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兄
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「何って、キスだよ」
その言葉を聞いた優くんはますます顔を赤くし恥ずかしがっている。
「別に、付き合ってるんだから問題ないよね?」
「てめぇ歯ァ食いしばれや」
そう言って殴りかかろうとしたとき
「待ってよ!まーくん!
本当に付き合ってるんだ。だからやめて!
僕の好きな人を殴るなんて、いくらまーくんでも嫌いになるよ!」
いつも穏やかに笑っている優くんが、初めて怒鳴った瞬間だった。
「まーくんも早弥も、僕の大事な人なのに。2人に喧嘩なんてして欲しくない…」
苦しそうに涙を流す優くんを見てハッと我に返った。本当に取り返しのつかないことをしてしまった。
本当は今日、謝ろうと思ったんだ。優くんの気持ちを分かってあげられなくてごめんって。
あの日のことは鮮明に覚えている。父さんが事故で亡くなった時も、優くんは泣かなかった。あの泣き虫だった優くんが。
泣きじゃくる俺に「大丈夫、僕がいる。今はいっぱい泣いていいよ」と言った優くんは苦しそうに笑っていて、俺が守らなきゃって思ったんだ。俺を気遣って、不安にさせないようにと、泣き言ひとつ言えなかった優くんを。
優くんがいつだって笑っていられるように。二度と、あんな顔をさせないように。
そう誓った筈なのに、いま、その行き過ぎた思いは誰よりも優くんを傷つけている。優くんを守るために、と握りしめた拳が。
振り上げた手を下ろし、自分の不甲斐なさに唇を噛んだ。
その時、
「おい!お前手ぇ開け!」
「え…?」
血相を変えて早玖が詰め寄ってくる。
視線を下げると、赤く染まった掌。
力を入れすぎていたのか、爪が深く刺さった跡がある。
とても醜く見えた。床を汚すそれが、酷く汚らわしい。
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