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season #12
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智が立ち上がると、二人は並んで歩き出した。
群青色に染まり始めた空が、どんどん空を覆っていく。
ポツリポツリと家々に明かりが灯り、葉の色がまぶしかった桜の木も
黒い切り絵のようになっていく。
二人はしばらく黙ったままだった。
二人とも、何を話せばいいのかわからなかった。
ヘタに話せば、言わなくていいことまで口にしてしまいそうで、
口が開けなかった。
修は並んで歩く智を、そっと盗み見る。
智は土手の向こうの空を、思いを馳せるように見つめている。
修も向こうの空に目をやった。
柔らかな光りを放ちながら、太陽が隠れきったところだった。
目の前を、黒と白の斑猫が横切る。
猫はこちらにチラッと目をやると、興味なさそうに土手を登っていった。
土手沿いの道を歩くと、昔のことが思い出される。
5人でよく遊んだ土手の公園はどうなったのか。
二人で隠れたまま、陽が暮れてしまったあの茂みは今もあるのだろうか。
そんなことを考えると、急に胸が苦しくなる。
隣を歩く、智の手が歩くたびに微かに足に当たる。
「……今日、彼女は大丈夫だった?」
最初に口を開いたのは智だった。
智はそう言って、顔を土手に向ける。
「ああ、大丈夫。」
修は短く答える。
「……なんて言って…断ったの?」
「何も……。今日は帰れないって。」
「そっかぁ。」
智はやっと顔を修に向ける。
「ごめんね。おいらのせいで。」
「気にすんなよ。」
「……おいら、大丈夫だから。一人でも全然平気だよ?」
修は困った顔で笑った。
「俺が平気じゃないから……。」
そう言われて、智は顔をまた土手に向ける。
喜んでいる顔を、修に見せられなくて。
「……昔、よく遊んだよね。この土手。」
話を変えたくて、智は土手を見たまま話す。
「うん……。この土手のずっと向こうまで行ったよね。」
「行った!竜の木を探しに!」
智が振り向いて、ニッコリ笑う。
「今思うと、たいした距離じゃないけど、すっごく遠かったの、覚えてる。」
智が楽しそうに話すのを見て、修もニッコリ笑う。
「うん。竜の木、まだあるかな……。」
「あるよ、きっと。」
智が確信に満ちた顔でうなずく。
「どうしてそう思うの?」
「ん……だって、残ってて欲しいから……。」
そう言って笑う智が可愛くて、修は思わず手を伸ばす。
その手が智の顔の前に来たところで、ハッとする。
急いで手を引っ込める。
「ね、修君……ちょっとだけ、寄り道して帰らない?」
「寄り道?」
バツが悪そうに視線を逸らす修の顔をじっと見て、智は修の手をとる。
「土手の公園、行こうよ。」
智が土手に向って走り出す。
「え?ちょっと、智!」
修は繋いだ手の感触に全神経を集中させながら、智に続いて土手を登った。
昔、みんなで遊んだ公園。
昼間、子供達が走り回る公園は、もう人影もない。
公園は電灯の灯りで、ところどころ浮き上がって見える。
「なんか、幻想的だね。」
「うん……。」
ここが夢の世界なら、智を抱きしめてキスして、思いの丈をぶつけるのに。
修は繋いだ手に力を込めた。
「修君?」
智は修の顔をのぞき見る。
キスして、その後どうするんだよ。
修は、必死に自分に言い聞かせる。
「あ、修君、あそこ!」
智はパッと、繋いだ手を離して走りだす。
修は自分の手を見て、グッと握り締める。
「ね、ここ。覚えてる?一緒に隠れたの。」
智はしゃがみこんで、小さな茂みを指差し、楽しそうに笑った。
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