アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
千春オジサマ 漆
-
千春side
ドアを開けると 今朝早く帰った酔っぱらい坊主だった。
「なんだ?お前か。忘れ物か?昼間掃除したけど何にもなかったぞ」
「こんばんは。昨夜はすいませんでした。ご迷惑かけて。忘れ物ではありません。」
「おうよ。まぁこれからは 飲み過ぎんなよ。酔っぱらいを狙う置き引きも居るし 金でも盗られないように気をつけろよ。」
「はい。あの。これ。つまらないものですが 昨日のお詫びに」
そういって差し出されたのは 紙袋で どうやら細長い形の瓶らしき感じから 酒のようだ。
玄関のドアを開けたままっていうのも 寒気が入るので 何気に 部屋に入るよう促した。。
もらった紙袋を開けると ワイン。
とそのとき奴の腹の虫がぐーっと鳴ったので 笑いながら
「お前 飯まだなの?」
「はい。」
つい その素直な表情に ほだされて
「ありもんで よけりゃ 飯食うか?」
なんて言っちまった。
するとどうだろう?
こぼれんばかりの笑顔になりやがったぜ。
さっき食べた夕飯のおかずの残りを出してやったら 美味い 美味いと
お代わり良いですか?
だと。
つまらねぇようなおかずだぜ。
スキヤキでもねぇ 肉じゃがでもねぇような 鶏肉の切れ端とジャガイモ、白滝と長ネギとあまりもんの豆腐を煮たやつ。
あとは 刺身の余りを生姜醤油に浸けたのを 焼いてやった。
飯はけんちん汁の残りを刻んで炊き込みご飯もどき。
そのあと更にもう一度飯のお代わりまでして。
冷凍してあった白飯をチンして出したら 本当に幸せそうな顔をしてやがって。
可愛いガキだなぁって 思わず 思っちまった。
改めて名前を聞くと
「僕は 山手真弓って言います。あなたは?表札には山科って書いてありましたけど。」
「俺は山科千春。お前から見たらもうオジサンだ。お前学生か?」
「いえ もう社会人です。今年で24になります。」
「そうか。お前独り暮し?今頃の時間まで飯食ってないなんて。」
「えぇ。まぁ。独り暮しみたいなモンです。」
「ふーん」
みたいなってことは 満更独りって訳でもねぇってことか?まあ いいや どーでも。
「腹もいっぱいになったか?
せっかくお礼のワインまでもらったけど 俺これから出掛けなきゃ なんだ。
友達との約束まで まだ時間が有るけど。お前 家は何処なんだ?」
「僕は〇〇駅の方です。」
「ふーん。電車ならここから地下鉄で乗り換えて JR 線で乗り換えて△△線に乗り換えか。でも 近いっちゃ近いなぁ。直線なら3㎞ってとこか。いやもっと近いかな。チャリならすぐじゃねぇか?」
「はい。チャリで来ました。」
「だから ワイン飲まなかったのか。」
おもたせだが と ワインを開けようかとしたら 固辞されたんだ。
「はい。んじゃ 僕は帰ります。又お世話になっちゃって。ごちそうさまでした。すごく美味しかった。なんかまともな飯食べたの久々で。ありがとうございました。」
と言うや 風のように帰ってしまった。
変な奴。
それから ソイツは 度々フラりと俺んとこに来るようになった。
あるときは 週末の宵の口だったり 日曜の午前中だったり
時間もまちまちで 玄関先で 貰い物だって野菜を寄越したり 酒だったり 俺が映画が好きだって言ったら、そのジャンルまで聞くから。そしたらその新作DVD だったり。
俺も 何かしら持ってくるアイツを むげに 帰れとも言えず かと言って 一緒に酒を飲むと 奴はたぶんチャリで帰れなくなるし。
飯を食わせて アイツが んじゃって
頭を下げて帰るのを 見送るって パターンが 出来上がっていた。
最初は ガキが飯をねだって来やがる って思ったが 心底嬉しそうに食ってるのを見ると 何だか 段々憎めなくて。
当初は手土産を持って来るから 代わりに飯食わしてって 感じだったが
俺も 自分の飯を作りながら アイツにこれも食わしてぇ これは好きかなぁ 喜ぶかなぁ と 思いながら 飯を作るようになっていた。
不思議な奴。
俺は友達は多かった方だが 最近は 家庭を持ったり仕事が忙しくなっていって 友達との付き合いも 激減した。
仮に一緒に飲んでも 仕事の愚痴。
仕事なら構わねぇ。
でも子供が幾つになった 学校に上がった なんて話ばっかりで
俺には無縁の話。
そんな 疎外感の募る 或る日に
アイツが 俺の 日常に 入り込んで来たんだ。
ただ ただ 金魚のフンみたいな
ただ ただ 純粋に 慕ってくれてる。
何か肩の凝らない 構えなくても良い。
近寄らず 離れず
心地よい 男。
それが 山手真弓って 男だった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
173 / 264