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匠 3
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ホテルのロビーで恋人を待つ。懇親会は立食だし、一応挨拶が終われば三々五々。途中で抜け出してもわからない。
上原は元々約束に遅れることはないから、今日は絶対に約束の時間より早く来る。
待つ時間を楽しめるのも恋人の特権。だから二十分前には行く。そして駆け寄ってくる姿を見るためだけにここにいる。そんな時間を楽しむ。
「匠さん、すみません。長くお待たせましたか?」
エントランスを見ていたら、息を切らせて仔犬が駆け寄ってきた。
「いいや、待ってはいないよ。コーヒーを楽しんでいただけだ」
「お夕飯はもう済まされましたか?」
「軽くね。今日は二人で過ごす時間が一番大切だから」
上原はそんな言葉にさえ嬉しそうに笑う。幸せはこんな一瞬に詰まっている。
「お前は?」
「立食だったのでサンドイッチを少し」
「何か食べるか?」
「いえ。今日は人疲れしてしまいました」
早く二人きりになりたいのは俺だけじゃないらしい。合意を得たところで部屋へと移動する。
忠犬は嬉々として後をついてくる。いつもと違う街に居て、知り合いもいないと言う状況が上原の表情を柔らかくしている原因か。
「匠さん・・・」
「ん?どうした?」
俺の問いかけには答えずに、エレベーターの中で俺の小指に上原は自分の小指を絡めてきた。それから小さい声でささやくように言う。
「約束ですよ。来年も・・・そしてその翌年も。ずっと先まで」
アルコールは飲むなと言っておいたのに、何か口にしたのかと振り返ると俯いて耳まで赤くした上原がそこにいた。
「蓮、お前は・・俺をどうしたいんだ」
部屋に入ると窓からは圧巻の夜景。養うべき家族もいない。このくらいの無駄遣いは許されると、宿泊費を張り込んだ。昨日の夜は冷たく見えたその美しさが、何故か今日は熱を放って輝いている。
この景色もやはりこいつと一緒でなくては意味がない。俺の生活も上原が居れば熱を持つ。そして居なければば冷たい氷に覆われる。
「匠さん、綺麗ですね」
窓に両手をつけて外を無邪気に眺める恋人を後ろから抱きしめて首筋に顔を埋める。
「おかえり蓮」
「はい」
小さく返事をする上原の表情が窓に映る。ああ、俺にしか見せない顔だ。そしてその瞳が俺を誘っている。
ベルトを緩め抱き込んだ恋人のシャツをズボンから引っ張りだす。
脇から差し込んだ手の冷たさに上原がふるっと震える。腰から胸の方へと手を滑らせる。
「ん・・・」
上原の眉根がきゅっと寄る。身体を腕の中で反転させると窓を背にして腕を俺の背中に回してきた。
「ど・・・して・・だろ」
上原が不思議そうな顔をして呟く。
「ん?どうした?」
「・・・・何だか、変です。嬉しいのに何故か泣きたくなってきました」
その瞬間全ての留め金が外れてしまった。大切にしたいのに、狂うように求めさせたくてベッドへと引き摺り倒す。
見上げるその目に映る俺はどれだけ飢えているのだろう。上原は俺のジャケットの襟を掴むとぐっと引っ張った。噛み付くような口付けに翻弄されて流される。
燻っていた火が、大きく燃え上がりつま先から髪の先まで炎で包んで焦がして行った。
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