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実践(後)
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土ノ矢巳輝は『彗星』だったという衝撃の事実を明らかにしただけではなく、訳の分からないことを言った。
いま、彼は、俺を、どうすると言った?
「俺、を?」
「重松英秋を手に入れると決めた。で、調べてみたんだ。重松英秋と俺との『匂い』の照合を。そうしたら」
土ノ矢巳輝が、目を細める。
「いい確率で合致したよ」
「何、言って……あ……?」
甘い声で告げられた結果を耳にした途端、くらり、と急に眩暈を感じてイスに深く座り直す。
座ればすぐに全身が火照り出し、鼓動が早まる。
海外逃亡にあたり、体調も整えてきたから健康には自信があった。なのに、この身体の変化は一体、どうしたんだ?
「ああ、ようやく効いてきたな」
「紅茶を然程口にしなかったから効果が遅かったようですね」
テーブルに伏す俺を覗きながら塔堂柳徳が呟く。
紅茶……効果?
「な、ぃ……?」
「秘書を生業とする者は皆匂いを消し、感知しない薬を飲むだろう。それを解除する薬を、紅茶に入れておいたんだ」
悪戯が成功したような、楽しそうな土ノ矢巳輝の声。
解除する薬、を盛られてその効果が出たのだとすれば、この火照りと尋常じゃない動悸は、匂いに反応した『発情』?
「秘書が嫌ならそれで構わない。つがいになってもらうだけだからな」
「ぁ……」
冗談じゃない、と言いたいが『ぅあ……』という単語にもならない声しか出ない。
焦る俺の意など関係なく
「さ、結果発表は終わりだ。重松英秋を残して解散してくれ」
土ノ矢巳輝の堅固たる声での最終通告に、各自が思う所がありながらの解散となった。
「ぅ……ぁあはぁ……っんんっ!」
ぐちゅ、という淫らな音を聞きたくなくて耳を塞ぎたいのに、俺の手はシーツから離れてはくれない。
ハズカシイと思って身を捩ろうにも、背後から覆い被さる土ノ矢巳輝のせいで、うつ伏せで尻をあげるという姿勢を変えることもできない。
火照った体を慰めてやるからと笑顔の土ノ矢巳輝に裸にされ、ベッドに落とされたのはもう何時間も前のこと。慰めると言いながら焦らしまくり、気が付けば尻穴に奴の剛直が突っ込まれていて。
俺の中で土ノ矢巳輝がイったのはわかったが、それが何回だとかそんな数を数える余裕もなく時間が過ぎていて。
「も、やめ……っ」
「まだ欲しい、の間違いだろう」
背中の向こうで訂正され、土ノ矢巳輝が俺の陰嚢をやんわりと握る。
「あっ……んっ……ン、……はっ」
全身を駆け巡り、脳まで痺れる快感。今まで知らなかった感覚に、戸惑うよりも溺れてしまいそうになる。
匂いの抑制薬を飲んで欲情は抑えてきたとはいえ、身体の調整のために定期的な自慰で射精はしてきた。が、短時間でここまで射精したことは一度もない。
「ここもまだ満足していないようだ」
土ノ矢巳輝が腰を動かせば、俺の中にある奴のペニスが動いて
「だめ……ぅあっ!」
快感から逃れたくて彼を止めたいのに、出るのは制止の言葉ではなくて―――切ない息と嬌声。
「もう、む……っ」
俺の硬くしなり切ったペニスが扱かれる。何度もイってるので、射精も辛い。なのに、土ノ矢巳輝は止める気配もない。
「ここも満足させなきゃな」
耳元で囁やかれると同時に胸に電流が流れた。土ノ矢巳輝が乳首を摘まんだのだ。舐められ吸われ、時間をかけて楽しまれた乳首は既に赤く尖っていて、掠った程度の刺激でさえ痛みを感じる。
「あ……やぁ……っ」
零れる涙は痛みのせいなのか羞恥のせいなのか、限りない快感のせいなのか、自分でもわからないし、考える余裕もなく。
「どこもかしこも、満足させてやるよ」
既に満足しているという言葉は土ノ矢巳輝の舌によって止められて。
「あ、……ンッ……は……ぁ」
舌と唾液が絡められ、唾液の甘さと舌の刺激に酔い。
俺は抵抗を完全に放棄した。
陽の明かりで目覚めると、ベッドで土ノ矢巳輝にがっちりと後ろからホールドされていた。
「おはようございます。コーヒーと紅茶、どちらになさいますか」
雄の匂いが充満している部屋のベッドで全裸の男が二人寝ているのに、それを気にする様子は微塵も見せず塔堂柳徳は清々しい笑顔で挨拶と希望を訊いてきた。
「……オレンジジュース」
「すぐに準備いたします」
掠れた声の嫌みも含めた俺の返事に、塔堂柳徳は己の言葉通り時間を然程置かずに橙色の液体をなみなみに注いだグラスと共にベッドサイドに戻ってきた。
「どうぞ」
コップを差し出されたので、腰に廻っていた土ノ矢巳輝の腕を力尽くで外して身を起こす。
微笑みを浮かべる塔堂柳徳からコップを受け取り、乾いた喉を液体で潤す。
嗄れた喉に少々沁みるけれど
「……美味しい」
手作りであろうそれは、無意識に感想を言うほど極上にうまかった。
「ありがとうございます」
「なあ、第一秘書として、良いのか?」
何を? と首を傾げる塔堂柳徳。
もはやこの部屋にいる男たちが主人だろうが憧れの秘書だろうが土ノ矢本家の相手だろうが年上だろうが、敬語を使う気にならない。塔堂柳徳も気にしていないようなので、そのまま続ける。
「こんな、後始末を仕事にされていいのか」
秘書は秘書であって、召使じゃない。セックス後の生々しい現場で接客などできるものなのか。
「巳輝様に秘書に重松英秋はどうかと進言しましたのは私ですから、こうなることは予想済みです」
塔堂柳徳が、重松に俺と満を?
「日々楽しそうにあなたとのやり取りをしていましたからね。いかがですか、と申してみました。私がそう告げるまで、巳輝様自身はあなたへの思いに気付いてはいらっしゃいませんでしたが」
その言葉を聞いて、塔堂柳徳を恨みがましく睨みつける。
主人にとっては有能でいい部下かもしれないが、なんて余計なことをっ
「英秋さんをぜひ巳輝様の秘書にと重松家に話を持ち込んだのですが、英秋さんではなく満様だろうと執拗に言われましてね。仕方なく秘書応募という形にして、改めてその試験に満様と英秋さんお二人に受けていただきたいとお願いいたしました。まあ、あなたが巳輝様のお傍に来られる公の理由があれば何でもよかったのですが」
結果がわかっている試験なのに、それを受けろと命令されたことを不思議に思っていたが、そういった経緯があったのか。
「面倒だが、お前を公式に手に入れるには、誰かの目の前で納得させる必要があったからな」
コーヒー、と塔堂柳徳に言いながら土ノ矢巳輝がのそりと起き上がった。
塔堂柳徳は主人の命令に頭を軽く下げて退室していった。それを見届け、ずっと抱いていた疑問を土ノ矢巳輝にぶつける。
「ジョーカー家は……俺のことを騙していたのか」
「騙した、というより楽しんだが正解かな。ジョーカー家の当主が面白い物好きってのは知っているだろう。向こうが欲しがっていた情報と引き換えに、お前を手に入れる計画に乗ってもらった。お前が手に入らないことは相当残念に思っていたぞ」
楽しめるし欲しい情報も手に入る、となればジョーカー家の当主が俺ではなく土ノ矢巳輝と組むのも仕方がない、が。
「慰めなどいらない」
様々な事情を知り今更腹を立てても仕方がないとわかっているものの、納得しきれず憮然となる。胸のモヤモヤを何とかしようと向けた矛先は、香ばしい香りを放つコーヒーを運んできて土ノ矢巳輝の傍らに立つ塔堂柳徳に決めた。
「塔堂さん。あんた秘書、やめるんじゃなかったのか」
「秘書は辞めますよ。まあ、十五年後くらいに予定していますが」
それは定年って言うんだ!
くっそ、どいつもこいつも、良い笑顔浮かべやがって。腹の中が探れやしない。
「怒っているのか?」
「怒るだろう!」
長年思い描いてきた計画が全て塵となった。しかも。
「何でお前と相性がいいんだ!」
逃げるに逃げれないじゃないか!
何であんなに身体の相性が良かったんだっ! 相手が男だろうが女だろうがつがいなんて見つけるつもりなかったのに。
快楽に堕ちた自分に対して腹が立つ。
「第二秘書として働くか、つがいになるか……どうだ?」
諦めろと笑う美貌の男。
いや、俺はまだ諦めたくない。身体を一度……一晩で何度も繋いだとはいえ、俺の未来だ。
「秘書になっても表舞台には出ないぞ」
「俺が出ないのだから必要ないだろう。そういうのは大抵」
「私が出ていますね。それが土ノ矢巳輝付きの第一秘書の役割ですから」
なるほど、だから『第二秘書』なのか。
いや待て。
「土ノ矢巳輝。あの時『いい確率』って言っていたな」
「俺達の匂いの照合のことか? ああ、そうだ」
「ということは、互いにもっと相応しい別のつがいがいる可能性が高いということだな」
「ま、いるにはいるだろうな」
「俺はあんたに最上のつがいが見つかるまでの繋ぎか?」
最高率ではないということなら、匂い適合がより高い相手が見つかれば俺を捨てることもあり得る。
ただ性欲を解消したいだけなのか、と疑いの目を向ければ土ノ矢巳輝は呆れたような溜息を一つ零した。
「俺がどこでお前以上のつがいを見つけることができるというんだ?」
「それは、パーティとか……」
いや。
引きこもりとして有名な土ノ矢巳輝は、パーティには参加しないか。
「お見合いとか?」
「なんでそんな面倒なことで外に出なきゃいけないんだ」
頭を振る土ノ矢巳輝と、主人の言葉に頷く塔堂柳徳。
「巳輝様はお見合いの話など、完全に耳に入らないようにしていますよ」
「俺を楽しませてくれたお前以外、つがいにしようなんて思ってないからな」
「男だから子供は産めない」
「子供の世話をする自信などないしこだわりもないから別に構わない。土ノ矢の跡取りは既にいるしな」
確かに土ノ矢巳輝は土ノ矢の三男坊だ。土ノ矢の長男には子が二人いたな。
「引きこもるぞ」
「俺も引きこもりだ」
確かに。それは全国的に有名な話だった。
「啓との交流は止めないぞ」
「お前の大事な従兄弟なのだろう。それにモニター越しだしな。構わない」
啓との連絡は続けていいのか。
「啓以外の重松とは一切かかわりたくない」
「そんな簡単なこと、俺にできないとでも?」
できるだろうな。そもそも、土ノ矢巳輝が普段どこに住んでいて何をしているのか誰も知らない。情報操作の腕は土ノ矢巳輝の上をいく者などいないのだろう。
俺の抵抗に対して即座に返される土ノ矢巳輝の言葉。
全てが俺の希望通りの返答だった。
「なら、いっか」
自分らしい生活ができて、重松との関わりが断つことができて、啓と交流は続けられる、十分じゃないか。
それに、一度だけ見ただけなのに忘れることのなかった土ノ矢巳輝のこと。当時俺は二次性徴前後だから土ノ矢巳輝との匂いの反応は曖昧だったが、匂いを抜きにして俺は彼に一目ぼれしていた、のだろう。多分。
それに彼は憧れだった『彗星』だ。彼と四年交流して嫌な思いなど一度もなかった。
きっと『匂いがいい確率で合致した』ことは、俺にとって土ノ矢巳輝とつがいになるための後押しなのだ。
土ノ矢巳輝は第二秘書でもいいと言っていたが。
「秘書は性分じゃない」
輝く黒い瞳に向かって小さく告げる。それはもう十年以上前からわかっていたこと。だから。
顔を近づけ、軽く唇を合わせる。そして。
「俺をつがいにしてくれ」
吐息混じりに囁いた。
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