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千春オジサマ 参拾肆
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千春が居なくなって 1週間が経っていた。
真弓は あれから あのバーに行くのが日課になった。
あのピアニストが 何か 知っているような気がしたし 千春が いつも通っていたこの店に 浸ることで 千春の残り香のカケラでも 拾いたい思いだった。
バーには時間外にも散々通って 千春の親友から 話を聞き出したことも有った。
落ち着いたバーだった。
入口を入ると 鍵の手になっていて 更に入ると 重厚なカウンターがあり その奥にはボックス席。更にその向こうに ピアノと たまには他の楽器でのセッションも出来るように 後ろのカーテンに飾られた前に 大袈裟ではないステージがあった。
ほとんどは毎日ピアノのだけの生演奏だが 週末にはときに ドラムとサックス、ベースが入ったりする。 以前一度だけだが ボーカルが入ったときもあった。
客は 様々だが 皆行儀よくジャズを聞いていた。そして全て男性客だった。
千春の親友のマスターは注文に応じてカクテルも作るし 簡単な軽食も出していた。
カウンターにはその親友のマスターの他 マスターと同じくきちんと蝶ネクタイをした 男も控えていた。
カウンターは一人客。ボックス席は男性同士のカップルや 数人で酒を楽しむ人も居た。
他のゲイが来る店は知らないが あからさまに ゲイが 男漁りに来るような 店ではなかった。
時々ボックス席の客が マスターに千春のことを訊ねていたりしたが 目新しい話は無かった。
真弓は 独り カウンターに座り 静かに酒を飲んで ピアノの演奏に耳を傾け 日付が替わる前に 帰って行く。
そんな日々が続いた。
そんな或晩。
カウンターに座った客が マスターではない 男性従業員を相手に飲んでいた。
今夜は マスターが風邪を引いたとかで 彼は独りでカクテルを作ったり ボックス席に軽食を運んだりしていた。
「そういえばさ、いつもこのカウンターで独り飲んでいた綺麗な彼が居たじゃん。彼さ 山手に住んでいたんだねぇ。」
「えっ。山手?」
と カウンターの中から答えた。
「そう。何て言ったっけ?名前。ちはるさんって言ったっけ。俺さ 弟が 山手の先の永楽町に住んでるんだよね。この前弟ントコ泊まって 仕事あるから 朝弟に送って貰ったんだよね。関内の駅までさ。そしたら 山手の〇〇学園の真裏のマンションあるじゃない?
あそこから 彼 ちはるさんが出て来てさ。ごみ袋持ってさ。ボサッとした髪で パジャマ代わりみたいなスウェット着て。ごみ出ししてるってことは あそこに住んでるってことだよね。」
気の無い返事を返しなから 従業員の彼はボックス席の客に呼ばれて カウンターから 居なくなって。
真弓はその 客にたずねた。
「そ その人は スウェット姿って言ってましたね?僕はスウェットはパジャマにしたこと無いんですが、朝のジョギングなんかにはスウェット着るんですよ。どんなメーカーのスウェットだったんですか?僕はあるブランドのスウェットが好きなんですけど」
と やったこともないジョギングの話をその客にすると
「いや〇〇ブランドっぽかったかな?よくわかんないなぁ。色は綺麗なグリーンでさ。へぇーあんたはジョギングするんだ?どこに住んでいるの?俺△△っていうスポーツクラブに行ってるんだよね。良かったら紹介するから 入会しない?ランニングマシンも有るし 専属のトレーナーも居るし。いつも日曜の午後から行ってるんだよね。良かったらおいでよ。お試しなら1ヶ月無料コースが有るから。一緒にやらない?」
あからさまな 好色ん含んだ視線を送られたが やんわり 断った。
そうか。
あの マンションなら知っている。その先は裏道としても よく通る道だし。本牧にも抜ける道だし。
あそこにも千春サンはマンションを持っていたのだろうか?
千春サンの親友からはこのバーと千春サンの住んでいた駅の向こうのマンションとだけ聞いていたけど。
明日から 年末年始で大概の企業は 休みになる。
早朝 車で 張り込みしてみる価値は有るだろう。
真弓は カウンターの粘りつくような視線を寄越す客に 笑みを返して そそくさと会計をして店を出たのだった。
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