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season #83
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年を越えて4月。
修の生徒会長も板についてきた頃、みんな2年生に進級した。
野球部は春の甲子園には手が届かず、
バスケ部も地区大会準決勝と順当なところで敗退した。
サッカー部は決勝まで行ったが、相手は全国に名を轟かす強豪。
相手にならなかった。
智の絵と和哉の写真も戻ってきて、昇降口の目立つ場所に飾られた。
他にも、昨年、賞を取った作品が数点飾られたが、
一番目立つ場所に陣取ったのは、「Sakura」と題された智の絵だった。
満開の桜とベンチ。
散り行く花びらと青空。
そこを通るたびに、生徒たちだけでなく、教師、父兄も顔を上げ、立ち止まる。
ある者は懐かしい青春を思い出し、ある者は儚さに涙する。
智は恥ずかしがったが、それでも、嬉しそうに自分の絵を見上げた。
その絵を見た時、一番びっくりしたのは修だった。
びっくりして、智を見る。
智は頬を染めて笑う。
笑ってまた自分の絵を見つめる。
その横顔を見て、修もまた絵に視線を移す。
修の思い出の光景が、二人の思い出の景色になって、
修の心がムズムズとくすぐったくなる。
だが、人だかりで、なかなか近くで見ることのできなかったのが、和哉の写真だ。
4枚の組写真は四角く並べられた。
1、2枚目が上の段、3,4枚目が下の段。
5人がそこで、その写真を見ることができたのはGWも過ぎてからだった。
自分たちを写した和哉の写真は、なんだか照れくさくて、
誇らしさの反面、恥ずかしさもこみ上げてくる。
特に、淳一と修は殴り合いを撮られているので、恥ずかしさ倍増だった。
「なんで殴り合ってたの?」
「原因は?」
友達だけでなく、教師からも聞かれ、二人は答えに詰まった。
智が原因だなんて、誰にも言えない。
その写真の前で、ほくそ笑むのは和哉だ。
売ってくれと言う常連の客もいたが、
「この写真は売り物じゃないから。」
と断り、代わりに文化祭の写真を売った。
写真は飛ぶように売れ、顧客もどんどん増えていった。
「ククク……。」
「何笑ってるの?いやらしい。」
雅範がじと目で和哉を見る。
「いやぁ、いい広告になったなぁと思って。芸術は広告性が高い。」
和哉がまたほくそ笑む。
「お前にかかれば芸術もあったもんじゃないな。」
修が肩を落として溜め息をつく。
「でも、このタイトル……いいよね。カズの優しさが現れてる。」
智がにっこり笑って和哉を見る。
和哉はびっくりしたように目を見開き、すぐに頬が染まっていく。
「カズに溢れてるのは優しさじゃなくて、嫌味とお金儲けでしょ?」
ひゃっひゃっひゃと雅範が笑う。
「雅範には、私の奥深い愛情は一生わからないでしょうね!」
和哉は腕を組んで鼻を突き出す。
「いいよ、いいよ。一生わからなくても!」
雅範が笑うと、和哉は雅範のお腹をグーで殴る。
二人の追いかけっこが始まる。
それまで、じっと腕組して写真に見入っていた淳一がポツリとつぶやく。
「うん。……いいタイトルだよね。
和哉の目に映る俺たちはこんなに輝いてる……。」
淳一が智を見ると、智と目が合う。
二人で顔を見合わせて笑う。
それを修が不満顔で見ている。
雅範とじゃれている和哉が、そんな3人を見て笑う。
和哉に気づいて雅範も笑う。
いつもの光景。
いつもの景色。
「智!帰ろう!」
和哉が声をかけると、智が笑顔で答える。
「うん。」
すかさず修が智の隣に並ぶ。
淳一がしまったと口を歪ませる。
「待ってよ~!」
雅範が智の後ろから抱きつく。
「きゃぁ!」
「離れろ!」
笑いながら、5人は一緒に帰って行く。
今日は太陽に向かって。
季節はめぐり、5人の周りの景色が変わっていっても、
5人の笑顔は変わらない。
切なくて、くすぐったくて、優しい。
今はきっとそんなseason……。
「Sakura」 高1 小野寺 智
この桜はきっと、100年前も200年前も同じように綺麗な花を咲かせ、
同じような景色を作ってきたのだと思います。
でも、この桜を見る者は違う。
今の僕がこの桜を見て思う気持ちは、きっと大人の僕には見えない景色。
だから、今の僕の見た桜を残しておこうと思いました。
大人になっても忘れないように。
「僕の見ている風景」 高1 西沢 和哉
僕の周りには楽しい人達がたくさんいる。
泣いたり、笑ったり、怒ったり、とにかく忙しい。
そんな風景を切り取ってみました。
いい奴らです。
ちょっとうるさいけど……(笑)
でも……。
僕の見ている風景は、いつでもこんなに温かい……です。
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