アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
兄
-
「…っ、ごめんなさい」
ごめん、ごめんね優くん。
俺の身勝手で、こんなにも傷つけてしまった愛しい人
「そういうことは、本人に言わねぇとな」
達也は最近よく笑う。
それは、俺が笑わなくなってからだった。
俺の代わりに、というのはおこがましいかもしれないが。
その笑顔に救われた。
聞きなれたチャイムが静かな空間を打ち切った。
立ち上がり階段に向かおうとする背中に、問わずにはいられなかった。
「許して、くれるかな」
そうしてもう1度振り返り、カフェオレの空箱を投げて寄越し、笑った。
「悪いと思ったから、謝る。許してもらえるかなんて、そのあとでいいだろ?」
「ーーうん」
屋上を出ようとする達也を追い抜き、階段を駆け下りる。
一瞬驚いたように目を見張った達也だったが、フッと笑ってひらひらと手を振った。
先程とは打って変わって、人で溢れかえる廊下を走る。
教室に辿り着くとカバンを引っ掴み、また走った。
「ごめんちょっとどいて!」
「うぉっ」という驚きの声を無視して教室の出入り口で駄弁っている人だかりの間をすり抜けた。一直線に昇降口へ向かう。
呆然とする教室に、達也が戻ってきた。
「おっ、達也、真咲どうした?さっきすげぇ勢いで出てったんだけど」
「あー、アイツもうすげぇ腹痛で、これから6時間くらいトイレにこもるらしいわ。トイレで勉強するから鞄取りに行くって焦ってたぞ」
「お前、嘘つくならもっとマシな嘘ついてやれよ!」
どっと湧く教室に、男子校らしい笑い声が響く。
ひとしきり笑ったあと、開け放たれた窓にもたれ、走っていく真咲を見つける。必死に走るその背中を見送り、近くにいたクラスメイトの肩のにのしかかった。
「なぁ、金無いから昼飯奢って~」
「お前授業出てないんだから腹減らねぇだろ」
「酷いっ」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
29 / 42