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十九。
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*
慎太郎がポケットから取り出して、慌てて画面を見る。
「!!智絵さんからだ……。」
その言葉で名鳥の顔は驚き強張った。
葵もガラスを捨てた手を止め、耳をよく澄ます。
スライドして電話に出れば、聞こえてきたのはいつもの智絵の声だった。
『もしもし、慎太郎くん?お待たせ、名鳥くんたちを逃す手筈が整ったよ。』
「ほ、本当ですか!?」
『うん。でもね、実行するには色々と問題が出てきてね……。作戦を立てたいんだ。
今から僕の指定する場所に来てくれない?』
ーーーーーーー。
智絵から聞き出した住所を記憶し、慎太郎は名鳥に目配せをする。
「はい…分かりました。今から準備して、そこに向かいます。」
『待ってるよ。あ、あと!』
「??」
『君がくれたあの武器。色々と調整できたから、あとで渡すね。』
「え………。」
『結構良いものになったと思うから楽しみにしてて。 じゃあ、電話切るよ。』
ピッ
電話を切れると、名鳥が心配そうな目で話しかけて来た。
「今の智絵さん?……なんだって?」
慎太郎は2人に目を向けて、内容を伝えた。
「逃げる手筈が整ったって。」
「!!」
その言葉に名鳥たちは目を見開く。
「でもその前に作戦会議をしなきゃいけないらしい。一度指定された場所に集まって、そこから実行に移すって……。」
慎太郎がそう言うと、葵は名鳥の前に出て問いかける。
「それでは、その場所に集まる日にちは……。」
「今日だ。」
「っ!!」
「本当にいきなりだけど、今から準備して指定された場所に向かう。」
慎太郎は床に置いてあった青いジャンパーを手に取り、勢いよく羽織った。
「たぶん智絵さんは、周りに気づかれる前に逃亡を実行したいんだと思う。
突然で申し訳ないけど、2人には心の準備をしてほしい。」
その心の準備とは、"死"という意味合いが含まれている。
そう言って慎太郎が振り向くと、名鳥と葵の顔は笑っていた。
思いもよらない表情に、慎太郎は目を丸くさせる。
「分かってるよ、慎太郎。それは宇都宮家を抜け出す前に覚悟してる事だ。」
「名鳥……。」
「むしろ申し訳ないと思っているのは、私たちの方です。関係ない慎太郎くんや智絵さんたちを巻き込んで、逃亡を手伝ってもらってるんですから。」
「葵さん……。」
名鳥は慎太郎の肩に手を置いて、言い聞かせるように言葉を吐いた。
「だから慎太郎。俺たちの事を自分の事だと思うのはやめてね。これは俺たちの我儘で成り立ってるんだから。これだけは、覚えておくんだよ。いい?」
念を押すように言われると、慎太郎は頷く事しかできなかった。
「わかった。」
そう言うと、名鳥は安心したように笑う。
「よかった。」
ーーーーーー
ーーー
慎太郎は赤いヘッドホンを身につけた。
護身用の木刀を布のケースに入れ、任務と同じ格好をする。
名鳥は身を隠すために帽子と上着を羽織り、葵は眼鏡をかけ紺色の上着をスーツの上から羽織った。
「2人とも、準備はできた?」
「うん。」
「できました。」
それを聞いて慎太郎はドアノブを回そうとすれば、後ろから名鳥が声をかける。
「冬護くんがいないけど、……慎太郎いいの?」
一瞬、慎太郎のドアノブを回す手が止まった。
でも次には、彼は明るい声でこう答える。
「うん、大丈夫。作戦を実行する前には、ちゃんと冬護を迎えに行く。」
ニカッと元気な顔で振り向き、慎太郎は名鳥たちにグッドサインを送った。
「名鳥の言う通り、俺は真正面から冬護とぶつかってくるよ。」
「慎太郎……。」
「それよりまず最初は、2人を無事に智絵さんのところまで連れていくことだ。」
慎太郎が正面を向いて、ドアに空いた小さなレンズから外の様子を伺う。
「もしかしたら狩人が俺たちの情報を集めて、襲ってくるかもしれない……。
だから細心の注意を払って、目的地まで向かうよ。」
慎太郎の雰囲気が変わった時、2人は覚悟を決めて頷いた。
「うん。」
「分かりました。」
外に誰もいないことを確認した慎太郎は、扉を開け外に出る。
目的地はさほど遠くない廃墟の一角だが、油断は禁物だ。
彼を先頭に、名鳥、葵と順に出て細道を駆け抜ける。
名鳥を守る様な形で、慎太郎たちは目的地に向かっていった。
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