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疵(きず) 37
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日曜日に日付が変わってだいぶ時間が経った真夜中に 千春の家のインターホンが鳴った。
その家の主である千春がドアを開けたが いつものように ドアを閉めた途端に抱きつかなかった。
アノ人である男は 訝りながら 玄関で靴を脱ぎ千春にリビングに通された。
千春は思い詰めた様子で 向かいのソファーに座った。
いよいよ 嫌われてしまったのか、不毛な身体だけのような関係に終止符を打とうとしているのか。男は ローションのボトルの入った鞄を引き寄せて 千春の綺麗な顔を見詰めた。
「あのっ、今日はお話があります。
あのっ、あのぅ あなたの名前を聞かせてもらえますか?ダメですか?あなたのことを知りたいんです。どんな小さなことでも知りたいんです。教えてもらえませんか?」
「僕に興味を持ってもらえたんだね。
とても嬉しいよ。」
「あなたのこと 知らな過ぎますよね。俺 散々色々あなたに話してて。でも 俺 あなたのこと 何にも知らない。知りたくなりました。どんな小さいことも知りたい。でも あなたは 俺に知られたくないですか?」
「いや。構わないよ。
僕の本当の名前は 山手真弓。
住んでいるのはここから すぐ。
君のマンションの並び。山手クリニックって知ってる?まぁ知ってるよね。隣の隣になるからね。
親父がクリニックをやっていて 僕は知り合いの総合病院とクリニックを掛け持ちしている。職業は医師だ。
年齢は31。もちろん独身。そして同性しか興味を持てないゲイだ。
医師としてはまだ未熟かもしれないので、よく学会や研修もある。そして海外にも災害があると派遣されて行くこともある。」
そこまで喋ると 向かいに座った千春は驚いた顔をして ほーっとため息をついた。
「そんなに近くに住んでいたなんて 知らなかった。俺 知らなかった。」
「君は 僕のこと 何も聞かなかったから 興味がないと 思っていた。
千春君。まず謝らせて欲しい。
今まで 冷たい態度やひどいことばかりしてきて済まない。
もう 僕に 嫌気がさしたんだろう?
本当は優しくしたかった。でも 最初に 強引にすることでしか 君を 抱けなかった。
会えたことは嬉しかったけど 優しくしていたら なんだか君と もう会えないだろうって。
とにかく君と、会いたかったんだ。卑怯な真似をしてひどく抱いて 済まない。」
「謝らないで下さい。卑怯だなんて思っていません。俺から抱いて下さいってお願いしましたから。
俺 散々あなたに ひどい行動を話してきました。
呆れていると思います。
あの あのっ これから話すことを 最後まで聞いてください。とにかく聞いてください。
あなたはあなたで 言いたいことや不満もあるでしょうけど、取り敢えず俺の話を。
俺 今までのままじゃ 前に進めない。
今のままじゃ 苦しくて 苦しくて。
名前も知らないんだって 思い返したとき 哀しいような気持ちになりました。
それじゃあ 今まで俺が漁っていた その他大勢の人と変わらないって。
あなたは俺にとって とても とても 特別な人だから。
俺 昨日 ちょっと親戚の結婚式で〇〇まで行って 偶然 昔一度会った男に 出くわして、トイレに連れ込まれたんです。もちろん何も無かったし その昔だって ご飯食べただけで。
その時 他の男に腕を触られただけで 腰を撫でられただけで
気持ち悪くて 寒気がして 俺の昔の行動を思い出したら 更に 気持ち悪くて吐いちゃって。
そしたらその男にきたねぇ って言われて。あぁ 俺の過去は消せないし 汚いこと ばかりしてきたなって。
知らない男とキスなんかしてきた俺は汚い人間だなぁって 自分で自分の汚さに 又吐いて吐いて。
吐いても過去は変えられない。
その時 ようやく気がついたんです。
俺 あなたが 好きなんだって。
だから もう 他の人 気持ち悪いし。
でも こんな過去を持つ俺は もう あなたに 嫌われても仕方無い。俺があなたへの気持ちを言ったら あなたに捨てられる。
でも もう 耐えられない。あなたへの気持ちを しまっておくなんて。
こんな汚れた男で。
だから
抱いてくれたんでしょう?
俺は 生意気な ただれた生活をしてきて。
こんな気持ち 迷惑なら 俺の言葉を忘れてください。
あなたが飽きたなら いや 飽きるまで セフレ扱いでも仕方ありません。いやこんな気持ち伝えたら引きますよね。
でも 俺 あなたに 足を 足のこと伝えて 凄く前向きになれたんです。
こんな 汚い身体でも 抱いてくれて 嬉しかったんです。
俺みたいな男に 興奮してくれて 嬉しかったんです。
感謝してます。
ありがとうございます。」
真弓は信じられない思いで 顔を上げ 千春を見詰めた。
「千春。 千春。 千春。
ああ。千春。」
そう言葉を言うと 真弓は両手で顔を覆ってしまった。
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