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18※
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「え、」
圭吾が声を漏らした。
宏行のどこか冷たい瞳が郁也の瞳と交差する。
郁也は目をそらす。
郁也自身なぜそらしたかはわからない。
だが、少し期待してしまっていることは否めなかった。
「…誰だっけあんた。」
奏多とは思えない冷たい表情で静かに呟く。
きっとクラスの女子が見たら凍りつくだろう。
しかし郁也はこの目を知っている。
どこまでいっても冷たい、底のない絶望を誘う、それでいて本能的に美しいと思えてしまうこの瞳。
宏行は奏多の方へゆっくりと歩み寄る。
「あれ、俺のオモチャだから。」
宏行の鋭い瞳が奏多を写す。
宏行も高身長でスタイルはいいものの奏多の方がわずかに高い。
「郁也はまだ誰のもんでもないでしょ。勘違い乙。」
「まだ、な。」
何話したんだろう、聞こえない、
ただ最後に奏多の舌打ちだけが響いた。
「おい圭吾。」
「う、うす!」
「てめぇ勝手に遊んでんじゃねぇよ。調子乗んな。」
圭吾に脛に蹴りを入れて顎をクイッと動かし出て行く様に命じる。
「す、すんませ」
圭吾に続き生徒たちもトイレから出て行った。
宏行の瞳と郁也の瞳がまた合わさる。
宏行の瞳の中に一瞬の暖かさを感じた。
その瞬間郁也の心臓が小さく跳ねた。
と同時に奏多が向かってくる。
郁也の視線はすぐにそらされ奏多の方へと注がれた。
「よしよし、ごめんねびちょびちょにしちゃって。」
郁也の濡れた頭を優しく撫でながら謝る。
しかしその言葉に感情などこもっていなかった。
奏多の肩越しに宏行がトイレから出て行く姿が見えた。
「まっ…」
郁也が引き止めようと腰を上げようとした瞬間、顎を掬われた。
その時の奏多の瞳を郁也はきっと一生忘れない。
哀しさ寂しさ憎悪嫉妬独占欲にまみれたなんとも言えない色をした瞳。
思わず身が震えた。
「ごめんね。」
そう言いながら口元は微笑んでいる。まるでいたずらに人を待たせて楽しんでいる小悪魔の様な微笑みだった。
「いいよ」反射的にそう言ってしまいたくなる気持ちを抑えて郁也は俯向く。
絶対に許さない。
こんなに人を憎んだのは初めてかもしれない。
勝手に期待していたとはいえ、少なくとも郁也に親しくしてくれた。
郁也にとってとても大切な存在となっていた。そんな人から一番されたくない仕打ちを受けた。
この屈辱感と悔しさと悲しさを郁也は初めて味わった。
信じてた、期待した、助けてくれると思ってたのに、友達じゃないの?友達は、こういうの、止めてくれるんじゃないの?
郁也の中で様々な疑問と嘆きが起こる。
目頭が熱くなり胸がグッと苦しくなり視界が歪み始めた。
「あーもー泣くなよー、面倒だな。」
本当に気だるそうにため息をつく。
郁也の濡れた前髪をかきあげて奏多が覗き込んできた。
やっぱり、綺麗な顔、
怒っていてもそう思わざる終えない圧倒的な美しさに思わず見とれそうになってしまう。
その気持ちを抑え、俯き目を反らす。
僕は今怒ってるんだ、そう簡単に許せるもんか。
「泣いてない、」
「何その見え透いた嘘、可愛いだけだよ。」
おふざけのトーンではなく真剣な静かなトーンで呟かれたその言葉に郁也の胸が少しキュッとなった。
不思議だった。
今の奏多といるとさっきのことはまるで夢だったかの様に思える。
本当に奏多が?
そんな疑いを持ってしまうが、紛れもなく、奏多なのだ。
この時改めて郁也は底知れぬ恐怖を奏多に覚えた。
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