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額のキズ
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結局俺はペロリと梓月の作った料理をたいらげてしまった。
「ごちそうさまです。」
さすが俺、食した全ての命に対して敬意を払う。これが数千年続く儒教の掟だと言えよう。
「全部食べてくれた...ありがとう。」
嬉しそうにいうあいつになんだか照れてしまって言葉が出ない。とりあえず食後のティータイムを楽しむことにして、注がれたお茶を熱いうちに煽る。
「っあぁぢぃッ!!!」
「大丈夫!?...もう、、ゆっくり飲んで惠?」
さすがに入れたては熱かったようだ。
梓月に心配をかけてしまった俺はますます恥ずかしくなった。大丈夫だろうか。顔が赤い気がするが。
あ、お茶おいしい...。
「惠は本当に僕のこと憶えてない?」
「え.......あ、あぁ。」
突然の質問に少し困惑する。しかし俺はまた嘘を吐いたのだ。そこには確かな信念と呼べるものがあったはずなのに、罪悪感を感じてしまっている。
それもそうだ。
本当はよく見知っていた。小さくて可愛い女の子のような梶原 梓月を守ってやらねばと、自分はそう思っていた。
しかし、その矢先に梓月は突然の転校。連絡も取れなくなってしまい、俺の役目は終わったのだと。
そして梓月が戻ってきた今も、彼はもう誰にも守られるような存在ではなくなっていたのだ。憶えていたとしても、もう俺に残された道はない。過去は振り返らず、各々の道を歩むべきであると、そう思っていた。
ふと、彼の右手が俺の前髪に触れた。
長く綺麗な指が俺に、触れるーー。
梓月の熱が額越しに伝わった。
伸びる指。
かき分けた髪の奥には。
「これ、こんな風になってたんだ....。」
「お前...」
そこにあるのは額のキズだろう。ケロイド状になって、見るものからすれば痛ましく見えることもある。こいつと初めて出会った時、梓月をいじめていたやつらにつけられたキズだ。
こんなのよく憶えてるよなお前も。早く忘れりゃ楽なのに。
「ごめん......僕のせい、だよね」
それはちがう。
けして梓月は悪くなどない。
どんな人間でも自分では到底対処しきれない状況に直面することがあるものだ。そんな時は自分より強い人間に助けてもらうのが、世の中の常であり常識なのだ。
それによってたとえ俺が傷を負おうとも、けして梓月が責任を感じる必要はない。
「....お前のせいじゃねえよ、悪いのはあいつらだろ」
梓月は目の前の俺を見据えて、驚いたような顔をした。綺麗なダークブラウンの瞳が開かれ虹彩から入る光でキラキラと輝く。
「やっぱり憶えてたんだね。」
あ
「ちちちちちっちがうっ」
もう言い訳のしようがなかったがなんと誤魔化そうとする。結局墓穴を掘るだけだったが。
梓月の額の手が未だにキズをなぞっている。
「んっ...」
「痛いの?」
痛くはない。もう何年も前のキズだしかし、ケロイドとなって通常の皮膚がなくなっているソレは普通よりも敏感になっている。
「は.......っなせっ」
俺は反射的に奴の手を振り払おうとした。
すかしすぐに腕を掴まれて動けなくなった。
「梓月って呼んで?」
なんで、こんな。
「嫌だ、お前なんて憶えてないっ」
「......そう?」
こうなりゃヤケだと、死んでも梓月の思い通りになどしてやるものか。と思っていた。
ーーーーーードサッ
突然の衝撃に目を瞑る。
俺は今どこにいるのかと視界をさ迷わせた。
目の前に見えるのは綺麗な顔、その後ろには天井。
俺は床に押し倒されているようだった。
これは一体ーーーー。
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