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四十二。
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*
その笑顔に、冬護は大きく目を見張った。
「…っ、」
そして悔しそうな顔で彼は踵を返し、葵に背を向けて走り出す。
その姿を、葵はずっと見つめていた。
「………どうか……、ご無事で……。」
冬護に届かない彼の声は、無機質な空間に響く。
「……………………。」
やがて冬護の姿は、暗闇の中へと消えてしまった。
最後にゆっくりと、葵は瞳を閉じる。
彼の瞼の奥で、名鳥の顔が鮮明に思い出された。
"葵、ずっと僕の側にいてね"
(……名鳥様、すみません。私は貴方の約束を守れそうにありません……。)
ですが……、
どうか貴方だけでも幸せに生きてください………。
ーーーー
柔らかな日差しの下。
小鳥のさえずりを聞きながら、屋敷の中で本を読む名鳥。
葵の視線に気づくと、
彼は琥珀の瞳を緩ませて笑った。
ーーーーー
彼の頬に、一筋の涙が流れ落ちる。
「……名鳥様。…貴方は私の唯一の光でした。」
葵の親指が、スイッチの上に乗せられた。
ーーーーそして……、
カチッ
彼は最後の力を振り絞って、スイッチを押した。
プツッ
その瞬間、張り巡らされていた糸がすべて外れる。
無音の空間の中で、鋭い光が葵を包み込んだ。
大きな破裂音と共に、
爆弾が次々に建物の柱を壊していく。
地響きと共に、地面が大きく揺れた。
砕けた天井の破片は、
力尽きた葵の上に無残に覆い被さっていく。
ゴゴゴゴゴッ………、
「………な、に……?」
意識朦朧としていた慎太郎は、大きな地響きに意識がハッキリと目覚めていく。
「……冬護さん…、葵さんが危ない……!!」
(っい"……!!)
目を見開いた彼は、動こうとするが痛む脇腹に動けない。
慎太郎はコンクリートの地面に倒れた。
天井から僅かに細かい破片がこぼれ落ちていく。
バッ!!
「っ!?」
するといきなり、慎太郎の身体が宙に浮いた。
横を見てみると、そこには冬護の顔が……。
「!!冬護さん!!」
慎太郎はいつの間にか、冬護に身体を担がれていた。
「…………………。」
しかし彼は何も声を発しない。
「あれ………?」
そして欠けた存在に、慎太郎は疑問を抱いた。
「冬護さん……、葵さんはどこ?」
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