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郁也の震えは止まらなかった。
生きた心地がまるでしない。
どうして?何で僕、あんなことしちゃったんだ…!
心の底から悔やんだ。
もっと自分が注意深く走っていれば、そもそも、体育のレポートをちゃんと当日に出していれば…!
どれも今となってはどうしようもないことだとわかっていたが、そう思うことしかできなかった。
激しい頭痛に襲われながら、4限を終えた。
しかし本当の地獄はここからだった。
郁也の友達は数少ない。
隣のクラスの青木とは小、中と同じで、今でも仲はいいが青木はサッカー部に入っていて、そのチームでお昼ご飯を食べるため、郁也はいつも一人で食べいていた。
寂しくないといえば嘘になるが、特別いやな訳ではなかった。
好きな音楽を聴きながら兄が作ってくれた弁当を広げる。
至福のひと時でもあった。
郁也に父親も母親もいない。
いないも同然だった。
まだ郁也が乳幼児だったころ、母親が自殺した。
原因は父の酒癖や女癖の悪さ、極め付けはDVであった。
母はとても美しく品のある女性だったと、郁也は兄から聞かされていた。
しかし、父は反省する気もなく、まだ2歳の郁也を絞め殺そうとしたことがあった。
兄は自分と、何よりも郁也の身が危ないと感じ、家にあるすべての現金を手に、郁也を抱えて小さなアパートで大家さんに頼み込み一晩泊めてもらったんだと言った。
そのまま家賃を払い続けて今も住まわせてもらっている。
これが郁也が兄からきいた話の全てだ。
そんなわけで郁也にとっては兄がすべてなのだ。
兄が、郁也の世界なのだ。
兄の料理は最高に美味かった。
特に郁也は卵焼きが大好きで週に4回は決まって卵焼きを入れてくれる。
今日も変わらず入っているだろう。
しかしこわい。
恐かった。
麗華たちが絡んでくるのは予想できていた。
何をされるのかわからない。
また恐怖で震えがさらに止まらなくなった。
「いーくやくーん。」
後ろで陽気な声がした。
ぞっとした。
背中が凍った。
圭吾の腕が郁也の首に回される。
傍から見ればきっと仲のいい男子がじゃれあっているくらいにしか映らないだろう。
「お前いっつも一人飯だろ?かわいそうだから俺たちが一緒に食べてやるよ。」
圭吾の方を見なくてもわかる。
きっと圭吾はいつものようにニタニタと不細工な笑顔をこちらに向けているんだろう。
不意に麗華の白い指が郁也の頬に触れた。顔の筋肉がこわばる。
「へぇー小野寺って、割とかわいい顔してんのねぇ~。」
麗華は郁也の頬をその伸びた爪で思い切りつねった。
激痛に思わず顔を背け、声が出る。
「やだぁワンちゃんみたい。ワンちゃんの今日のご飯はなぁに?」
麗華が甘い声でそう言いながら、郁也の弁当箱を開けようと風呂敷を解く。
やめて、やめてくれ!
きっと床か外に捨てるんだろっ!わかってるんだ!
頼むから兄ちゃんのご飯を粗末にしないで…っ!
心のなかでは言葉になるものの、声に出ない。
まるで声帯自体が消えてしまったかのように。
麗華は風呂敷を解くと弁当箱を開けた。
「やだぁーめっちゃおいしそ~!でもワンちゃんはお弁当なんて食べないもんね。」
いかにも都会の女子ですというきゃぴきゃぴした声から打って変わって低く重い声を発すと同時に、案の定、麗華は弁当をひっくり返し床にばらまいた。
兄が朝早くに作ってくれたおかずやご飯が床に散らばる。
郁也はただ座ったまま、それを見つめるしかなかった。
しかし、それだけで終わらなかった。
麗華は郁也の風呂敷を手に取りそれを散らばったご飯の上に敷くと上靴でその上を踏み始めた。
ねちねちとご飯とおかずが潰れる音がする。
さすがに頭の芯が冷たくなり、怒りを通り越して軽蔑した。
なんて低能な女なんだ!
イカれてる…っ!
郁也は軽蔑と怒りのまなざしで麗華を睨んだ。
圭吾もさすがにこの行動は予想していなかったらしく郁也の首に腕を回したまま麗華の奇行を見守っていた。
そして突然椅子から引きずり降ろされた。
あまりに不意打ち過ぎてうまく手をつくことができず、右肩を強打した。
何?誰が?
郁也は混乱しながら犯人を見上げた。
そこにいたのは圭吾ではなく、夏目宏行だった。
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