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season #16
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パシャ。
智は美術室で絵を描いている。
そのすぐ横の棚の上に越しかけ、和哉が笑う。
レンズ越しに智を見つめ、構える。
智が描いているのは、春の景色。
パステルの淡い色調が、舞う桜を儚げに描き出している。
時々、口を尖らせて、指を動かしていく智を、和哉は微笑みながら眺める。
手にしたカメラを構えることを忘れるくらい、
真剣な智の表情はクルクル変わる。
への字口で、う~んと止まったり、
眉を下げて、頭をポリポリ掻いたり、
指についたパステルを気にすることなく、頬に手を添え考え込んだり。
そんな智を微笑んで見ている自分に気づいて、慌ててカメラを構えても、
すぐにまた、カメラを構える手が下がる。
和哉はそんな自分に苦笑して、ファインダーを覗き込む。
それまで順調に動いていた智の手が止まる。
桜の下の茶色いベンチを見つめ、顔が歪む。
和哉はゆっくりとシャッターを押した。
「たいくつだったでしょ?」
智がパステルを丁寧にしまっていく。
「全然。」
和哉は棚の上から、ポンと降り、智の隣に並んでシャッターを切る。
「百面相がおもしろかった。」
「なんだよ、それ?」
「描いてる時、いろんな顔してるよ?」
和哉はカメラを持ち上げて、クスクス笑う。
「そうなの?……見たことないから……。」
「あははは。今度、鏡見ながら描いてみたら?おもしろいから。」
「カズ、……意地悪。」
智が頬を膨らませる。
「どんな顔も可愛いですよ。」
和哉が極上の笑顔で答える。
「ふうん。カズはその顔で口説くんだね。」
「え?」
「女の子はイチコロだ。」
智が笑って美術準備室に画材をしまいに行った。
和哉は一瞬びっくりして、フフッと笑ってカメラのキャップを閉めた。
二人が並んで昇降口を出ると、外はまだ明るい。
徐々に夏に近づいているせいで、空気もまだ熱を帯びている。
校庭では野球部が練習している。
サッカー部は第二グラウンドだ。
「あ、ジュン君頑張ってるね~。」
和哉がすかさず淳一を見つける。
淳一は先輩のノックを受けているところだった。
和哉が首から提げたカメラのキャップをはずし、構える。
「わぁ、さすがだね。野球も上手いや。」
智も感嘆の声をあげる。
淳一がボールを捕るところを捉え、シャッターを切っていく。
「うふふ。カズもやりたくならない?」
「……なりませんよ。私には今、これがありますからね。」
「カズの周りにはいい被写体がいっぱいだね。」
「ええ……本当に。」
和哉がニコッと笑って、智にカメラを向ける。
「おいらはいいよ~。」
智もクスクス笑って、レンズから隠れる。
淳一は校庭の隅でじゃれ合う二人に気づき、やれやれと溜め息をついた。
校門を出てもしばらくじゃれ合い、智は何も考えずに帰り道を歩いた。
和哉が隣でクスクス笑うと、柔らかな空気が智を包む。
智はいつも思う。
和哉の隣は気持ちがいい。
優しくって、柔らかい。
そして楽しい。
そうやって少し歩くと、智は黙り込んだ。
昨日、修と一緒に公園に向った場所。
「どうしたんですか?」
和哉がニコニコしながら、智の顔を覗き込む。
「なんでもない。」
ふうんと和哉は公園の方に目をやる。
「あの公園、みんなでよく遊びましたね。」
「うん……。」
「行ってみましょうか?」
「え……。やだ。」
「どうして?」
「…………。」
和哉は智の顔をじっと見る。
智は心を見透かされそうで、和哉の視線をさけた。
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