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男前めでたい祭りでワッショイ【書いてみました】「船山昇のレシピ」のキャラがSABUROにご来店
初夏 休み
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「仙道さんにお便りが来てますよ、綺麗な絵ハガキ。」
社内便で部署に届いた手紙を、船山さんが配っている。ああ、この人はまた…。こんな雑務は部下に頼めばいいのに。と、言っても船山さんの部下は僕一人なので、先に動かなかった僕のミスか。
「あ、ありがとうございます。」
「いいえ〜。うわー、自分宛のは要らないDMばっかりだ!たまにはいい便りが来ないかなあ。」
…雑務をさせてしまったお詫びに、コーヒーを淹れてこよう。今受け取ったハガキを手に、席を立った。
既成の桜の絵ハガキかと思ったそれは、よく見るとスナップ写真をハガキサイズにプリントアウトしたお手製で、宛名面に店名のロゴが押されている。消印は札幌。店名は…「SABURO」
去年の夏の始め、奇妙な縁で訪れた遠方のレストランを懐かしく思い返した。
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<昨年7月某日>
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久しぶりにぐっすり眠って、目を覚ましたのが自分の部屋でないと気付くのに数秒かかった。ひとり旅で札幌に滞在しているのだ。
大手電機メーカーにSEとして採用されたのに、先月の人事で広報に配置換えになり、取材だの、問合せ対応だの、慣れない業務ばかり。何故こんな人事がまかり通ったのか上司に尋ねても「仙道君、そりゃあ適材適所ってもんだよ。」適材?とんでもない誤解だ。愛社心のある人が就いたらいい。
頼まれ事を断れない性格を、良いように利用されてしまった感が拭えない。
そんな時、総務からの社内メール『有給休暇を消化せよ』との内容に、即座に返信した。
夏を待たずに五日間の休暇。なにせ業務命令で休まなくてはならないのだ。この日程では誰も誘いようが無いから、一人旅に出よう。とにかく遠い所…北海道?
検索して、札幌のビジネスホテルの記事を見つけた。ビジネスなのに、天然温泉付で朝食のバイキングでは雲丹、カニ、イクラも勿論、新鮮な魚介類が食べ放題!と大人気らしい。
平日のシングルルームを2連泊で予約を入れた。
ただ休むためにやってきた札幌。出張以外で国内便に乗ったのは初めてかもしれない。到着から一夜明け、朝風呂を済ませ、バイキングは開始直後に。これでもか!というほど盛ったイクラ丼を堪能する。自分のペースで食べ、休み、席を立ち、見栄えを気にせず皿に取り、又席に戻る。…愉しい。日頃の自分は案外他人に気を使っていたのだな、と気付いた。
連れがいたら、朝から焼きプリンのおかわりなんて出来ないだろうな。おひとり様も悪くない。
観光マップを手に、心地良い陽気の大通り公園を歩く。観光地とはいえ平日。無意識にビジネスマン風のスーツ姿に目が向いてしまう。
ビルの壁のデジタル時計を見ると、ちょうど正午。ランチタイムが始まるのか…
東京にいたら今頃、自分も財布を片手にコンビニに並んでいるか、面倒になって立ち喰い蕎麦屋でコロッケか?ちくわ天か?と迷っているのだろうか。1時に着席しなくては、と、トイレのある書店に用もなく立ち寄っているだろうか。
今日は働く人達のせわしなさを傍観していられる。子供の頃、学校の保健室のベッドで休んでいる時のような、焦りと優越感が綯い交ぜになった気持ちで胸の奥が落ち着かない。今日は会社の命令で休んでいるのだから、後ろめたく思う必要はないのに。
観光マップには載っていない道へ進むと、数人の女性グループと立て続けにすれ違った。皆一様に温かな表情で職場に向かう。時間に追われ、ため息をつきながら席に戻る自分とはまるで違う。通りの先、黒板に書かれたランチメニューのいくつかに、若い男性がSOLD OUTの付箋を貼りつけている。
レストランのようだ。チェーン店じゃないな。少し遠巻きに中を伺うと、奥の厨房と、ホールのアットホームな雰囲気が伝わってきた。
店の名前は…「SABURO」
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