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season #1
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「新しいクラスはどう?」
「うん。隣の子が優しくて、なんとかなってる。」
「隣の子?」
修(しゅう)は、ちょっと眉を吊り上げて智(とも)に向き直る。
「うん。お昼も一緒に食べようって誘ってくれた。
おいら、自分から声かけるの苦手だから……。」
智は俯き加減でしゃべる。
「そっか。よかったね。」
修が優しく智を見つめると、智も修に向って微笑んだ。
微笑んだその鼻に、桜の花びらが舞い落ちる。
5人は高校生になった。
みんな、家から自転車で通える距離にある同じ高校に進学した。
この高校は多種に渡った学科のあるマンモス校で、
自由な校風は受験生に人気だった。
普通科は有名大学への進学率も高く、偏差値も高い。
元々、成績のよかった修と淳一(じゅんいち)はこの普通科を選んだ。
雅範(まさのり)は意外にも電気科を選択し、周りを驚かせた。
雅範曰く、これからは手に職!とのこと。
和哉(かずや)と智は特殊学科である、芸術科と美術科にそれぞれ進学を決めた。
和哉はカメラマンになりたいと突然言い出し、芸術科を選択。
智は絵を描き続けたいと納得の選択。
それぞれがそれぞれの夢に向って歩き始めていた。
修は智の鼻から花びらを取ってあげる。
智は一瞬、ギュッと目を瞑り、修の指先の桜を見て、また微笑む。
入学式から数日が経ち、桜の花も満開の時期を過ぎていたが、
最後の桜は、その清楚な美しさを二人の上に降り注いでいた。
二人は空を見上げて、桜を眺める。
風がザァーっと吹き抜けると、そのつど、花びらが舞い上がる。
「ね?ちょっとだけ桜、見て帰ろうよ。」
智はそう言って、ニッコリ笑う。
修も、うん、とうなずいて、
ちょっと先にある桜の下のベンチに、二人並んで腰掛けた。
真新しい紺のブレザーに、花びらがひらりと落ちる。
「修君は?新しいクラス、どう?
ジュン君ともクラス違ったんだよね?」
「うん。まぁ、俺はぼちぼちかな?勉強は大変そうだけど。」
「そうだよね~。修君たちのクラスは難しそう。」
「俺から見たら、智の方が大変そうだよ。」
「え?そう?」
「うん。あんな絵、俺には一生描けないよ。」
「うふふ。そんなことないよ。」
二人は頭上の桜を見上げながらゆっくり話す。
水色の空に淡いピンクの枝が、サワサワと揺れている。
春の暖かい陽射しが、心までポカポカと温かくしてくれるようで、
修は智と二人のめったにない、穏やかな時間を楽しんでいた。
クルクル回る花びらが、智の髪にポトリと落ちた。
修は右肩に重みを感じて振り向くと、智が頭をもたれて目を閉じている。
「智……。」
修が顔を近づけてみると、軽い寝息が聞こえてくる。
「…寝て…る…?」
長い睫毛が風で微かに震える。
艶やかな唇がわずかに開き、寝息とともに揺らめく。
その動きはまるで、修を誘っているようで、
修は誘われるまま、智の顎にそっと指を掛け、唇に唇を合わせた。
柔らかな唇の感触が修の気持ちを掻き立てていく。
一瞬、沸騰するように沸き起こった感情を押し殺して、智の唇から離れる。
「……ずりぃよ…そんな顔……。」
静かに速度を速める心臓の音は、よりリアルに自分の気持ちを教えてくれる。
顔を上げて空をあおぐと、暖かな風が吹いて花びらが舞い上がった。
青い空に舞い上がる白い花びらを眺めながら、
右肩にかかる重みと、心臓の音を、複雑な気持ちで感じていた。
誰にも渡したくないと思う。
でも、男同士じゃこの先には進めない。
せめて、一番の友達に……それすら難しいのに、俺は何を考えているんだろう。
修は自分の愚かさに笑いが込み上げてくる。
それでも、気持ちを押しとどめることはできず、
智の頬に手を添えて、髪についた花びらに、そっと唇を添えた。
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