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season #31
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修は急いでいた。
部活が終わり、まだ、智の帰りに間に合う。
急いで着替えると、鞄を手に部室を出て行く。
出て、すぐのところで、3年の女子マネージャーとぶつかった。
「あ、すみません。」
修がそのまま走りさろうとすると、マネージャーに腕を掴まれる。
「ちょっと!雑巾、落ちちゃったじゃない!」
見ると、雑巾が3つ、地面に投げ出されている。
「ごめんなさい……。」
修は落ちた雑巾を拾うとパンパンはたいてみる。
洗ったばっかりの雑巾は土がついて、汚れは全く落ちない。
「すみません、俺、洗ってきます。」
修は頭を下げて、すぐそこの水場に向う。
マネージャーは溜め息を付いて、修の後についていく。
雑巾を洗っている修の隣で、修から雑巾を一つ取ると洗い始める。
「いいよ。急いでるんでしょ?私が洗っておくから。」
「でも、俺が汚しちゃったから。」
修は、雑巾の土をゴシゴシと落としていく。
「何で急いでたの?」
マネージャーも雑巾をゴシゴシ洗っていく。
「それは……。」
「彼女?」
「違います……。」
彼女じゃないけど、好きな人が待ってるんで、と心の中で思ったが、
待ってはいないか、と一人苦笑いする。
「何笑ってるの?いやらしい。」
「いやらしいって……。」
「スケベなこと考えてたんでしょ?」
「考えてません!」
「考えないの?」
「考えないことはないけど……。」
修が困ったように眉を寄せると、マネージャーは笑いだした。
「ふふふ。正直。男の子だもん。考えないわけないよね。」
「は、はい……。」
マネージャーは雑巾を絞りながら、修の顔をまじまじと見る。
「こんなイケメンも、普通の男の子なんだね。」
マネージャーがにっこり笑った。
「斉藤!」
修は肩をガッシと掴まれてびっくりする。
振り返ると、先輩がニタニタ笑っている。
「こんなとこでしゃべってる時間があるなら、手伝え!」
「あの、俺、急いでるんで……。」
「今日こそは、付き合ってもらうからな。」
そう言うと、先輩は修の襟首を掴んでグラウンドの方へ引っ張っていく。
「あ、あの……先輩!急いでるんです!」
修の声がむなしく響き渡る。
散々練習を手伝わされて、外は真っ暗になっていた。
修は仕方なく家路に着く。
「智、大丈夫だったかな……。」
今日は幸い雅範と一緒のはず。
雅範なら大丈夫。きっと強引なことはしないはず……。
でも待てよ。あの二人はどっか似てるところがあるから……。
そんなことを考えていると、後ろの方から修を呼ぶ声が聞こえる。
「斉藤君!」
振り返ると、マネージャーが走ってくるのが見える。
「先輩……。どうしたんですか?」
「私もいろいろあって遅くなっちゃった。一緒に帰ろ?」
修の隣に並んで歩き出す。
「斉藤君てモテるよね。」
マネージャーは後ろで束ねていた髪を解き、軽く頭をゆすって髪を広げる。
広げた髪からシャンプーの匂いが漂ってくる。
あ、この匂い、智のシャンプーと同じ……。
「好きな子、いないの?」
マネージャーがニコッと笑う。
髪を下ろしたせいか、部活の時とは違い、ひどく女っぽく見える。
「……います。」
「そっかぁ。いるのかぁ。」
マネージャーは笑いながら修の顔を覗き込む。
「可愛い?」
「……はい。可愛くて、綺麗で、カッコよくて、優しくて……。」
「ふふふ。大好きなんだね。」
修はマネージャーの顔を見て、顔を赤くする。
「でも、想いは通じてないんだ。」
修の視線は、遠くに見える街の明かりに注がれる。
「一生、言わないつもりです。」
「どうして?」
マネージャーが不思議そうに修を見る。
「傷つけるから……。」
修がさびしそうに笑うと、マネージャーが立ち止まった。
「好きになって、傷つけることなんてないでしょう?」
「あるんです。」
修は笑顔を作る。
智に言えなくても、触れられなくても、この気持ちは消えない……。
気づくと、修は抱きしめられていた。
群青色の闇の中で、街灯がところどころで灯っている。
部活終わりの汗ばんだ肌と、蒸し暑さが二人を包む。
修の鼻先を長い髪がくすぐる。
智の匂い……。
修はゆっくり目をつぶった。
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