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十三。
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*
本来あるべき家を捨て、必死に生きようとする2人。
帰る場所もなく、守ってくれるのは後ろ盾である智絵だけ。
2人の環境は似ていた。
しかし、名鳥だけは思う。
自分には葵という信頼できる人間がそばにいるが、慎太郎には1人もいない。
「でも、僕より君の方がすごいみたいだ。」
本来なら平凡な人生を送るはずだった彼。
しかし名前を継いでからは、周りに蔑まれ孤独に生きる日々。
それでも彼は自ら命を絶たず、自分の身は自分で守ってきた。
そして彼は狩人と戦える十二支へと成長した。
「慎太郎と友達になれて、僕はとても誇らしいよ。」
「??」
訳のわからないという顔をした慎太郎に、名鳥は手を伸ばす。
彼の傷だらけの手を優しく包み込み、そして力強く握った。
とある願いを込めながら。
(慎太郎がどうか幸せになれますように。)
「えへへ。」と名鳥が笑えば、慎太郎もつられて笑う。
「……………………。」
遠くで見ていた葵は嬉しそうに微笑んでいたが、冬護は何故か不機嫌に舌打ちをした。
ーーーーそれから2週間。
男4人、この狭い生活に慣れるのに苦労した。
特に名鳥は身体が弱い。
長年彼は宇都宮の屋敷で閉じ込められていた。
新しい環境での生活は少し息苦しかったらしく、3日目になると彼は熱を出してしまった。
それを慎太郎と葵が必死に看病をし、なんとか2日で完治させる。
そこからは平穏な日々を過ごしていた。
ーーーーただ1つ、気掛かりなことを除いて……。
「…………………。」
名鳥たちと一緒に暮らして2週間。
冬護の機嫌が非常に悪い。
彼は基本機嫌が悪いが、今回は特に機嫌が悪い。
「それでさー。」
看病のこともあって、慎太郎と名鳥の絆は日に日に深くなっていった。
ある日慎太郎と名鳥が楽しそうに話をしていると……。
ガンッッ
「っ、」
突然大きな音が、狭い部屋に響く。
見ると冬護が壁を思いっきり殴っていた。
防音で頑丈な壁が、冬護の力で少しへこんでいる。
「……うるせぇ。」
冬護の言葉で2人は一旦黙り、その後もう少し小さな声で話した。
ガンッッ
するともう一度、大きな音が部屋に響く。
「だからうるせぇって言ってるだろ。」
冬護がそう言うと、慎太郎は困ったように笑った。
「えっと……。俺たちそんな大きな声で喋ってますかね……?結構小さい声で喋ってるけど。」
「話し声だけでも雑音なんだよ。喋るんじゃねぇ。それが嫌なら外に出ろ。」
「……………………。」
そう言われると、慎太郎の顔はムッとした。
いつもだったら素直に謝って言うことを聞く慎太郎。
しかし今回は彼の中で不満が募った。
「………だったら、あなたが外に出ればいいんじゃないですか。」
「なんだと…?」
「外に出て喋れと言われても、名鳥と葵さんは外に出られない。
ならここでしか話せないし、狭い部屋の中でずっと無言でいろなんて、そんなの地獄だろ。」
「……………………。」
「あなたは別に、ずっと此処にいなければならない理由なんてない。」
慎太郎の言葉に、冬護は馬鹿にしたように嘲笑う。
「ハッ……だったらお前、俺がいなくて平気だって言うのか?その間に狩人が来て殺されたらどうするんだよ。」
「…………………。」
「お前が死ねば、十二支と月華の繋がりで俺も死ぬ。それが一番困るんだよ。
俺はお前のことで絶対に死にたくない。そんなのは稲月家にとってただの恥だ。」
「っ、」
冬護がそう言うと、慎太郎が辛そうに顔を歪める。
そして彼は顔を俯かせて、小さく呟く。
「…………俺はあなたが居なくても、生きていける。」
「あ?」
ーーーそれは怒りの含んだ声だった。
ゆっくりと顔を上げ、彼は睨みつけるようにして冬護を見つめる。
「あなたの手をかりなくても、俺は1人で戦えます。もうあなたの手を煩わせるつもりはありません。」
静まり返る空間。
「し、慎太郎……?」
それを近くで見ていた名鳥たちは、どうしていいか分からず2人を交互に見つめた。
「だから安心して出て行ってください。」
強く慎太郎がそう言い放つと、冬護はちゃぶ台を思いっきり蹴り飛ばす。
ガンッッッ!!!
それは慎太郎の近くの壁に当たり、風と共に大きく鳴り響いた。
「……へぇ、そうかよ。随分と一丁前になったな今も雑魚のくせに。」
「……………………。」
「だったらお望みどおり出て行ってやるよ。……それから命乞いしても、俺は絶対助けねぇからな。」
鋭い目で睨み合う2人。
冬護は立ち上がって扉の方に向かうと、荒々しく扉を開けて出て行ってしまう。
バタンッ!!
「………………………。」
その後慎太郎たちがいる部屋は、気まずい雰囲気が流れた。
慎太郎は顔を俯かせたまま、拳を強く握りしめる。
「俺は、1人でも生きていけるんだ……。」
彼の悲痛な声を聞いて、名鳥たちは何もなす術がなかった。
下手に言葉をかけられず、そのまま静かな時間が流れる。
「………慎太郎。」
それから名鳥が優しく口を開くのは、あれから数時間経った後だった。
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