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四十五。
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*
ガキンッッ!!!
再び、2人の刃は激しくぶつかり合った。
火花が出るような勢いで、2人は刃を交える。
ヒュンッ
少女はフェンシングをするように、八月の頭に刃先を突き出した。
それによって八月のフードは外れ、変装用のカツラが落ちてしまう。
「八月さんっ!!」
彼の特徴的な短髪と結ばれた後ろ髪が姿を表す。
少女は慣れた手つきで剣を振るい、白銀の刃を自分の目の前に添えた。
ビュンッ
そして地面に向けて剣を下ろす。
「やっぱりそうだわ。全然違う。……じゃあ、貴方でないとすると、残るは後ろにいる少年……。同じフードを被った彼かしら。」
「っ!!」
少女は鋭い眼光で、名鳥に照準を合わせた。
「大丈夫、一瞬で楽にしてあげるから。」
ビュッッ!!
「っ!!」
先ほどのスピードより尋常じゃない速さで、少女は名鳥に近づこうとする。
「……させるかっ!!」
ガキィィンッ
それを八月はギリギリで防ぎ、彼女の剣を折る勢いで力を入れた。
少女と戦う八月を見て、智絵はグッと顔を引き締める。
「名鳥くん!ここから少し離れるよ…!」
自分たちが八月の足枷になっていると気づいた智絵は、名鳥を連れて安全な場所に移動しようとした。
戸惑う名鳥の手を取って、智絵は走り出す。
ーーーーーその瞬間、
パァンッッ
「……っ、!?」
「智絵さんっ!?」
智絵の太腿に、突如銃弾が撃ち込まれる。
どこから来たのかわからない銃の軌道。
ガッ
智絵は思わず地面へと跪き、太腿の銃痕を見て目を開いた。
(……まさか、これは…っ……。)
「智絵さん…っ!!大丈夫ですか!?」
名鳥は顔を真っ青にさせ、智絵の元へと駆け寄る。
「……っ、」
「……どうしよう、今すぐ止血しないと…!」
名鳥はポケットの中に入ったハンカチで智絵の太腿を抑えた。
対して智絵は街中を見渡して、弾を撃った人物を探す。
(まずい……。この周辺の何処かに、スナイパーがいる!!)
「名鳥くんっ…スナイパーだ!僕はいいから、君は早く建物の陰にーーー!!」
「っ!?でも…それだと智絵さんが…!!」
「はやくっ!!!敵の狙いは君なんだ!僕じゃない!!」
「…っ、」
智絵の言葉を聞き、名鳥は智絵から離れた。
その場から急いで立ち上がり、逃げようとする。
ーーーーその時、
「名鳥っ!!!」
名鳥の耳に、慎太郎の声が聞こえた。
ピタリと動きを止め、名鳥はゆっくりと後ろを振り返る。
そこには血だらけになった慎太郎とそれを支える冬護の姿があった。
名鳥の上空に、一羽の鴎が通り過ぎようとする。
名鳥は2人の姿を見て、彼らの名前を呼ぼうと口を開いた。
「慎太郎…!!とうごさーーーーーーーッ
その瞬間ーーーー……
パァンッ
広大な空に空気が張り裂けるような、恐ろしい音が響き渡る。
ズッ…
後になって肉片が撃ち抜かれる音が、小さく聞こえた。
「…………え?」
赤茶色の美しい髪が、海風と共にサラリと揺れた。
ゆっくりと軌道を描く血飛沫に、慎太郎の目は大きく見開かれていく。
同時に撃ち抜かれた鴎からは、白い羽が飛び散った。
空中に舞う白い羽。
透き通った青の瞳が、地面に倒れゆく名鳥の姿をハッキリと捉えた。
ドサッ
名鳥の頭から、どんどん赤い血溜まりができていく。
「…………え、」
近くにいた智絵が倒れた名鳥に気づくのは、その少し後だった。
「っ、名鳥!!!!」
冬護の腕を振り払って、慎太郎は急いで名鳥の元へ駆け寄ろうとする。
「おいっ!!」
冬護が慎太郎を呼び止めようとするが、彼の耳には何も聞こえない。
慎太郎の全神経は、すべて名鳥に注がれていた。
「……チッ」
それを見て、八月と戦っていた少女は舌打ちをする。
ビュンッ
「!?」
八月との戦いを放棄して、彼女は真っ先に倒れた名鳥の方に向かった。
ーーーそして慎太郎よりも早く辿り着き、彼女は名鳥の亡骸を掴む。
ガッッ
それを見た慎太郎は、ピタリと動きを止めた。
「……カゲンの奴、計画通りに実行したのね。つまらない。」
少女は不満そうに顔を歪めて、仕方なく彼の上着の中を探る。
「………あった。」
そして上着のポケットから、"酉"と彫られた文字盤と"名酉"と書かれた古い紙を取り出した。
ドサッッ
それを見つけると、少女はまるでゴミを扱うかのように名鳥の亡骸を地面に投げ捨てた。
ビチャッと嫌な音が聞こえる。
「これで任務は完了。……まったく、やり甲斐のない地味な暇潰しだったわ。」
彼女は剣を傘に収め、無言で立ち尽くす3人を見て目を細めた。
(……トウヤのヤツ、何を考えているのかしら。酉以外の十二支を逃がすなんて。
何か良いシナリオでも思いついたのかしら。)
「……頭の良い奴が考える事って、本当分からない。」
少女は大きくため息をついて、興味がなくなったかのように慎太郎たちから目を逸らした。
「…………………。」
投げ捨てられた名鳥の亡骸を、慎太郎は覚束ない足取りで近づく。
「………っ、」
名鳥の姿を確認すると、彼は思わず息を飲んだ。
頭から血を流し、目を開いたまま倒れる名鳥。
彼の頭はボロボロで綺麗だった洋服は頭の血で汚れている。
無残に横たわった彼の周りには、幾つもの白い羽が浮かんでいた。
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