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二十八。
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一方同時刻の夜。
名鳥は1人で机に向かい紙に何かを書いていた。
その顔はとても真剣で、何度も消しては鉛筆を走らせる。
「…………………。」
「名鳥様。」
「うわぁっ!?」
驚いて振り向くと、そこには困った顔をした葵の姿が。
「作業の邪魔をしてしまい申し訳有りません。そろそろ寝ませんか?明日は朝が早いですよ。」
「あっ、そっかもうこんな時間か……。」
名鳥は鉛筆を置くと、葵がその紙を覗き込んだ。
「名鳥様、先ほどから真剣に何を書いてーーー「うわぁぁっ!見なくていい!葵は見なくていいから!」
「…………!」
その文章を読んだ葵は、少し驚いたように目を丸くさせる。
そして気まずそうな顔をする名鳥に、葵は寂しげな笑みを向けた。
「……これは、いい手紙ですね。明日慎太郎くんに渡すんですか?」
「……ううん、渡さない。」
「え?」
名鳥はその手紙を胸の中心に引き寄せる。
「だってこれは、届いてはいけないものだから。」
「…………………。」
「それに僕みたいのが書いた手紙なんて、慎太郎くん興味ないかも。
この作戦が終わった途端、彼は僕のことなんかすぐに忘れて……。」
「そんな事ありませんよ…!」
名鳥の弱気な発言に、葵は真っ向から否定した。
「葵……。」
「慎太郎くんは、名鳥様のこと本当の友人だと思ってます。貴方もそう思っているでしょう?」
「……………………。」
「この手紙も渡しましょう。この先どんな展開になっても、貴方の言葉は彼に届けるべきだ。」
葵は一生懸命説得しようとしたが、名鳥は首を横に振るばかりだった。
「いいんだよ、葵。これはただのゴミだから。」
「ですが……!」
葵はすぐ反論しようとしたが、名鳥は手紙をゴミ箱に捨てる。
「さ、もう寝ようか。明日が本番なんだ。万全の状態で望まないとね。」
「名鳥様………。」
気弱く笑った名鳥に、葵は何も言えなかった。
そのまま2人は別々の布団に潜り、眠ってしまう。
「…………………。」
電気を消して、どのくらい経っただろうか。
名鳥が寝たのを確認して、葵は身体を起き上がらせる。
瞼を閉ざして眠っている名鳥の顔は、まるで西洋の人形の様に美しい。
「名鳥様……。」
葵は悲しげな顔で彼の頬にキスをし、先ほど手紙を捨てたゴミ箱に向かった。
そしてその中に入っていた手紙を、彼は拾い上げる。
「………………………。」
それを葵は自分のスーツに隠した。
拾ったのがバレないように、彼はダミーの手紙を作りゴミ箱に捨てる。
(名鳥様……。)
葵は静かに眠る名鳥を見て、祈るように瞳を閉じた。
(どうかあなたの願いに背く私をお許しください。)
「……………………。」
名鳥に深くお辞儀をした後、葵は再び自分のベッドに戻る。
(あれは作戦が終わった後、密かに慎太郎くんに渡そう……。これは名鳥様の本心でもある……。)
彼の中で、今までの過去が鮮明に蘇った。
格子窓で閉ざされた空間。
内側から開かない扉。
椅子に座り、本を読む名鳥の姿。
悲しげに笑う名鳥が頭をよぎった時、彼は決意したように顔を引き締める。
(絶対に諦めてなるものか。)
"名鳥様を絶対、あの家の呪縛から解き放ってみせる"
そう決心して、葵はもう一度眠りについた。
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