アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
14
-
正直、郁也は奏多が怖い。
一限目の休み時間の言葉が頭を離れない。
あの後、何事もなかったかのように、クラスメイトは奏多を取り巻き、あれやこれやの質問タイムが始まっていた。
麗華や圭吾はというと、二人とも一限目の休み時間以降様子見なのか、郁也にも、奏多にも近寄らなかった。
そして昼休みがやってきた。
「郁也、一緒に食べよ。」
微笑みながら郁也の机に弁当箱を置く。
奏多君から、来てくれた...。
積極的に係ろうとしてくれた人に多く会ってこなかった郁也にとって、それはうれしい行動以外の何物でもなかった。
もしかしたら、休み時間の言葉は冗談で、奏多君なりにいじってくれただけなのかも...。
という都合のいい考え方をして、郁也は二つ返事に奏多と昼食をとった。
郁也も自分の弁当を取り出し、風呂敷を解き、弁当箱を開ける。
今日のおかずは唐揚げと卵焼き、そして昨日の残り物の野菜炒め、それにタコさんウインナーが入っていた。
お、お兄ちゃんってば、この年にもなってタコさんは恥ずかしいよ!
突然のタコさんウインナーの登場に思わず頬を赤らめる。
きっと奏多君、子供っぽいなって思っただろうなぁ...。
そして案の定、
「ん?うっわ、なに?めっちゃ美味そうじゃん?タコさんウインナー入り?」
奏多はクスッと笑みをこぼした。
その一つ一つの動作さえもしなやかで美しく見えて、笑われたことなどどうでもいいように感じられた。
そして奏多も弁当箱を開く。
郁也は自分の目を疑った。
それもそのはず、奏多の持参した弁当は白飯のみだったからだ。
こ、これはおかず譲ってあげるべきだよね?間違ってないよね?
「え、えっと、お、おかず、どれかあげよっか?」
こういう時の対処法を知らない郁也はあたふたしながらもそう呟いた。
その瞬間、上から目線過ぎたか、偉そうに聞こえたんじゃないか、こんな同情めいたこと、相手に失礼だったんじゃないか、という不安が募る。
しかし、奏多はその不安を吹き飛ばした。
「え?まじ?ふふっ、郁也って優しいのな。」
ありがと、と言いながら「唐揚げもらってもいい?」と尋ねてきた。
「全然大丈夫だよっ、」
本当は唐揚げも好きだったが、それよりも奏多が郁也の言葉を素直に受け取ってくれたことがうれしく、郁也もついついにこにこしてしまう。
「なににやにやしてんの。かわいい。」
真顔でそう言われ郁也はハッと我に返る。
「に、にやにやなんてしてないよ。」
気持ち悪く思われた?
またそんな不安がよぎる。
「いんやしてたね。写真撮ったし。」
「え?!け、消してよ!」
「うそだよー。」
奏多の軽いノリにまんまと乗せられ郁也の方がまた熱くなる。
こうしてからかわれるのは初めてでどうしていいかわからない。
俯いて顔を赤らめる郁也の頬の指先が添えられる。
冷たい指先だった。
はっとして前を向くと、心配そうに顔を歪める奏多がいた。
「もしかして怒った?」
頬の添えられた指が郁也の肌を撫でる。
「お、怒ってないよ!た、ただ、慣れてないだけで...。」
誤解を生んでしまったことに申し訳なくなると同時に情けなくなった。
これくらい冗談だって普通ならわかるよな...。
「もしかして、郁也ってボッチ?」
痛いところを突かれて心臓がキュッと痛む。
うなずくのもなんだか嫌で、それでいて否定もできない、さらに自分が情けなく思え、惨めな気持ちになった。
「ふぅーん。まぁ牛乳ひっかけられるくらいだもんな。」
顔に似合わず白飯を大胆にかきこみながら放つその言葉に、また郁也は傷ついた。
どうして人が触れてほしくないところにこの人はこうも簡単に触れれるんだろう...。
これが奏多のどこかカリスマじみている要素の一つなのかもしれないと郁也は思った。
「なんでいじめられてんの。」
一段落ついたところで奏多はまた口を開いた。
「そ、それは...。」
その先が出てこない。
答えたくない。そもそも自分がどうしていじめられているのかももはや明確ではない。
ピアスを壊してしまったことだけが原因だとは郁也はどうしても思えなかった。
「まあどうでもいいけど。」
郁也がもやもやしていた矢先に奏多は話題を変えようといわんばかりに、そう呟いた。
それ以降の会話はほとんど郁也の記憶にない。
確か趣味はなんだとか、ペットはいるのだとか、そういった類だった気がする。
奏多は話し上手で明るく、確かに少しデリカシーにかけるが、基本的に好印象だった。
この容姿にこの性格とは、神は平等だとはよく言えたものだと郁也はつくづく思った。
おまけに愛嬌のある表情から、思わず見とれてしまうほど美しい憂いの表情をみせる。
言ってみれば天使のようなもの。
しかしこの芹沢奏多こそ、本物の悪魔なのである。
そのことを思い知るのにそう時間は長くなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
17 / 23