アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
青もみじの君-伍
-
「貴方は…貴方が一番お辛い時に何もできなかった私を……赦すと仰るのですか」
その言葉に、僕は深く息を吐いて、頷きました。
「赦すもなにも、あれは--すべて…しきたりでしたから。兄様のせいじゃ、ないでしょう?」
しかし、それを聞いた兄様は、目を見開いて、さらに泣きそうに、怒りすら滲ませて声を張り上げました。
「貴方はっ--!!朱雀様をお産みになった時、抱かせることも、一目見せることすらせずに貴方から取り上げた私をっ…、離れに1人、死にたいとまで思わせるほどに孤独に過ごさせた私を、それを今まで一度も謝ろうと声もかけなかった私を、赦すと!?どこまで貴方は、その御身を犠牲にする--!」
興奮のあまり立ち上がってそう叫ぶ兄様に、僕はそれでも、穏やかな気持ちでありました。
兄様を恨む気持ちなんて、本当に微塵もないのです。
「兄様、どうぞお座りください。
……僕は、自分を犠牲にしているつもりなど、ありませんよ。
それに、兄様は、しきたりに縛られる中、僕に最大限のことをしてくださいました。
兄様は--、あの時、朱雀様を産んだ時に、男の子です、と……元気な男の子ですと、僕に教えてくださいましたね。それがなければ僕は、自分が産んだのが息子だったか娘だったか、それすらきっと、わからなかったでしょう。たとえ5年もの間お顔を拝見できなくても、息子であると知っているだけで、どんな容貌か、どんな性格か、想像することができたのですよ。
--それに、この1年、兄様は僕の孤独を癒してくださりましたよ。兄様からのお手紙で、鷹仁様の近況も、朱雀様のご様子も知れて、真白様のこともわかったのですから。
しきたりをなくそうと、ご尽力いただいたと…鷹仁様から聞きました。--それだけで、僕には充分です。
あれは誰も悪くなかった。仕方のないことだったんです。
しきたり通りなら、僕は一生あの離れにいたかもしれない。それを、兄様と鷹仁様が彼処から救い出し、今のこの生活をくださった。それだけで、感謝してもしきれません。
だから兄様。どうかご自分を責めないで。
--もし、これから兄様にとって、僕の存在が苦痛でなかったのなら……、たまに、昔のように、また僕とお話ししてくださいませんか?」
長いこと1人で話していた僕の最後の言葉に、今度こそ兄様は涙をひとすじ流され、そして正座をしたまま、深く、深く頭を下げられました。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
27 / 47