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俺はそう、言葉を吐き捨てるように言って。
──こいつの前では、絶対に取り乱したくないと思い……。
『怒っているが、怒ってないよ』と、自分にも言い聞かせるように優しく。
「だから、そんな風に心配した顔すんなよな!! つうか、そんな事よりさ。俺セシュにちょっと聞きたい事が、あってさ……」
「えっ……あっ……。そうなの? 良いけど……何かな?」
セシュは小動物みたいにビクビクと怯えながら、小さくそう答えて。
買ってきた食材達を、今からそれを使うであろうエリックに、いちゃつくように甘えて、俺にマウントを取るように、ゆっくりと時間をかけて手渡すので……。
俺はその光景を見て、思わずうんざりとした気持ちになりながらも。
──自分の感情に、今日も嘘をついて……。
「……おお、あるさ。というかこんなに仲睦まじい二人なら、知っていると思ってさ?『鏡の男がみた夢は愛の夢、眠り姫を起こすのは、気高き……』から始まる、ラブソングなんだけど?」
「えっ……なんだよ、その歌? 悪りぃなヴィクトル……。音楽はよく聴くが、その歌だけは知らねぇわ」
「ぼくも、ごめんね……。全然わからないや、というかその歌。生まれて初めて聴いたよ?」
「なっ……そうなのか? 全然知らない感じ? じゃあ『幸福と不幸の上で、私は貴方を……』とかも、聴いた事ない?」
自分が予想していた回答とは違う答えを聞いて、不安と否定される恐怖に……。
──今にでも、体が怯えて震えそうになるが。
持ち前の気の強さで、それを相手に一ミリも悟らせないように、明るく。
『マジか……残念だな』と言うかのような、がっかりした声で。
「そうだよな、やっぱり知らないよね……。だって、この歌さ。昨日見た夢で聞いた曲だから……」
「えっー!! ちょっと、普通に考えて、そんなの無理だよ? 夢の中で聞いた曲なら、みんなそうなるよ」とセシュは悪意のない、悪意ある言葉を、悪気もなく、俺に言い放つので。
「そうだよな……。でもさ、アレクセイはこの歌を、知ってるって言ってくれたからさ。その……もしかしたら、本当にこの曲あるんじゃないのかって、思ってさ……」と、俺は傷つく必要もないのに、針で胸を刺されるような、ちくちくとした痛みを感じてしまい……。
一瞬泣きそうになったが、そうなる前に、顔を下に向けて、彼にそう言い返すと。
そんな俺たちの会話を、親のようにふむふむと頷いて、静かに聞いていたエリックが……。
──これが最後のトドメだと、言わんばかりに。
「お前、アイツにまた嘘つかれたんだな。ほんと可哀想に……倫理観0のイカれサイコだし、適当なことを言って信じさせて……遊んでますわ。マジで、人格破綻者の考えは、分からないな。好きな奴にこんなこと、出来るなんて」
──そう、唯一の心の拠り所で。
『お前たちみたいな、何気ない素振りや何気ない言葉で、悪意を振りかざす愚か共に』
どんな時でも俺の事を、心の底から大事に思ってくれている目線や、仕草で。
──誰よりも俺の事を考えて、行動してくれるあの人の事を……。
ここまで侮辱されて、我慢なんか、出来る訳もなく。
「ふざけんじゃねぇよ。お前ら如きがあの人を悪く言うな、身の程を弁えろ。人格破綻者なのは、ここに居るお前とお前。ほんと、自己紹介ありがとうございますね……。ちゃんと私、覚えておきますので」と怒りで訳が分からないまま、心の底に隠していた、憤怒の思いを口から吐き捨てて……。
──そのまま、振り返ることもなく。
バーCowardから飛び出して、依頼主との待ち合わせ時間まで……。
アール・ヌーヴォー様式がとてもお洒落で、落ち着ける。
街に一つしかない図書館に、俺は急足で向かい……。
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