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第1話 彼と彼女と新生活と
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1LDKのフローリングの一室。
白いカーテンの隙間から、西日が、淫らな女の肢体を照らす。
影になっているのは、白さにほのかに色づいた男の身体。
男は、両手を伸ばし、女の乳房を乳首を擦りながら、優しく揉む。その繊細な手つきに女は、セミロングの髪を振り乱し、身体をしならせ、悦びを現している。
今日、三度目の交わり。
下からの男の腰の動きが、次第に激しくなれば、女の叫声もそれに相応して、獣へと化していく。
いつになく、まるで、男の突き殺さんばかりの勢いに女の意識は、遠のいた。
日は、すっかり落ち、セミダブルの濃いグレーのベッドに明かりもつけぬまま、裸のままの二つの身体が並ぶ。
背は、少しだけ女の方が高い。178cmの細く長い手足を隣にいる男にもお構いなしに伸ばしている。
男の方は、うつ伏せになって枕に顎を乗せ、つるがメタリックブルーのノンフレーム眼鏡を手に持ち眺めている。
「まーくん、さっきのどうしたの?三回目のとき、凄かったよぉ♪」
「どうって何が?俺のことより、夏希の方こそ、どうしたんだよ?ひとんち入る早々、押し倒しやがって。おかげで、眼鏡のねじ緩むしさ」
「ごめん!だって、まーくんの顔を久しぶりに見たらつい…」
永井雅哉(ながい まさや)の背中に鮎川夏希(あゆかわ なつき)が、抱きつくように後ろから自分の身体を重ねてきた。
肌から肌へ重みとともに夏希が持つ熱が永井へと伝わる。
「相変わらず、あっついなぁ。…それと、少し重くなったんじゃないの?」
「やっぱ、そう思う?あたしもさ。自分でも思ってたんだぁ」
「うん…。でも、胸も大きくなったんじゃないの?ひとまわりくらいはさ」
「やっだぁ。まーくん、えっちなんだからぁ。」
夏希が、嬉しそうにいい、上体を起こし、永井の眼鏡を取り上げ、近くのテーブルに置く。そして、自ら永井の右手を自分の胸へと押し当てた。
改めて、永井は思った。
以前は、少し片手では足りないくらいの胸だったのに一ヶ月ぶりに触れたそれは、弾力もボリュームも増している気がする。
それだけじゃない。永井は、今日の夏希との行為自体に違和感を感じていた。それは、キスのしかたなのか?声なのか??具体的に言葉では言い表せないのだが、
彼が、今まで触れてきた彼女とは、何かが違っていた。
「たく、どっちが、なんだか。」
やれやれといった風に言いつつも、永井は、身体を反転させると、迷いを消すように夏希の身体をベッドへと沈めた。
付き合い始めて、もう少しでニ年。二人が付き合うきっかけは、永井が夏希の家庭教師をしていたからだった。
だから、授業がある日を含めれば、去年までは、週三回は、最低でも逢っていた。だが、今年に入ってからは、
推薦で大学に受かり、暇を持て余している夏希とは違い、医師になるための国家試験を控えていた永井は、卒論と試験勉強の
両方に明け暮れていたので、逢うのは、月に三回に減ってしまっていた。
そして、いざ永井が国家試験に受かると、研修医として働く病院の手続きや引越し先の家探し。一方、夏希も大学が始まり、サークルにはいった。
もちろん、メールや電話で連絡は、とってはいたが、お互いの家を三十分弱で行き来できた永井が実家暮らしをしていた以前と違い、電車で片道一時間半の距離は、思っていたよりも二人を逢えなくさせてしまっていた。
そんなこんなで一ヶ月ぶりとなってしまったのだ。
今日は、GW中であり、夏希が、車で友達と軽井沢まで旅行に行った帰りに永井の新居を訪れたというわけである。
「軽井沢は、どうだった?」
もう少しで日付が変わるという時間に二人は、向かい合って、ジャージとTシャツという格好でソファに座って、永井が作ったカレーを食べている。
「…うん。楽しかったよ」
「いまいち、楽しそうに聞こえないなぁ」
「そんなことないよぉ」
先ほどまでの元気な夏希とは違い、永井の質問にどこか覇気のない返事が返ってきた。永井は、夏希の表情から、何かを
読み取ろうと、彼女の目をじっと見つめる。彼女は、微笑を作って何かをごまかそうとする。
「たしか、なおちゃんのお兄さんが経営してるペンションに二泊三日で、なおちゃんと夏希と…あとだれだっけ?」
「え?うんとね。なおとあたしとバスケ部の先輩の美咲さんとその彼氏の橘先輩と篤志先輩の五人だよ。
お母さんには、四泊五日って嘘ついちゃったけどね」
「ふうん。男とも仲良くやってるんだ」
「やだ。まーくん、その言い方へんだよ。」
「そうかな?多分、妬いてるんだろうな。女子高出身の夏希に入学して一ヶ月も経たないうちに男友達ができて、旅行なんて行ってる事にさ」
永井が、立ち上がり、空いている夏希と自分の皿を重ね、キッチンへと持っていく。
夏希は、その背中をじっと見送ることしかできなかった。
なぜなら、彼女は、浮気をしてしまったのだ。
相手は、田中篤志(たなか あつし)。
夏希は、高校時代と同じようにバスケを大学に入ってもしたかったので、サークルもバスケ部に高校からの友人のなおとともに入部。
男女とも仲がよく、歓迎コンパも男女混合だった。
その席で、夏希は、男子バスケ部の篤志と知り合う。
篤志は、色黒で195cmの逞しい体格と日本人離れした堀の深い顔立ちのせいか圧倒的な存在感を持っていた。最初に夏希に声を掛けてきたのは、
彼のほうで、気さくささと優しさに夏希は、何の疑いもばなく、篤志に心を開いた。
でも、彼の優しさには、下心があったのだ
旅行の前夜、篤志が電話で、『初めて夏希ちゃんを見た時から、好きだった。彼氏なんかやめて、俺と付き合って欲しい』と、告白してきたのだ。
彼女は、すぐに断ったのだが、翌日は旅行。夏希の車で行くことになっていたので、旅行をやめることもできず参加する。
そして、二日目の晩にできるだけ避けていたのにも関わらず、人気のない湖の周りをひとりで散歩をしていると、背後から抱きしめられ、改めて告白されてしまったのだ。
再び断ったものの、口唇を塞がれ、大きな身体に抗えるわけもなく、夏希は、そのまま押し倒されてしまった。
しかし、彼女は、永井とは違う篤志の強引で乱暴なやり方や野外というシチューションに感じてしまったのだ。
翌朝、彼女は篤志に言われた『夏希ちゃんが寂しいときに側に居てやれないんじゃ、彼氏なんていえないんじゃないの?俺なら、側にいて夏希ちゃんの欲求にいつでも答えてあげられるよ』という言葉が、
脳裏から離れず、永井の顔を見た途端、昨晩のことを忘れたくて、彼に襲い掛かったというわけだ。
結局は、忘れられるわけもなく、夏希の中で、永井は永井で、篤志は篤志でしかなかった。
永井は、もしや?と思って聞いた旅行の話の時の夏希の反応で、彼女の浮気を確信してしまった。
すっかり綺麗になってるはずの皿に水を流しながら、彼女に何かを言うべきか?ほっとくべきかと頭の中で、ぐるぐると考えてしまっている。
「なぁ?夏希~、もしも、心変わりするようなことがあったら、電話でいいからさ。一言、俺に言ってほしいんだ。」
水音に紛れつつも永井の言葉は、夏希の心に鋭く響く。夏希は、駆け出すと、永井の背中に抱きついた。
「やだ。まーくん、そんなことあるわけないじゃん。あたしは、まーくんが好きなんだから。まーくん以外欲しくないよ」
自分に言い聞かせるように夏希は、永井の耳元で口唇を寄せる。
「それなら、いいんだ。でも、これから、俺も明後日から研修医としての仕事始まるし、前みたいにすぐ逢える距離ってわけじゃないんだからさ。
身近に男がいれば、そっちに傾くのもしかたないかなって、思ったんだ。」
永井は、問いただすわけでもなく、自分の気持ちを素直に告げてみる。
「大丈夫。うん。大丈夫だよ。」
「そう…。じゃあさ、明日は、どうする?」
「ドライブ行きたいなぁ。まーくんの病院を見つつ、海見つつ、海浜公園みたいなところで、まったりしたいなぁ。もちろん、まーくんの運転でね」
「分かった。今日は、もう寝よう。旅行帰りで、夏希も疲れたろ?」
「うん…」
二人は、抱き合ったまま同じベッドで眠った。
翌日もドライブ中もドライブ後も二人は、戯れた。
翌々日、彼女は自分の車で帰っていった。
GWが明け、今日から、永井も”医者”となる。
永井が、今年研修医として、行く場所は、海の側にあるY市立附属大学病院の第二外科。永井が卒業した大学の附属なので、通いなれてはいるが、自分の家から職場に行くというので、
気分は違う。
永井の家からは、だいたい三十分程かかる。学生時代と比べれば、本当に楽な道のりなのだが…。
満員電車。永井は、ドアの隅に立って、身動きが取れない状態にいる。外の景色を眺めながら、それに耐えていると、自分の背後に異変を感じた。
身体が触れてしまうのは、しかたがないことだが、明らかにそれは、意図的である。
背後から伸ばされた左手は、永井を逃がさないように永井が手すりを掴んでいるより上の位置で手すりを掴み、空いた右手で、永井の尻をやんわりと撫でている。
はあはあと興奮しきった荒い息が、永井の白い首筋に当たる。
またか…。永井は、嫌悪感に眉間に皺を寄せる。
痴漢に遭うのは、初めてではない。
初めて遭ったのは、進学塾に通いはじめた十三歳の時だった。まだ背が低かった永井は、自分より遥かに大きな身体の男に怖気づき、涙を堪え黙って耐えるしかなかった。
以来、何度か遭遇した。
永井は、ため息をつくと、すばやく尻を撫でる男の手首を掴み、振り向いた瞬間、電車が揺れ急停車した。
『急停車をお詫びいたします。只今、線路に石が落ちており、点検のため停止いたしました。もうしばらく、お待ちください』
バランスを崩した永井は、男の手首を引き、逆に自ら男を引き付けてしまったのである。
年は四十代くらい。背は、永井が思ってたよりも高く、小太りな身体で、永井を見下ろしながら、脂ぎった顔に不気味な笑みを浮かべている。
「あの、ひとの尻を撫でるのやめてもらえませんか?」
言おうとしていた言葉を言ってみる。
「なんのことですか?それよりも、あんたの方こそ、こんなおやじの手首掴んで引き寄せて、どういうつもりだ?」
「どうって…。たまたま電車が急停車したから、バランスを崩しただけですよ。」
「たまたまね。俺もたまたま触れただけだ。まったく、勘違いも甚だしい。早くその手首をはなしたまえ」
「…分かりました。」
永井は、しかたなく男から手を放した。すると、男はその手で永井自身を包んだ。永井は、身を捩り逃げようとするが、男に逃げ道を塞がれているため、逃げることが出来ない。
調子に乗った男は、永井のジーンズの中に手をいれ、直接永井に触れてきた。
「せっかく、誘ってもらえたんだ。しばしの間、応えてやるよ。」
「や…めてください。大声出しますよ。」
「男に痴漢されたなんて、誰が信用してくれるんだ?それに俺を引き寄せたのはあんだだろ?いい感触だね。顔を見ながら出来るってのもなかなか興奮するな」
「……」
永井自身を揉みニタニタ笑いながら、男は小声で言う。永井は、男から目を逸らし、電車が動き、永井か男が降りるまでの間を耐えることにした。
せめてものは救いは、自分自身が、まったく反応しないということくらいか。
あと二駅なのに…。
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