょう。これからは忙しくなりそうだ。」
「え?」
元の表情に戻った八月は、葵に手を差し伸べる。
「あなた方を匿うんです。やるなら最後まで責任を持って逃亡を手伝わないと。
智絵さんだってそう思っているはずです。」
「!!」
「道のりは長いですよ。無事名鳥くんが自由に飛び立てるように、お互い協力して頑張りましょう。」
柔らかい表情になった八月に、葵は苦痛の目から希望に満ちた目に変わった。
「はい……!」
そう言って彼は八月の手を握り、身体を起き上がらせた。
「よろしくお願いします!」
大きな身体を曲げて、葵は八月に深いお辞儀をする。
それを見て、八月はクスリと笑った。
「俺にしても意味ないですよ。大きなリスクを負うのは智絵さんなんで、後で彼にしてあげて下さい。」
「は!そうですよね、失礼しました!!」
バッと葵は軍人のように背を正す。
そして2人は、元いた智絵たちの部屋へと戻った。
戻ってきた葵の顔を見て、名鳥はこれまで以上に大きく目を見開く。
「あ、葵!?大丈夫その顔!?」
「大丈夫です。むしろ叩き直されて、スッキリしました。」
普段は真面目で大人しい葵が、珍しく笑っている。
名鳥はハテナマークを出しながら、首を傾げた。
「智絵さん。」
葵は智絵の前まで歩いてきて、深くお辞儀をする。
「俺は彼処から逃げ出せるのなら、何でもするつもりです。名鳥様のため、自分のために一生懸命働きます。」
「だから、」と葵は言葉を続けた。
「どうか俺たちのことを、最後までよろしくお願いします。」
それを聞いて、智絵は頬杖をついて笑みを送る。
「……甘い考えは、もう捨てた?」
「はい。」
先ほどより良い顔をした葵を見て、智絵は安心し椅子から立ち上がった。
「そうと決まれば、即行動だ。八月行くよ。」
「了解。」
コートを着た智絵は、立ち尽くした4人に指示を出す。
「じゃあそこの4人は俺の準備が整うまで、慎太郎くんの家で待機!」
「え!?」
「……は?」
その言葉にポカンとする慎太郎、そして今まで無関心だった冬護は顔を歪める。
2人が何かを言う前に、彼らは部屋から出て行ってしまった。
「……………………。」
慎太郎と名鳥はお互いに顔を合わせ、へらりと笑う。
「えっと、じゃあ……これからよろしく?」
名鳥がそう言うと、慎太郎も曖昧に言葉を返す。
「あ、あぁ…そうだね…。よろしく…。」
こうして智絵の指示より、4人は共同生活を送ることとなった。
ーーーそしてこの出会いがきっかけで、裏では"ある黒い影"がゆっくりと動き始めていた……。
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