アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
青もみじの君-陸
-
「それで彼奴は珍しく機嫌が良かったのか」
その夜。
夕餉の後、晩酌を愉しむ鷹仁様にお酌をしながら、昼間の兄様とのことをお話ししていました。
「兄様はご機嫌だったのですか?」
涙を流して、噛みしめるようにお礼を仰って部屋を出ていかれた兄様が、ご機嫌だったなんて。
「ご機嫌と言うか…まあ、お前とまた話せるのが嬉しいのだろうよ。……ったく、だから嫌だったんだ」
「そうでしたか。…ふふ、鷹仁様?何度でも申し上げますが、僕がお慕いしているのは鷹仁様、ただお一人にございますよ」
「そうだな、わかっているつもりだ。…ただな、葵」
「え?わっ…鷹仁様!お召し物が濡れてしまいます!」
鷹仁様によって急に腰から抱き寄せられたために、徳利が倒れ、お酒が溢れてしまいました。
それを気にして騒ぐ僕の口を、五月蝿いとばかりに塞いだ鷹仁様はしかし、暫くそれを離してはくださりませんでした。
「たか、ひとさま…」
思考が鷹仁様一色になるまでとろけて漸く解放された僕に、鷹仁様はその瞳に熱を込めて仰いました。
「葵。お前の伴侶が、どれだけ嫉妬深く、狭量か、よく覚えておけ。そして5年間の離別が俺をどれだけお前狂いにさせたか、よく考えて行動しろ。…そうでなければ俺は---」
きっとお前を、息もできない程に締め付けてしまうから。
そう仰って、鷹仁様はその場で僕を愛されました。
真夜中、いつのまにか移動させられていた布団の中で、僕はふっと目を覚ましました。
目の前には、まるで彫刻のような完璧な造形の寝顔。
僕を強くその腕に抱いたまま眠っている、鷹仁様のその麗しいお顔を見つめていると、あの孤独の日々に心の奥底に押し込めたはずの、なんだかとても黒々しい感情が湧き上がってきてしまいました。
ねぇ、鷹仁様。
鷹仁様が僕を求める言葉をを聞いた僕が、どれほどの幸を、悦を感じたか。どれほどこの胸に満足を覚えたか。
きっと貴方は、いつまでも本当にそれをお分かりにはならないのでしょうね。
僕はずっと、貴方への愛で、この胸が張り裂けそうだというのに。
貴方はいつも、ご自分の愛の方が深く重いと仰って。
僕はもう二度と、貴方を離してはさしあげられないのに。
もう二度と、誰かに貴方を譲るなんて考えられないのに。
貴方は僕を愛していると仰るけれど、それでもきっと、いつか僕がいなくなっても貴方は生きてゆける。
今滝寺の当主として、朱雀様の父として。
…僕は貴方がいなければ、僕として生きてもゆけないのに。
「…僕を、捨てないでください---」
絶対に。
もし再び貴方から離れなければならなくなったなら、その時は---、
きっと僕はどんな手を使ってでも、あなたを永遠に僕のものにしてしまう。
「愛しています…誰よりも」
息もできないほどに、僕を捕らえて離さないで
いっそ恐ろしいほどに愛して、抱き締めて
僕にはそれが、幸せだから。
青もみじの君-完-
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
28 / 47